15.落ちこぼれ王女と秘めた想いの欠片
「お帰りなさい!」
過去の夢から覚めて少し身体を休めていたところに、ナガルたちが戻ってこられました。
元気に「ただいま」とか「いま帰った」とか口々におっしゃっておりますが、4人とも服が破れ、魔物の返り血を身体のあちらこちらに浴びて、明らかに戦った形跡が見受けられました。大きな怪我はしていないみたいですが、大丈夫なのでしょうか…?
「無事に戻られてほっとしました。それにしてもみなさん、すごい姿ですね? 大丈夫ですか?」
「大丈夫だ、見た目ほど酷くはないぜ。ただ、魔物が結構な数だったからな〜」
「そうですね。僕もあれほどいるとは思いませんでした」
うんざりするぜ、とぼやくキーヤさんは、疲れたとばかりに地面に座り込みました。大きなため息をつくルイフィス様は、キーヤさんに同意するかのように頷いております。
「流風の平原は魔物が少ないって聞いていたけど、誤報だったのかな?」
何処か思案する素振りを見せるアレフリード様は、ナガルに視線を向け問いかけておりました。
「いや、あれほどいるのがおかしい…。急激に増えたとしか思えない…」
何処か遠くを見つめるナガルは、その瞳に怜悧な光を浮かべております。
いったい、何を見てきたのでしょうか…? 聖女様のおられる場所に魔物が急激に増えたとなれば…それは――
「やはり、中心地…なのでしょうか?」
私の問いかけに、ナガルは「まだ、はっきり断定はできない…」と呟きました。でも、その瞳から怜悧な光が消える事はなかったのです。
「その話は後からよ。さあみんな、疲れたでしょう。まずは腹ごしらえよ」
重い空気を払拭するかのようにティカお姉さんが声を発しました。色んな事がありすぎて忘れていましたが、そう言われれば、確かにお腹が空いております。私は、お姉さんを手伝うために勢いよく立ち上がりました。
「手伝いますわ、ティカお姉さん!」
「えっ? 君が作るの?」
私が作ったらいけないのですか、アレフリード様!?
「失礼ですわね、私だって肉を焼くくらいは出来ますわよ!」
「…肉を焼く…くらいね」
「何か言いたいことでもあるのですか?」
「いや、別に…」
なんですの、その馬鹿にしたような笑いは! 思う事があるのでしたらはっきり言ってくださればよろしいのに…。どうせ、君に出来る料理はそれくらいがせいぜいだね、とか思っていらっしゃるのでしょう? 本当の事だけに言われると否定できませんが、何を言いたいのか貴方のその目が語っていますわよ! 本当に腹が立つ!
「僕も手伝います」
「――っ!」
びっくりしました!
アレフリード様に憤る私の目の前に、ルイフィス様の顔がありました。
「あ…ありがとう…ございます? ルイフィス様」
反射的に一歩後ろに下がってしまいました。
「貴女と一緒に料理をする機会を逃すなんて出来ませんよ」
何がそんなにうれしいのか、あまりの笑顔に思わず顔が引きつります。
「…そう…ですか?」
「はい!」
輝くような笑み、というのでしょうか…これは。でも、焚火の明かりに下から照らされ、魔物の血も相まって微妙に不気味ですわよ、ルイフィス様……。
「ルイフィス! お前は料理より先に身体を洗え!」
「えっ? どこに連れて行く気ですか、アレフリード!」
見かねたように、アレフリード様がルイフィス様の手を引いて去って行かれます。いったい何処へ行ったのでしょうか? 身体を洗うという事は水場ですか? そういえば近くに湧水を湛えた泉がありましたわね…。といいますか、今何気にルイフィス様、アレフリード様を呼び捨てになさいませんでしたか? 良いのでしょうか、アルフさんじゃなくて…?
「彼らはほっといて、さっさと支度をしましょう」
「そうですわね、お姉さん」
呆れ口調のティカお姉さんに同意します。さっさと支度をしましょう!
私こと、ユーフィア・シエラ・リスティアは、只今、本当にお腹が空いております……。
その後――料理中にもいろいろありました――何とか無事にみんなで食事を取り、これからの事を話し合いました。その時、誰も聖女様の事を話題にしなかったのは気になりましたが、とりあえず私たちはこのまま水霧の森での討伐を続けるそうです。流風の平原は聖女様がいるから私たちが向かう必要はないだろうというのが、ナガルたちの見解でした。
でも、なぜか予感がするのです…いやな予感とでも言うのでしょうか……。
私は…流風の平原へ向かうことになる――なぜかそう思えて仕方がないのです。
はあ……。
過る予感に緊張する身体をほぐすように一つため息をつくと、私は目の前の泉に視線を移しました。
身体を拭いた後、その側に座り込んでいたのです。しばらく一人になりたいと思っていたのかもしれません。
穏やかに揺れる水面。その水面に映る月明かりがゆらゆら揺れて、まるで先の定まらない自分の未来のように見えます。漆黒の空を見上げると樹木の隙間から、微かに月が顔を覗かせておりました。
とても静かな夜です。魔物大量発生などないかのように静かです。これが、嵐の前の静けさ、とでも言うのでしょうか? 静かすぎて、逆に怖くなります……。
「…ここに居たのか?」
不意に聞こえた土を踏む音と声に振り向くと、そこには僅かに安堵した表情のアレフリード様がいらっしゃいました。心配をかけたのでしょうか?
彼とは会うといつも喧嘩腰になってしまいますけど、お兄ちゃん…かもしれないのですよね? 気持ち的には複雑な心境です――
「…ええ、少し一人になりたくて…」
「なんだ、身体を拭きに来ていたんじゃなかったのか?」
残念、とおどけてみせるアレフリード様に眉を顰めます。まさか…とは思いますが…。
「そういうアレフリード様は、まさか…のぞき、ではありませんわよね?」
「そんなことはしないよ。それに、のぞかなくたっていずれは見る事になるだろうし…」
「な…何を…!」
なんてことをおっしゃるのですか!
羞恥に火照る顔を抑える私を、アレフリード様が面白そうに見ておられます。私が狼狽えるのがそんなに楽しいのですか!?
「相変わらず初心だね、俺の婚約者殿は…。それだから、ルイフィスに隙をつかれるんだよ」
「それは、関係ありませんでしょう!」
「どうして? 普通に考えたらさ、自分の婚約者が他の男に迫られたと聞いて、冷静でいられると思う?」
「誰からお聞きになったのです?」
「本人」
ルイフィス様! あなた、何をアレフリード様に言ったのですか!
「…ルイフィス様は私をからかっただけです! それに貴方は、あくまでも婚約者候補ですわ。私は認めておりません」
「君が認めなくても俺は正式な婚約者だよ。それが覆ることはない」
「貴方はそれで納得できるのですか? ミアさんがお好きなのでしょう?」
そうですわ、なぜ忘れていたのでしょう。アレフリード様は、ミアさんに想いを寄せておられたはずです。そんな彼が、こんなところで魔物討伐などしていて良いのでしょうか?
「そうだね…好きだったね」
「でしたら…」
「好きだった…と言っただろう?」
「…どういう意味ですか?」
「そのままの意味だよ」
どこか機嫌を損ねたように告げるアレフリード様は、私に近づくとそのまま隣に座りました。
どうして隣に座るのですか?
思わず立ち上がろうと腰を浮かした私の手にアレフリード様の手が重なりました。逃れようと手を引こうとしても、まるで逃がさないとでも言うように強く地面に押さえつけてきます。
ここにいろ、という事ですか?
何を思っての行動かは分かりませんが、逃げませんから手を離してくれないかしら…。
「……確かに俺はミアに惹かれた、それは否定しない。一度は君との婚約を解消することも視野にいれたほどだからな」
私の困惑など露知らず、アレフリード様はそう言葉を続けました。
ミアさんを本当にお好きだったのですね。私との婚約を解消しようと願うほどに……婚約を解消? 本当に? でも、そう思っていたのでしたら…、
「そのまま解消してくださればよろしかったのに……痛っ!」
極小さな声で呟いた私の言葉に反応するように、アレフリード様は私の手を強く握りしめてきました。
「君は、それほど俺との婚約がいやか? 俺が嫌いか?」
「…アレフリード様?」
苦虫を噛み潰したかのような声音に思わずアレフリード様を見ると、その顔に悲しげな色を纏っていました。
どうして、そんな顔をなさるのですか? 私が貴方を嫌いなのではなく、貴方が私を嫌っているはずでしょう? そんな顔をされると私が悪者みたいではないですか…。
「…聞いたんだろう? ルイフィスからミアの事を…」
ミアさんの事…? ルイフィス様から聞いた事と言えば……
「精霊の力…ですか?」
「そう、異性に惹かれるっていうやつね」
「…? もしかして……アレフリード様はミアさんから解放されているのですか?」
「今頃気づいたのか?」
気づくわけありませんでしょう!
「俺が解放されるきっかけが君との婚約話だったんだよ」
「はい?」
「ミアにも伝えたんだ、好きだって…。それを信じてもらうために、君との婚約を解消するって…」
まあ、告白していたのですね、知りませんでしたわ。
「…そうしたら、婚約解消は駄目だと言われた」
「ミアさんが止めたのですか!?」
どうして…? アレフリード様を攻略していたのではなかったのですか? 違うのですか?
「ミアが止めた理由というのが、婚約解消ともなれば、君がミアに危害を加えると言われたんだよ」
「私が…ですか!?」
それは…絶対にあり得ませんわね。
「どうしてミアがそう思ったのかは知らないが、俺は君に嫌われていたのは自覚していたから絶対にないと思っていた。けど、ミアはさらにこうも言った『王女様は婚約者を取られたら絶対に私に復讐しようとします。だからお願いです、私を守るためにもぎりぎりまで解消しないでください。必ず、王女様を何とかしますから!』とね」
「そ…それは…」
明らかにミアさんの中にあるライバルイベントですわよね…。
差し詰め、嫉妬に狂った私がミアさんに危害を加え、それを偶然見かけたアレフリード様に助けられる、と言ったところでしょうか。そのあとは、私がアレフリード様に罵倒されるか殺されるかお兄様たちを巻き込んで国を追い出されるか、って破滅エンドまっしぐらではないですか!
「おかしいだろう? 明らかに君に害を成そうと何かを企てているようにしか聞こえなかった。それからかな…まるで悪夢から覚めたかのように、ミアに対し好意の欠片もなくなっていると気付いたのは……」
「それでしたら…貴方もルイフィス様と同じ、なのですか? ミアさんの様子を探るため、今まで好意のある振りをしていたのですか?」
「ルイフィスとは意味合いが違うよ」
ふと、儚げな笑みを見せるアレフリード様は、いつもの人を馬鹿にしたような目ではなく、まるで愛しい人を見るような優しい瞳で私を見つめてきました。
「俺は、君を守るためにミアを監視していた」
「…えっ?」
真摯な言葉で告げるアレフリード様は、まるで普段とは別人のように見えます。でも…。
「信じられない?」
信じられる訳がありません…。貴方に守られる理由がありませんもの。それに、貴方は私の事を嫌っているはずです。無理やり婚約者にされたことを恨んでいるはずです! その貴方がどうして私を守るのですか?
「やっぱり、まだ根に持っているの?」
「何をいまさら…」
『王室の落ちこぼれを妻にいただけるなんて、私はなんて幸せ者なのでしょうか。感激のあまり涙が出ますよ』
初顔合わせで言われたその言葉は、忘れたくても忘れられませんわよ!
「あれは…本心じゃない」
信じられません!
「というか、初顔合わせで最初に君が言った言葉の方が酷いと俺は思うぞ」
「私が言った言葉…?」
私、何を言いましたかしら? 確か…
「初めてお目にかかります、だ」
そう、確かにそう言いましたわ。
「…それで、どうして貴方が傷つきますの?」
あの時の私は、アレフリード様と剣のお兄ちゃんが同一人物だと知らなかったわけですし、初対面の方と思っていたら無難な挨拶ですわよね?
「俺は…ずっと忘れなかった」
「え…?」
小さく呟かれた言葉。
噛みしめるようにつぶやくアレフリード様は、苦痛を堪えるかのように顔を歪めております。
「ずっと…君に会いたかった――会って、謝りたかった」
「…アレフリード様?」
「けど、君は何も覚えていなくて、だから…心にもない事を口走ってしまったんだ」
心にもない事? あの酷い言葉が? 悪気があって言ったわけではないとおっしゃるのですか?
「そもそも、君が忘れているのが悪い…!」
私が忘れているのが悪い? なんですか、それは!
この人はいったい何を言っているのでしょうか!? なぜ、私が忘れていたことが悪いのでしょうか?もしかして、逆切れですか? 私が忘れていたから意地悪したと? どこの子供ですか!?
「私が忘れていたのは貴方の所為ですわ! 貴方が…剣のお兄ちゃんが突然会いに来なくなったのが、あっ…!」
…私、今…何を――
これも売り言葉に買い言葉というのでしょうか? 思わず口に出た言葉に愕然と致しました。私は、思い出していることを彼に告げるつもりはなかったのです。
狼狽える私を、アレフリード様は信じられないとでも言うように目を見開いて見ておりました。
「…思い…出して…いたのか?」
絞り出すような声音。それがアレフリード様の動揺を物語っているようです。私は声を発することも出来ず僅かに頷くことで返事を返しました。
「…そうか」
ぽつりと呟くとアレフリード様はそれきり黙り込んでしまいました。触れている手が震えているようにも感じます。何を言うべきか悩んでいるのでしょうか? じっと視線を水面に移したきり動きません。
このまま黙っているのも居たたまれないのですが、どうしましょう…? やはり、訊いた方が良いのでしょうか? 私から切り出すのは気が重いのですが…。
「…訊いても…良いですか?」
私は、一つ大きく息を吸うと、覚悟を決めてアレフリード様にそう問いかけました。
「…なに?」
自分の身体が微かに震えているのが分かります。本当は確認するのが…怖いです。忘れてしまいたいと願うほどの辛い思い出なのです。それを知りたいと思う訳がありません。でも、望んで思い出した記憶なら、このままでは駄目なのです。
お兄ちゃんが会いに来てくれなくなった理由…。それを彼から訊かなければ、どちらにせよ先には進めない…と、そう思うのです。でも、怖いのも本当です。
幼いころ、周りからなんと言われていようが、お兄ちゃんだけは私の味方だと思っていましたもの。もしそれを否定されたらと思うと…すごく怖いのです。
私は、奮い立たせるように手を強く握りしめ、アレフリード様を見据えました。
「…どうして……会いに来てはくれなくなったのですか?」
「それは……」
困惑しているのがありありと伝わってきます。その表情からも、触れている掌からも――
やっぱり答えてはくれないのでしょうか?
口を堅く閉ざすアレフリード様は、私から視線を逸らすように横を向きました。
拒絶するかのような彼の姿に、なぜか泣きたくなりました。
お兄ちゃんなのに…剣のお兄ちゃんなのに…!
どうして、何も言ってくれないのですか?
それとも、言えないのですか?
言えないのは、彼も――剣のお兄ちゃんも、皆と同じように私の事を落ちこぼれ姫と思っているからなのですか…?
「どうして答えてはくれないのですか? 言えないのは……私が落ちこぼれ姫と知って…幻滅したからなのですか!?」
「違う! それはない!」
「では、どうしてっ!」
「…父に止められたんだ。王女に剣を教えてはいけない、怪我をさせたらどう責任を取るつもりだと…そう言われた」
振り絞るようにアレフリード様が告げてきました。
止められた…? お父様に?
「それでも、一言くらい……」
せめて、会えない理由くらい告げてくれていたら――
「君に会いに行くのを禁じられたんだ…それに逆らう術を当時の俺は持ちえなかった…!」
「私と会ってはいけないと…そう言われたから、何も告げずに、突然会いに来てはくれなくなったのですか? 私が王女だから、何かあったら責任問題になるからと…その責から逃れるように離れていったと――そういう事ですか?」
「ああ…」
「…私がどんな思いで待っていたかなんて、お兄ちゃんには関係なかったのですね! 私だけが、お兄ちゃんと慕って、ひとりではしゃいで――ずっと待って…待っていたのにっ!」
はは…なんだろう、落ちこぼれ姫と蔑まれるのは慣れていると思っていましたけれど、こんな理由だったなんて――すごく胸が苦しいです。
「どうして教えてくれなかったのですか? 教えてくれていたら、それがどんな理由であってもお兄ちゃんを忘れることなんてなかったのに!!」
瞬間、私はアレフリード様に触れている手を思い切り引かれ、気が付いた時にはその胸の中に抱きしめられておりました。
「離してくださいませ!」
「いやだ!」
強く、何かを耐えるかのように抱きしめて来るアレフリード様の身体が震えておりました。
掠れる声で「絶対に離さない!」と呟き、さらに強く私を抱きしめてきます。
離してほしいのに……離してほしいと思っているのに、どうして私はこの腕を突き放せないのでしょうか? どうして…この腕の中にお兄ちゃんを感じてしまうのでしょうか?
アレフリード様なのに…。私を抱きしめているのは、ずっと嫌われていると思っていた――アレフリード様なのに!
「ごめん…」
耳元に響く小さく呟かれた謝罪の言葉。
「ごめん、僕の小さな剣姫様。一人にして本当にごめん…」
「ごめん、なんて言葉は聞きたくありませんでした! お兄ちゃんに傍に居てほしかっただけなのに…。一緒にいてくれるって言ってくれた、その言葉を信じていたのに――うれしかったのに!」
「ごめん…、君を守ってやれなくてごめん」
堪えきれずあふれる涙をアレフリード様は自分の胸で受け止め、さらには何度も何度も、ごめんと繰り返していらっしゃいました。いつも飄々としている彼からは想像もつかない程、弱弱しい声でした。
どれだけそうしていたのでしょうか…。
アレフリード様は、私が落ち着くまでずっと抱きしめてくださいました。優しく頭をなで、まるで幼子をあやすかのように――
「…許してくれとは言わない。俺にはそれを願う資格すらないから…。でも、お願いだから、今の俺は信じてくれないか…? 今度こそ、必ず君を守るから…約束するから。一人に…しないから…!」
懇願するかのような声音。
後悔…していらっしゃるのですか? 何も告げず私から離れたことを――お兄ちゃんも、ずっと後悔して苦しんでいたのですか? だから…私を守ってくれているのですか?
ルイフィス様がおっしゃっていたミアさんから解放される条件は、不振を持つ事と、彼女より大切な者がいる事です。先ほどアレフリード様は、大切な者の事は話されませんでした。それが私との思い出だと、そう思っても良いのでしょうか? 解放された後もミアさんを監視していたのは、私を守るためだと…。
その言葉を信じても…良いのでしょうか? また、離れていくのではないのでしょうか? 信じて裏切られるのはもういやです。でも…私を抱きしめてくれるその腕の優しさが、真摯に告げて来る言葉が、頑なな心を溶かすように沁みこんでくるのです。
抱きしめてくれているのはお兄ちゃんです。この腕の温もりは覚えています。一緒にいてくれて小さな剣姫様と呼んでくれた、私の大好きな―――
私は、貴方を信じても良いのですか、アレフリード様?
信じて良いのですよね――剣のお兄ちゃん。
返事の代わりに、私はそっとアレフリード様の背に腕を回しました。
ありがとうございました!




