悪意まみれの世界
惑星チーズ、マルス民主主義国マルス軍中枢部。
真夜中14時。軍の基地にサーチライトが数本光る。幾つものビルが建つ。
そのビルのひとつの最上階、誰もいない暗闇にセキュリティアラームが鳴り響く。
資料倉庫に侵入者の警告。監視カメラが運休している。
壁に並んだロッカーの中から血液がしたたり落ちている。巡回の警備兵3名が何者かに殺されている。
当直兵2名が慌ててアラームのスイッチを切る。
部屋が荒らされた痕跡はない。
その次の日の早朝。
「で、盗まれた情報はこれだけか」
「まだはっきりとはしません」
「ミーム3000の情報が漏れたようです」
「ミーム?」
「人工知能ミーム3000TTか!」
「どこまで知られた!」
「敵軍の諜報部員が潜り込んでいたようです」
「監視カメラにも映っていません」
「わが軍の諜報部員をテーガ軍に送り込んでありますから」
「ええ、二重スパイです」
テーガ列国、テーガ軍第二司令部。
ビルの三階の統合司令部。
ナール提督が報告書を見ている。
「なんだこの報告書は」
「読めん言語で書いてあるぞ」
「翻訳ツールで翻訳しますから」
「PCにスキャンします」
「ああ、早くしてくれ」
カタカタカタ・・・
「大まかな話でいい」
「説明してくれ」
「はい」
「わが軍の諜報部員の手に入れた情報です」
「敵軍のとんでもない計画がわかりそうです」
「どんな計画だ」
「以前から言われている、TT理論の話か?」
「ええ」
「今回はもっと具体的な情報です」
「TT理論を構築した、人工知能ミーム3000TTの存在です」
「試作段階のM3爆薬の計画が絡んでいます」
「M3?」
「あの、核と同等の破壊力を持つが、放射能がゼロと言う、あれか」
「敵軍はすでに、M3爆薬の量産化に成功しています」
「我が軍を出し抜いて」
「しかし、M3爆薬計画は我がテーガ軍が開発を進めていたのじゃないかね」
「敵の二重スパイが紛れ込んでいます」
「軍事機密が筒抜けになっているのです」
ピ!
「翻訳出ました」
「ふむふむ」
「どうだね」
「何か重要な情報があるかね」
「・・・」
「ミルケトロフ計画」
「これは」
「?」
「聞き覚えのない単語だ」
「ダメです」
「ほとんどがワームで塗りつぶされています」
「後から手を加えられています」
「解読できません」
最前線アーカンタレ。
戦線は膠着状態となって、2週間が過ぎた。
空がピンク色に染まっている。曇り空の間から日光が差している。
幾つも立ち昇る黒煙。
銃撃音と爆発音、金属音とガリソンエンジンの排気音がこだまする。
火薬とガリソンの匂いが立ち込める。
田園地帯と荒れた湿地帯。点在する立木はほとんどが朽ちている。
サン・チャイの300TT三世代重歩兵が跳躍する。
タン・・・
「敵重歩兵残り3機」
「援護を要請する」
「こちらは既に4機撃破された」
サンバイザーが息で曇るので目の前が見えない。
思わずずり上げて、裸眼で半透明デジタルマーカを追いかける。
バーチャルモニタ上で狂ったように踊るデジタルマーカは、目視するのに慣れが必要だ。
表示が速すぎる。
高所を滑空しながら、サンの機体の武装ガトリングガンが火を吹く。
敵重歩兵1機が地上で応戦する。
ガンガンガンガン!
ドッド―――ンッ!
敵重歩兵が炎上して爆発した。
無線が入る。
「サン」
「増援だよ」
「マルナナ重歩兵部隊だ」
指揮官機のジャム中尉が叫ぶ。
「あたしの機体は弾薬がないよ」
「破壊された味方重歩兵の武装を拾って使う」
「ジャム中尉」
「ホルスさんが居ません」
「あん?」
「またタコつぼに隠れてるんじゃないかい?」
「バカ言ってんじゃないよ?」
「あ、ホルスさんやっぱり隠れてたんですか」
「名誉毀損ですよ」
「任務終了帰投します」
「敵軍が撤収しました」
無線が聴こえた。
基地に帰ると、入り口のバラック小屋の前で。
女性兵士が笑顔で手を振っている。
そばかすに泣きぼくろの黒髪ショート。
女性用軍服の胸がプリっとしていて腰が締まっている。
「サン様あ」
歩いてきた重歩兵たちロボット兵器のコクピットから
愚痴が垂れ流される。
ちゃかしの言葉。
「王子様、ご褒美だよー」
「食べ放題やねーサンさまあ」
いきなり抱きついてきた女性兵士。
サン・チャイルドには、
契りを結んだ女性。
サダコ・コオロギがいる。
「サン様!会いたかったです!」
「私はカン・モンクペシ」
「テーガ列国軍の整備兵です!」
「愛情込めて整備しますよーん♡」
ほっぺたをぐりぐり押し付けて愛撫する。
サンはたじろいでしまった。
その夜、
さっそく夜這いに来たカンと言う女性兵士。
寝ていたサンに顔を近づけて囁く。
「サン様、ご褒美の据え膳の女体ですよ」
「若い女はお嫌い?」
月明かりにそばかすが映える。
かわいい。
サンは素直にそう思った。
キスを交わし、
右手で胸に手の平を乗せるカン。
ピチピチの軍服のホックを外し、胸のボタンを外しにかかる。
下着姿のサンはドキドキしている。
もう一度カンが首筋にキスをした時、
!!
は!
カンは隠し持った暗殺武器ダンクシャリをサンの眉間に突きつけた。
パンっ!
当直室の暗闇が一瞬光る。
サンはすかさず枕元に置いておいた至急品のハンドガンで
カンの頭を撃ち抜く。
おどろいた眼球で後ろに飛ばされる。
真っ赤な鮮血が飛び出て脳みそも飛び出る。
月明かりにその光景を見ながらサンが思う。
暗殺か。これからもくるだろう。
俺はこの惑星チーズをどう変えるんだろうか。
古臭い因習を生業としている輩には、
俺は邪魔なんだろうな。
産まれくる命達は、
殺し合いを否定してくれるだろうか。
この事件は軍上層部にもみ消された。
その頃、
サンと一晩の契りを交わした、民間ゲリラの。
コオロギ財閥の娘、サダコ・コオロギは、
ミルケトロフ計画の情報を掴んでいた。
サンが暗殺されそうになったことも。
下腹部を
さすりながら呟きます。
「サン殿」
「私はあなたを守り抜きます」
「この命に変えても」
続く




