満場一致の話
「我が国では、国民全員が政策に賛成するまで、新しいことは決めないようにしているのです」
先生が誇らしげに胸を張った。
「すごいね、えらいんだね」
皆が口々に言った。
僕もそう思う。
ーーこの国は素晴らしい。
国語の時間、誰かが教科書のゴリラとキツネの話を読むことになった。
「この話は面白いから、皆読みたいんじゃないかな? じゃあ、読みたい人、手を挙げて」
クラスの皆が手を挙げた。
僕も挙げた。だって、この話は面白いし。
算数の時間、宿題を提出することになった。
「宿題は皆やってきてるね? ちゃんと宿題はしなきゃダメだよ。宿題をしない人は、悪い子になっちゃうよ! 皆、悪い子はイヤだよね?」
皆が頷く。
「じゃあ、宿題を終わらせてない人は立ってね」
誰も立っている子はいなかった。
だって、悪い子はイヤだし。
昼休み、隣の席の子が声をかけてきた。
「ねえ、鬼ごっこしようよ。クラスの皆で!」
「うん、いいよ。僕も他の子に声かけてみるね」
「本当? ありがと!」
僕は、周りにいた友達に鬼ごっこしよう、と言った。
皆、いいよ、と言ってくれた。
図工の時間、皆でなんの絵を描くかの話し合いをした。
「おれ、恐竜の絵が描きたい! かっこいいだろ!」
皆、描きたい、と言っていた。
でも、僕は女の子は、もっと可愛いのが描きたいんじゃないのかなぁ? と思った。
でも、皆が描きたいならいいや。
帰り道、首輪をしたボロボロの女の子を見た。
「うわぁ、汚い」
「皆に反対するからそんなのになっちゃうんだよ」
皆が少し大きめの背のその子を囲んで、一斉にそう言った。
僕も、そ
「やめろ! おれはやりたくてこんなことやってるんじゃない! なんでみんなそんなにおんなじことばっかり言うんだよ! キモチワルイ!」
周りの子が、女なのにおれだってー! とか、反対するほうがおかしいんだよーとか、そんな声が急に排水口の淀んだ水のように思えた。
ーーあ。
そうだ。これは僕のーーいや、おれの思っていたことだ。
女の子のなのに“おれ”、おれとおんなじことを思って、さからって、
そうだ。この体は僕の身体だ。おれの体じゃない。
いつからだったっけ。これがおれの体になったのは。
ああ、そうだ。たしか、みんなとちがうことを言って、こわいひとにひっぱられて、えっと、あ、あたま、あたまが、こおかん、それから、それから、
「我が国は医療の発展した、素晴らしい国なんですよ。そして、初めて脳の移植に成功した国でもあるのです。さらに、政治の面でも非常に発達していてーー」
うん。
やはり、この国は素晴らしい。
僕は大人になった今でも、そう思う。