リトルママ
お元気ですか?
サン・チャイです。
前回の戦闘で怪我をしてから後方の病院で遊んでたんだけど。
一週間で追い出されちゃった。
また最前線に戻って、上官らに挨拶を済ませてから。
重歩兵整備ハンガー内備えのテレビ電話で。
司令部の受付嬢と会話するんだけどね。
画面見ながら思うんだが。
この娘はいつも俺のことを子供扱いするが。
自分だってネンネじゃないのかなあ?
「はい、はい。それがですね」
「それは聞いてますよ、チャイさん」
「あなたの新しい機体は、まだ届いておりません」
「はあ?では俺はどうすればいいんですか?」
「話は順番ですよ?聞きなさい」
「はい、すみません」
「チャイさんの新機体は、新型ですので」
「本国で輸送が止められています」
「規格審査が通りませんので」
「ですから時間がかかるのです」
「あなたに任務があります」
「歩兵として遠征をしてもらいます」「いいですね?」
「はあ?歩兵するの?俺は重歩兵の搭乗員ですよ?」
「あなたに命令を拒否する権利はありません」
「はい、すみません」
「今、乗せて行ってくれる輸送機が滑走路に居ますから」
「早くしないと置いていかれるわよ?」
「ええ?何それ?」
「はい、電話終了します」「頑張ってね?坊や」
ブッツン・・・
「あわわわわ」
良かった、荷物持ってて。
白い霧の滑走路上を走る。
この人に聞いてみよう。
「あのう!カツアゲ戦線行きの輸送機はドコですか?」
「え?・・・ああ。カツアゲ行きはあれだよ!」
「もう離陸するから、走らんと間に合わないぞ!」
「うひゃああ!」
全力疾走する俺。
やっぱ皆知ってるみたいだ。搭乗口開けて、おいでおいでしてる。
「待ってください~!!」
「もっと早く走れ坊主!!」
「飛び込め!最後のチャスだ!」
「ひゃああ」
ズドン
カラカラカラ
ぐわわっ
バゥウーーん
朝焼けの滑走路は霧が発生してて真っ白。
何か全部が奇跡に思える。
離陸したプロペラ輸送機は、北部へ飛ぶ。カツアゲって何?
うーん飛行機ってヒマなんだよなあ。
俺の他にも輸送される歩兵小隊が居るが、無言だな。
補給の弾薬と食料もいっぱい積んでるが。
雲の真上を飛んでいる。下はジャングルばっかだ。
なんか変な鳥が飛んでる。
広い格納庫内で無造作に座る。
壁に持たれながら、手紙を読む俺。
まだ日が明るいから読めるの。
「・・・・・・」
「はーい、お元気していますか?」
「あなたのリトル・ママですよ」
「サン・チャイルド。お給料は受け取っていますよ」
「正しく家族のために消費中です」
「出稼ぎのおとんとおかんは、生きてるからね?」
「リトル・ママにも仕事が出来ましたよ」
「近代オモチャの内職です」
「コレが楽しいのですよ」
「毎日、妹のチャムと遊んでいます」
「商品で遊ぶのでありませんよ?サン」
「完成した商品で遊ぶのです」
「実用テストです」
「内職を下さる会社から褒められます」
「それから、あなたが壊した庭の井戸ですが」
「あなたの仕送りで直しました」
「もっと沢山稼いでね?あたしのサン・チャイルド」
「また手紙書くわね・・・・リトル・ママ」
「・・・ミンミ」
リトル・ママはただの愛称で、本名はミンミ・チャイ。
俺の実の妹。
うちはクソ田舎の農村で貧乏だから、家族で働くんだ。
親はどっか遠くの都市で出稼ぎ中。
カネだけが来る。
ミンミは大家族を養うために、学校も行かないで働いてる。
兄弟の生活の面倒をすべて引き受けて、まるで。
ママみたいなんだ。
だから自分でリトル・ママと言うの。
「何だ坊主」
「彼女のラヴレか?」
「は?」
「ラヴレターじゃないの?」
「ラヴレで良いんだよ現代では!」
「最後まで言わないうちに狙撃されるだろ~が!」
「は、はあ・・・」
近寄ってきた知らない兵士は、かなり馴れ馴れしいが。
まあ、現場なんてこんなもんだ。
「乗組員に言いますよ」
「もうじき夜になるから」
「護衛の戦闘機が来てくれるそうです」
「2機ですよ」
「なんか変だよ、この輸送機ってなんか積んでるの?」
機内無線でコパイが喋るのだが。
「そうだなあ、まさか俺?」
「あはは、アホらしくて笑えるわ」
「・・・・・・」
夜間飛行、レシプロエンジンから排気炎がまる見えだな。
こいつらホントに無頓着だな。
殆どの奴が寝てる。
格納庫は広いから寒いの、毛布が離せんな。
「おい、坊主。アレみろよ」
「あ、アレですか」
「味方だよな?」
「ジェット戦闘機が2機居ますね背後に」
暗闇の中に戦闘機の小さな光が点滅してる。
なんかやばそうな雰囲気だが、敵が来るの?
ビィィィ!!
「うわっ!」
「何だよやっかましいなあ!寝てたのに」
「空戦が始まったよ!」
「緊急パラシュー降下の準備して下さい!」
「あわわわわ」
「おい坊主!!装備を置いていくな!!」
「ライフルを持たないで戦争する気か?」
「すみません」
ジェット機の空戦マッハのバトルが始まったぞ。
機内からよく見えない。真っ暗な空で何してるのかな。
「何あの火花は」
「チャフフレアだ、どっちが味方だかわかんねーぞ!」
ジェットの金属音が増幅されて交じり合って。
「ビックリハウスみたいだ」
ズドどど~~ん!!
「一機落ちたぞ!」
「味方がやられたんだよ!」
「俺達も覚悟して下さい!」
機長が絶叫してる。
真横で誰かの戦闘機がバルカン撃ってる。
暗闇に弾帯だけが黄色く光る。
カートリッジが真横の輸送機の窓に飛んでくる。
必死で守ってるな。
ヒュン・・・・
ドッカーーン!!
「うわあああ」
輸送機が裂けてバラバラになっていく。燃えてるし。
空中分解だ。
早くパラシュートを?
「ああああ」
夜風って痛くて寒い。目が開けれないし。
「うえあ?」
見上げると戦闘機がまだバトル中だな。
バルカン砲のカートリッジが俺を目標に落ちてくる。
「うわあああ!」
頭のなかが真っ白状態になる。
ひゅうううう!びゅうびゅうう!
バンッ!!
びたびたびた
パラシュートが開いた。生きて帰れる。
あそこが開けてる、早く着地して逃げないと。
まだジャングル地帯だ。夜だから暗くてよく判んない。
ここは危険地帯だ、訳が分かんないよ。




