表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女の忍  作者: 雪見だいふく
2/5

任務

サア――

私の足元に散っていた木の葉が、明け方の風に巻き込み空中へ渦を巻いて、散っていった。


その光景を見ていた千早は、現在17歳になる。胸元まである艶やかな黒髪は、後ろで束ね下ろしている。瞳は鮮やかな朱色で、人々からは忌み嫌われている原因だ。加え、つり目ぎみなので恐い印象しか与えない。

しかし、そんな瞳もたった二人は、誉めてくれた。穂積とお殿様である。



ー「千早の目は、暁のようだ。明け方の、空一面真っ赤に映える赤だ。俺は好きだよ、千早の目」

そう言ってくれたあの人は、私が13歳の時にある日突然、失踪した。私は探しに行こうとしたが、お殿様は、それを許さなかった。

これが、穂積の運命なのだ…と。

私は納得ができず、任務に当たっている時も、隙あらば穂積の居場所を突き止めようと、こっそり捜索を行っていた。

しかし、五年経っても穂積の居場所は分からずじまいだ。お殿様にもかけ当たってみたが、即刻中止するように怒鳴られた。

私は、そこまでお殿様の感情を荒ぶらせた所は、見たことがなかったので、益々不信感を募らせていった。

そこで、冒頭にあたるー。



今、私は任務で屋敷を放れ、ある屋敷に潜入し内部を探れとの、我が主…お殿様のご命令だ。

ある屋敷とは、近頃その領主が、まとめる領地で好き放題しており、気に入った女子を連れ去り、民を困らせているという情報が入った。


我が主は、弱い者の味方であり、民からは絶大な人気を誇っている。我が主のおかげで、民は他国からの侵入に怯えず、幸せに生を全うする人生を送れると思っている。

しかし、我が主は己の信念を曲げないお方で、近隣の国々としばしば衝突をすることもある。そこで、裏から情報を探り、偵察する役目の我ら忍が、裏から我が主をお守りするのである。


我が主の盾となり、矛となり、命をも差し出す所存だ。元より、孤児で我が主に拾われなければ、とっくに生きていない。



今は、我が主が国をまとめあげている存在だが、時に好ましく思っていない輩が出て、自分の領地で好き放題する者もいる。

今回の任務は、内部を探れとしか言われていない。もちろん、忍である以上、殺しは何度もしてきた。その度に、心が痛むことはない。なぜなら、私は忍だから。



ー私は、高台の山の頂点にいた。高台の山から見下ろせる位置に、大きな屋敷が森に囲まれ、ひっそりと佇んでいた。

さらに、その下には屋敷の領主の、領地の村があった。

村には活気がなく、人々の表情はどこか虚ろだった。

(女子がいない…屋敷の中か)私は、村の状況を確認し、予め侍女の格好をしていたので、そのまま屋敷へと降りていった。



雇ってほしいと言えば、瞳の色を気にされたが、すんなりと受け入れてくれた。この屋敷は、女子には甘いのだろうか。

私がそう思っていたら、案内してくれていた武士が、一室の襖の前に立ち止まり正座をする。

「お殿様。新たな侍女です。お目通りを」

「通せ」

「はっ。入れ」中から、男の低いしわがれた声が聞こえ、武士がすっと襖を開ける。

「お初にお目にかかります。千花と申します。お殿様」私は、すぐに正座をし、両手を膝前に落とし、頭を深く下げ自己紹介をする。本名は使用できず、予め用意していた偽名を名乗った。

「よい。頭を上げよ」男の低いしわがれた声が、聞こえると私は頭をゆっくりと上げる。

私の眼前には、40代半の濃い髭が印象的な男に、両脇に若い女子を自身の肩にしなだれさせていた。

男の目は薄く細められ、いやらしく私を舐めるように見ている。

「ほお。紅目か…珍しいな。どこから、来た?」男は、両脇の女子の肩と腰を抱き、撫でている。女子は明らかに怯え、震えていた。

「南から参りました。前の主は、私に暴力を奮い、逃げてきたのです。こちらのお屋敷のお殿様は、女子を大事にして下さるとお聞きしました。お殿様。どうか、私を雇って下さい」ー全て真っ赤な嘘だ。しかし…。

「そうか。それは、辛い思いをしたな。良い。お主を雇おぞ」この男は、あっさりと騙される。

「ありがとうございます。感謝致します」私は、深々と頭を垂れた。



ー私は山程の洗濯籠を抱え、ふもとの村付近の川へと降りていく。川に到着した途端、村の子供達が水浴びをして遊んでいた。

子供達が、私に気付くと近付いてきて…。

「お姉ちゃんは物の怪?」一人の女の子が私に尋ねる。

「…ううん」私は苦笑した。

「ねえ、あそこに僕のお姉ちゃんがいるんだけど知らない?」一人の男の子が、私に尋ねる。

「お姉ちゃん?名前は?」

「りさ」

「聞いたことないけど、どうして?」

「さらわれたの…。こうやって、お姉ちゃんと水浴びをしていたら、男の人が何人か来て、お姉ちゃん連れて行っちゃった」男の子は泣きそうな顔になった。

「……大丈夫だよ。私がお姉ちゃんを連れて来てあげる。だから、泣かないで」私は男の子の目元を拭う。

「うん!」男の子はパアッと表情を明るくし、再び川遊びに夢中になる。


(…確かに、何人かは無理矢理連れて来られた感じがあった。表情が硬いし、瞳も虚ろだ……なるべく早く行動に移すか)

私は、川で洗濯を洗いながら思った。



ー洗濯を終え、選択籠だけを持ったままお屋敷に帰る。

門番は私が侍女だと分かったら、門を開けてくれた。門を潜ると、一人の青年と年若い侍女がなにやら、庭の隅っこでひそひそと声を潜め話している。

その雰囲気は、怪しいと言うよりも、妖しいという表現の方が正しいかもしれない。

青年が侍女の腰を抱え、侍女は青年の首に両腕を回し、至近距離で見詰めあっている。

お互いの顔が近いと思った時、二人は口付けを交わす。情熱的にお互いを求め、体を密着させた。


私は直視できなくなり、二人から顔をそらしかけた途端…。

「何をしている?」低いしわがれた男の声が響き、私は思わず振り向く。

殿が無表情で二人を見ており、どこか威圧感が漂う。

「!…お殿様!いえ…これは、その…」

青年が慌てて侍女の体を放し、距離を取るが、侍女は放れがたいのかまだ青年の首に両腕を回している。

「放せ。りさ!」

青年が焦ったように叫ぶが、侍女の瞳はどこか熱っぽく虚ろだ。


「…お主、その女子に媚薬を盛ったか」

殿がさらに低い声で言う。

「!………」

青年は、ビクッと体を跳ねさせ、俯いた。

「……この男を捕らえよ。よもや、侍女に手を出すなんてな…斬れ」

「はっ」

殿が命令を下すと、後ろに控えていた数人の武士が、青年を侍女から引き離し、捕らえ、刀を青年の首に触れた。

「や、止めろ!お殿様!私は…」

青年が続きを言う前に、一人の武士が、青年の首を斬った。


私はその一部始終を見ており、殿の無表情を見詰めていた。

眉一つ動かさずに、青年の姿を見ている。今まで何度もその光景を見てきたのだろう。


侍女は、まだどこか虚ろでぼうっと空中を見ている。殿の、その女子は私の部屋へ連れて行けという命令で、武士たちは女を屋敷に連れて行った。すると…。

殿は、遠くからこちらを見ている私の視線に気付き、私を見詰め、そのまま近付いてきた。

私は、地面が砂だらけも気にせず、正座をし頭を垂れる。

「良い。立て」男の足元が、私の視覚に入った途端、男が言う。

「はい」私は、立ち上がり男の顔を見上げる。

「…その紅目は生まれつきか?」

男は、私の瞳を見詰めながら尋ねる。

「はい」

「それに、物腰も柔らかい。洗練されているな、お主。どこぞの姫ではないだろうな」

「いいえ。とんでもございません」

「……怖じ気づかないしな…良い、気に入った。今夜、私の部屋に参れ」

男は無表情で私を舐めるように見ていたが、少し口角を上げ面白そうに言う。

「はい」

私が返事を返すと、男は踵を返す。

(まさか。こんな早く機会が回ってくるなんて…何にしろ、今夜が正念場だ)

私は、密かに決心を固める。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ