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22.落ちこぼれ王女と闇の中の攻防

「フィア! 魔物は私たちが抑える。その隙に中心地を突破しろ!」


 ナガルが剣を構え、襲い来る魔物を薙ぎ払いながら叫びます。


「分かりましたわ、ナガル!」


「お嬢ちゃん手伝うぜ! ティカ、いいか!?」


「もちろんよ!」


 キーヤさんは、にやりと笑うと、精霊であるティカお姉さんの力を大剣に満たし始めました。

 まさか、剣に精霊の力を纏わせるのですか? そんなことが出来るなんて初めて知りました!


「なら僕は、突破したらすぐにでも魔法を唱え、なかの魔物を一掃しましょう!」


人間(ひと)に当てるなよ、ルイ!」


「そんな失敗はしませんよ! 僕を誰だとおもっ」


「学園一、いや王国一の魔術使いだろ? だが、本当に気を付けろ。なかには殿下とあいつがいる」


 アルフ兄さんの言葉に、ルイフィス様は顔を引き締めました。怖いくらいの真剣な表情をなさっておられます。重く頷く彼にいつもの余裕はありません。

 ルイフィス様は、目を閉じ集中力を高めると、ゆっくりと詠唱を開始しました。


「アルフ、ゴウマ! 左右に展開! 絶対に突破させるな!」


「おう!」


「分かってますよ、ナガルさん!」


 ナガルの号令と共に、中心地へ攻撃を仕掛ける私たちを守るかのように、アルフ兄さんとゴウマおじさんは左右に分かれて魔物と相対しはじめました。


 それを合図に、私こと、ユーフィア・シエラ・リスティアは、風の精霊王シンファを使役するため、願いを言葉に乗せたのです。






 私たちが中心地に辿りついた時、巨大な球体を、真横に切り取ったかのようにも見えるそれは、外部からの侵入を拒むかのように固く閉ざされていたのです。

 その大きさは、小さな村を一つ丸ごと覆うほどの広さです。

 まるで、侵入を拒絶するかのように高く聳える中心地に圧倒されます。


 中心地は、負の魔力から成る魔力の塊だとシンファが教えてくれました。

 魔力の塊なら通り抜けられるのでは?とは思いましたが、中心地は、まるで固い壁のようで、とても通り抜けられるような代物ではありませんでした。ただ、内部から生み出される魔物だけが、魔力の壁をすり抜けるようにして出てくるのです。


 シンファから告げられたのは、精霊王の力なら、僅かな穴を開ける事が出来る、というものでした。

 でも、それには一つ問題があるのです。

 僅かな穴、という名の通り、それは一人がどうにか通り抜けられるだけの穴らしいのです。

 中心地のなかには、魔物が溢れているとシンファが言いました。そこに一人ずつ突入していたのでは、あまりにも危険が伴います。それでも、このままここにいても、魔物に囲まれるだけですし、他に方法を探している暇はありません。


 私たちは、一か八かの賭けに出る事にしたのです。




「風の精霊王シンファ。我が意をもって(こいねが)う。わが身を伝い世界に己が力を示せ! 負の魔力、その集合体である中心地に、一筋の道を開いて!」


 シンファは、まるで弓に矢を番えるように構えました。

 そして、集まりつつある風のうねりは、一つの矢の形となって中心地へと放たれたのです。


 お願い! 


 矢は吸い込まれるかのように中心地に突き刺さります。


「行くぞ! ティカ!」


「ええ!」


 この時を待っていたかのように、キーヤさんが矢の突き刺さった場所に大剣を突き刺しました!


「…くっ!」


 押し出されそうになりながらも、懸命に大剣を押し込むキーヤさんの額に汗が浮かびます。


「ティカ、今だ!」


「任せて!」


 ティカさんお姉さんは、大剣に纏わせている精霊の力を解放いたしました。それは、次第に巨大な渦を巻きながら、シンファの力と交じり合い、隙間を大きく切り開いていったのです。


 そして開かれた内部に―――言葉を無くしました…。


「なん…だ…この魔物の数は…!」


 キーヤさんが蒼白になりながら呟いております。

 あまりの衝撃に、震えがきます。


 開かれた場所から見えた内部は、想像を絶する様相をしておりました。


 闇に覆われ全体を把握することは出来ませんが、見える範囲だけでも魔物が所狭しと暴れているのが分かります。傷つき倒れている騎士の姿も見えます。すでに事切れておられる方もおります。いくら覚悟を決めて来たとはいっても、思わず目を背けたくなるような惨状が目の前で繰り広げられていたのです。


「…お兄様と…ネスティ様は…?」


 不安に駆られる私の耳に、微かに剣戟の音が聞こえてきました。

 まだ、生きて戦っておられる方がいるのです。

 

 どこ…?


 私は、魔物で溢れる内部に懸命に目を凝らしました。


 お兄様たちがいるはずなのです…。

 必ず生きて戦っておられるはずなのです!

 どこかで…必ず!


「あれは…?」


 焦るように探す私の目に、騎士たちに守られながら戦う一人の青年が目に入りました。

 偶然にも、私たちが穴を開けた場所の近くで魔物と戦っていたその青年は、金色の髪をした――


「お兄様…!?」


 いやな予感がします…。 

 

 お兄様は、大量の魔物に囲まれながら、自ら前に出て、まるで誰かを守るように戦われていたのです。


 守られる立場のお兄様が、自ら守る立場にいるなんて……いったい、だれを…?


 まさか…ミアさん? 


 それとも……!


 私は、ゆっくりとお兄様の足元に目を向けました。

 そして、見えたのは――


 ……青銀の髪?


「えっ…? ネスティ様…? うそ…!」


 目を疑いました…。

 みるみる足が震えていくのが分かります。


 だって…お兄様の足元で倒れているのって…!


「ネスティ様!!」


「シエラ、待て!」


「離して、アルフ兄さん! ネスティ様が、ネスティ様が!」


「闇雲に突っ込んでいくな! ルイ!」


「…我は紡ぐ! 滅せよ聖光の矢!」


 アルフ兄さんは、私を行かせまいと手を強く握りしめ、ルイフィス様は唱え終わっていた魔法を放ちました。それは、中心地内部で弾け、数多の光の矢となり、お兄様周辺の魔物を一掃したのです。


「ネスティ様!」


「シエラ!」


 私は居ても立っても居られず、アルフ兄さんの手を振りほどくと一目散に走りだしました。


 まさか…まさか…まさか…っ!


 いやな予感がぬぐえません!

 私たちは間に合わなかったのでしょうか? そんなのはいやです! いやです! お願いです…生きていて!


「ネスティ様――っ!」






「…シエ…ラ?」


 お兄様は、私に気が付くと驚愕に目を見開きました。

 魔物が一掃された事にも驚いているのでしょうけれど、それよりも、ナガルに絶対に連れて来るなと厳命していた私がいる事に驚いておられるようです。


「お兄様、ネスティ様は!」


「…なぜ…来た?」


「その話は後で…!」


 私は、お兄様への挨拶もほどほどに、倒れ込んでいるネスティ様に駆け寄りました。


「ネスティ様…!」


 ネスティ様はどれだけ魔物に切り付けられたのか、全身を魔物の血と自らの血で染めておりました。宵闇に輝く見事な青銀の髪も血で汚れ変色しております。

 そしてその顔色は、すでに血の色を無くしていたのです。


 まさか…もう―――


「いや……いやです…いやです、ネスティ様っ!」


「落ち着いて、シエラ」


 お兄様が隣に跪くのを感じます。

 私の頭を落ち着かせるように撫でるのも…。

 でも…でも!


 私は、震える手でネスティ様の手を握り締めました。

 こんな時、魔力が少ないのが悔やまれます。私には、ネスティ様を回復させるほどの魔法が使えないのです。


「ネスティ、頼む、気づいてくれ!」


 お兄様は、自身も満身創痍でありながら、懸命にネスティ様に回復魔法を唱えてくれます。それでも、ネスティ様は一向に回復の兆しを見せないのです。


 間に合わなかったのでしょうか…。

 私は――間に合わなっ……。


 考えたくありません!

 ネスティ様がこのまま目を開けないなど…。


 握り締める手に力が入ります。

 涙が溢れて来るのも分かります。

 私には、冷たくなっていくネスティ様の手を温める事しか…出来ないのです!


「殿下、無事ですか!」


「アレフリード、ネスティが!」


「…ネスティ!? シエラ、そこを退いて! ルイ、回復魔法を!」


「分かってますよ!」


 アルフ兄さんの声に私は体を後ろに引かれました。ネスティ様から離れようとしない私をお兄様が引き寄せたのです。そして、それを待っていたかのようにルイフィス様はネスティ様の傍に跪くと、すぐに回復魔法を唱えました。


「我願うは癒しの力。響け大地の導。我は紡ぐ、届け聖なる息吹!」


 瞬間、大地より浮かび上がる柔らかい光は、負の魔力の塊である中心地でありながら、その輝きを無くすことなく地上へと溢れ出してきたのです。


「「我は紡ぐ、癒しの光!」」


 アルフ兄さんと駆けつけてきたナガルも同時に魔法を唱えております。

 ルイフィス様のより下位の魔法ですが、私には到底使う事の出来ない高位魔法です。

 それらの魔法が合わさり、ネスティ様を中心に癒しの光が辺りを満たしていきました。


 それは、ネスティ様だけではなく、辺りで傷つき倒れ込んでいる騎士たちへも届き、見る見るうちにその傷を癒していったのです。

 お兄様も傷を癒され、回復を確かめるかのように手を動かされておりました。


「…凄いものだね、君の魔法は」


「褒めていただいて恐縮です…。ただ、ネスティに関してはまだ完治とは言えません。傷は塞がっていくとは思いますが、いくら僕の魔法でも、流れ出た血は戻せないのです。後は彼の気力しだい…」


「それなら大丈夫だ。…見ろ、顔色が良くなっていく」


 アルフ兄さんの言葉に、私はネスティ様に近付きました。

 確かに、血の色を無くしていたお顔に、僅かに色が戻りつつあります。


 大丈夫…なのでしょうか?

 

「フィア、大丈夫か?」


 ナガルは神妙な顔で私を案じてくださいます。

 私は僅かに頷くと、ネスティ様の傍に座り込みました。

 傍を離れたくなかったのです。


「ネスティ様…」


 ネスティ様の体を見ると、ゆっくりと傷が消えていっているのが分かります。


 良かった……。


 そっとネスティ様の手を握り締めます。

 冷たかった手に少しずつですが、温もりが戻ってきています。

 お顔の色も、僅かですが良くなっておられるみたいです。


 もう、大丈夫…ですわよね?


 ネスティ様……。


 安心感から力が抜けていくのが感じられます。

 よほど体が強張っていたのでしょう。

 私はほっと息をつくと、改めてネスティ様を見つめました。


 良くなっているとはいえ、いまだ青白く意識のないネスティ様は、それでもその美しさを失っておられませんでした。

 思わずその寝顔に見入ってしまいます。

 憧れてやまない方の寝顔がすぐ目の前にあるのです。緊張するなというほうが無理です。

 早鐘を打つ胸を押さえながら、私は、恐る恐るネスティ様の頬に触れました。


 その頬に触れて、温もりを確かめて―――


 改めて、ネスティ様の寝顔を覗き込みます。


 本当に…きれいです。

 まるで、眠り姫のようですわ…。


 本人には絶対に言えない事を心の中で思いながら、私はネスティ様の寝顔を堪能致しました。

 不謹慎ではありますけれど、こういう時でもないと、こんなに間近でネスティ様のお顔を見る事なんて出来ませんもの。


 初めて見た時から、ネスティ様にずっと憧れていた。

 どんなに冷ややかなまなざしで見てこられても、遠くから見ているだけでよかった……。

 それだけで嬉しかった。


 そして、精霊の守護の影響で、その憧れの想いすら忘れていた時は、その眼差しに、その仕草に、貴方は私をずっと蔑んでいる、と思い続けていた。嫌われているから私をそんな冷やかな目で見ていると思っていた。


 でも、思い出したのです。


 どれだけ冷やかな眼差しで見てこられても、どれだけミアさんに執着なさっていたとしても、どれだけミアさんを守るために私を牽制してきていたとしても――貴方は、一度として私を、落ちこぼれ姫、と口にしたことがない…と。


 それがどんなに嬉しかったことか、貴方に分かりますか?


 ねえ、ネスティ様…。

 貴方の心に誰が住んでいても構いません。

 ただ、貴方が生きておられるだけでいいのです。


 怜悧な眼差しが怖くて普段は近寄れませんが、今は良いですわよね?


 眠っている貴方の傍にいる事を、許してくださいね、ネスティ様――




「大丈夫だよ、シエラ。こんなことくらいで、ネスティは死にはしないから…」


「…お兄様」


 ネスティ様から離れようとしない私の肩に、そっと触れる手。

 振り仰ぐと、ネスティ様を見守るお兄様たちが、一様にほっとしたような表情をなさっておられました。


「そうそう、君が心配する必要はないよ。ミアを守って戦ってきた勲章だろう、この怪我は…。こいつにとっても本望だよ」


 ミアさんを守って……。

 そうですわよね。

 ネスティ様は、ミアさんを守って魔物と戦って来られていたのですものね…。


「だから、君がそんな顔をする必要はないよ。こいつは殺しても死にはしないから、ね?」


 そういうアルフ兄さんこそ、先ほどは必死に回復魔法を唱えていたのを私は知っていますわよ。本当は心配なのでしょう?


 アルフ兄さんは、今も気遣わしげにネスティ様を見ておられます…。

 

「…これで、だいぶ癒したはずだけど、間に合わなかった人もいるね」


 ルイフィス様が、声をひそめてぽつりと言いました。


 ネスティ様の無事はすごく喜ばしい事です。


 でも…、間に合わず亡くなった方も沢山いるのです。

 周りに目を向ければ、傷を癒され立ち上がる騎士や冒険者の方々が見えます。

 どれだけの騎士や冒険者がミアさんと共に来たのかは分かりませんが、今、生きて戦える力を持った人は、100人に満たないのではないでしょうか…。


 それほどに過酷だった…という事ですね。

 

 ルイフィス様の魔法で一掃された中心地内部の魔物は、一時的にその数を減らしておりました。でも、それも一時の事でしょう。魔物は、新たに生み出され始めているのですから…。


 ゆっくりと少しずつ増えつつある魔物を、キーヤさんたちが、私たちを守るかのように倒し続けております。


 私は、その好意に甘え、早く目覚めるようにと祈りながら、眠り続けるネスティ様の手を握り締めました。

 



「あれは…」


「王女殿下…?」


「なんでここに?」


「まさか…だろう? なんで末の王女がここにいるんだ?」


「それにあの恰好…。本当に王女殿下か?」


「何しに来たんだ…?」


 ネスティ様の手を握り締め、目覚めるのを待っていた私に、遠巻きで見ていた騎士たちから発せられる戸惑いの声が聞こえます。

 いま、辺りは魔法の光で照らされ、魔物も騎士もはっきりと認識できますので、傷を癒された騎士たちが私の存在に気付いたという事でしょう。

 お兄様を守って戦っておられた騎士たちも微妙な顔をなさっております。

 そして、お兄様は――


 うん、見なかったことに致します。


 優しいお兄様がそんな凍りつくような冷酷な顔をなさるなんて、きっと私の見間違いですね…。

 

 それよりも、と騎士たちの言葉を反芻します。

 相変わらず私は、落ちこぼれ姫なのですね。

 騎士たちの戸惑いは、なんで落ちこぼれ姫がここにいる? と言う疑問なのでしょう。

 何一つとりえのない私は、きっと邪魔な存在でしかないのでしょうから…。


 まあ、それは良いです。言われ慣れている事ですから…。でも、彼らは気づいているのでしょうか? あからさまに本人目の前にして、貶しているという事に…。


 陰で言われ続けていたことはありますが、こうまではっきり言われると、さすがにへこみます。彼らは、私に聞こえていないとでも思っておられるのでしょうか…?


「おらおらおらっ! そんなこと言ってる暇がありゃあ、一体でも魔物を倒せや!」


 ゴウマおじさんが、騎士たちを一括するように声を張り上げました。

 きっと、私を蔑む騎士たちに腹を立てているのでしょう。槍を振り回し、声を発していた騎士たちを威嚇するように立ち回っております。


「そうよね〜。私たちの可愛い主を貶すなんて、助けるべきじゃなかったかしら?」


 なぜか不穏な事を言い出すティカお姉さん。


「んな事言ってる場合か? 魔物は殲滅したわけじゃあないんだぜ。殿下も守れねえ奴らはほっといて、さっさと倒すぞ」


 キーヤさんがさらに追い打ちをかけるかのように、騎士たちを一瞥しました。

 その目は、明らかに怒っています。


 お兄様は、「確かに私も死にかけたけどね」と小さく呟いておりました。

 それを聞いていた近くの騎士たちの顔色が変わりました。傷を負わせた責任を感じておられるのでしょうか…? お兄様は妙な威圧を発しながら、私を貶した騎士たちを見ておりました。

 

 いつもの事ですから気にしませんのに――


 私の為に怒り、そして、戦ってくれる彼らには頭が下がる思いです。


 少しずつ増えていた魔物は、その数を膨れ上がらせ、再び中心地内部に脅威を撒き散らしておりました。3人は、私たちに魔物を近づけないように陣取ると、鬼気迫る勢いで魔物と戦ってくださっております。その戦い方は、王国の騎士たちですら近づくのを躊躇するほどの凄まじいものでした。


「よお、キーヤ、ティカ、ゴウマ! 俺らも参戦するぜ!」


 ここまで生き残っておられた冒険者たちが、我先にと魔物との戦いに加わりました。

 皆さん、冒険者組合で見たことのあるお顔ばかりです。平原で聖女様と一緒に戦っておられたのですね。


「お前ら生きていたか!?」


「これしきで死ぬわけねえだろう! とは言い難いがな。正直助かったぜ、キーヤ!」


「ナガルもいんだろう?」


「じゃあ、嬢ちゃんも一緒か? さっき王女殿下って聞こえたが、フィア嬢ちゃんの事か?」


 冒険者たちが戦いながら、ちらちら私を窺い見ます。

 お兄様に目を向け、そして私を見て…なぜか、可愛そうな子を見るような目つきをしております。


「殿下の…妹、なんだよなあ…」


「そうだよ、似ているだろう?」


 お兄様、何をおっしゃっているのですか! 冒険者の方々が引いておられますよ。お世辞にも似ているとは言い難いでしょう!


「ははははっ! 殿下がそういうならフィア嬢ちゃんは本当に姫さんなんだな!」


 豪快に笑いながら魔物と戦う冒険者の方は、見えねえけどな、と笑いながら剣を奮っておりました。


「良いじゃねえか。フィア嬢ちゃんが姫さんなら、俺らはみんな姫さんの仲間だぜっ!」


「確かにそうだ! 俺らは姫さんの仲間だ!」


「んじゃあ、姫さんを守る為、冒険者の底力見せてやろうぜ!」


「おおよ! ここから後ろには一歩も通さねえぜ魔物ども!」


 私の身分を知っても、憤るどころか、姫さんと呼んで、とても温かい目を向ける彼らに胸が熱くなります。

 お兄様も満足げに微笑んでいらっしゃいます。私を気安く呼ぶことに怒るどころか、守ろうとしてくれている事を嬉しく思っているようです。


 蔑むだけの騎士たちとは違います。彼らは、冒険者として私を認めて下さっているのです。

 私は、泣きたくなるのを懸命に堪えました。


 冒険者をしていてよかった――心からそう思うのです。

 

 私は、眠り続けるネスティ様の手を握り締めながら、守るように戦ってくださる彼らにそっと頭を下げました。


 ありがとう…ございます。




 そう、感謝をこめて――







ありがとうございました。

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