序章
「千早、そうじゃない。こうやってやるんだ」
ー何度、この言葉を言われてきたことだろう。今となっては、遠い過去のことだ。
私の母は、生後一週間の私をある屋敷に預けた。…否、捨てた。その屋敷とは、国の中では、名のある将軍の屋敷であった。お殿様は、生まれたばかりの赤ん坊を拾い、名を与え、忍びとして育て上げた。
忍びとして育て上げるために、私に指導者が与えられ、名は「穂積」と言う。
彼は、三歳になったばかりの私にクナイを持たせ、山の中で訓練を行った。私は左右も分からず、体中は傷だらけになり、泣いてばかりだった。
しかし、訓練後は優しかった。まるで、本当の家族のように彼は、接してくれた。食事を共にし、風呂や寝る時も一緒に生活をしていた。
穏やかで優しい低い声、何度もおぶさってくれた大きい背中、眠れない私を受け止めてくれた広い胸、ぐずる私を包み込んでくれた温かい腕、誉める時に頭を撫でてくれた骨ばったゴツゴツした手……全てが、鮮明に思い出せるのにあなたは帰ってこない。
けれど、いつの日か再び彼に会えることを願って。
私は、任務を怠らず、彼に誉めてもらうために今を頑張っている。
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