魔法少女の話
「あのさ、」
「んー? なに?」
昼休み、我が親友と屋上近くの階段でご飯を食べていると、不意に、彼女が口を開いた。
「あたし、魔法少女になったんだよね」
「ーーぶっ⁉︎」
急なカミングアウトに、私は、ゲホゲホと咳き込みながら彼女の顔を見る。
…なんで真顔なの!
日頃から、表情が読み取りにくい彼女であったが、今日という今日は本っ当にわかんない。えっ、これ…どうしたらいいの?
いやいや、落ち着け私。まず確認すべきは親友の頭の安否だ。
「えっと…一足す一は?」
「二。安心して、頭は大丈夫」
「そっ、そっかぁ…」
じゃあ、厨二病…にしては遅すぎるか。高校生にもなって厨二病はないよね。
「…もしかして、信用してない?」
「…え、あー…う、うん」
私がそう答えると、ふう、とため息をつき、おもむろに彼女の隣に置いてあったスクールバッグを探り始めた。
「…?」
ちら、と覗き込むと、中になぜかずっとピンクのランプを点滅させている小さなコンパクトが入っているのが見えた。彼女はそれを取り出すと、私に見せた。
「これ、変身グッズ」
お、おお…。どうしよう。おもちゃ屋で売ってるプリティーでキュアキュアなアレのアイテムにしか見えない…。
「…おもちゃ?」
「ううん。本物」
「…変身みたいなのは?」
「魔物が出てこないとできない」
おうふ。証明のしようがないぞ、これ。
しばし戸惑っていると、彼女はもう一度、スクールバッグを探り始めた。
今度はなにをだしてくるんだと待っていると、彼女の手には、可愛らしい猫のぬいぐるみが握られていた。
「これ、妖精」
「どう信じろと⁉︎」
やばい…これは親友の病院通いが決定しちゃったよ。どどどどうしよう。まず、保健室に連れて行くべきなの? それとも110番? あ、110番は違う。
うーんうーんと悩んでいると「なにするんだにょ! せっかくゆっくり寝てたのに!」と高く可愛らしい声が聞こえた。
…え?
「ねぇ、今のって…」
恐る恐る親友を見ると、隣にはさっきのぬいぐるみがふわふわと宙を飛んでおり、「痛いじゃないかにょ!」とか、「もっとマシな起こし方はなかったのかにょ⁉︎」と、彼女に抗議していた。
「え? あの、え? ま、マジで魔法少女にーー」
「あ、信じてもらえた? じゃあ、これから一緒に頑張ろうね」
「は? なんの話?」
「もしかして、なんの説明もしてなかったのかにょ⁉︎」
「うん」
「うん☆ じゃないにょ! …あ、えーと、説明すると、コンパクトが反応してるということは、君が二人目の魔法少女なんだにょ!」
「反応って…あの点滅か! …って、は?」
とても暑い夏のある日、私は魔法少女、始めました。