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1.落ちこぼれ王女と乙女ゲーム

初投稿です。

文章力が乏しく、読みにくい点が多々あると思いますが、温かい目で見てもらえるとうれしいです。

「大丈夫? 怪我はない?」


「…はい」


 私の視線の先には、頬を朱色に染め俯き加減に返事を返す淡い金髪の愛らしい少女と、心配そうに少女を優しく抱き留める黒髪美形青年がおります。


「ちゃんと前を向いて歩かないと、怪我をするよ」


「すみません…!」


「ほら、可愛い顔に傷が付いている」


「あ…」


 青年の指が、少女の頬に触れる。

 つぶやく言葉とともに微かな光が発し、少女の頬からは傷が消えておりました。

 回復魔法をお使いになられたようです。


「これで、大丈夫だね」


「ありがとうございます、アレフリード様!」


 あわてて青年から離れた少女は何度も頭を下げています。会話からすると、俯きながら歩いていた少女が青年にぶつかった、というところでしょうか。ありがちな場面ではあります。が、問題はそれを繰り広げているのがこのお二人だということなのです……。


 ここは、リスティア王国王立学園。

 総合学科、騎士科、魔術科、教養学科からなる王国屈指の名門校です。主に王国の未来を担う貴族の子弟が学園に通っております。

 13歳から15歳が入学可能年齢で、教養学科は3年、その他は5年間学びます。特に総合学科は、すべての面において優秀な方以外は入学できません。それゆえ、総合学科のみは、騎士科や魔術科に入学後、新たに試験を受けることが可能になっております。入試資格は卒業前年度までとなっておりますが…。


 その学園の敷地内に、貴族階級、それも上級貴族の者しか入ることのできない庭園がございます。そこの庭園の奥まった場所にある温室の入り口で、お二人は楽しそうにお話をなさっておられるのです。


 学舎南に面した一角に設けられたそこは、季節の花々が咲き乱れるとても美しいところで、私も、日々の憩いの場所としてよく訪れます。

 それに、ここを訪れるのは上級貴族の方のみですので極少数ですし、みなさん存じておられる方ばかりですから落ち着いて過ごせるのがここに来る一番の理由でしょうか。

 本当にこの庭園は大好きな場所だったのですけれど…。


 入り口にて談笑――イベント中に見えます――しているお二人の姿を見かけた私は、すぐ近くの木の陰に身をひそめました。見つかりたくありませんもの。


 お二人のうち、黒髪美形青年のことは存じております。

 彼は侯爵家嫡男アレフリード様。

 この学園の騎士科の5年です。

 優しげな深い蒼い瞳と神秘的な漆黒の黒髪の美青年で、剣術は学園一の実力の持ち主です。卒業後は王宮の近衛騎士団への入団が決まっておられます。しかも物腰柔らかく身分にとらわれず誰に対してもお優しいので、大変人気があります。

 ただし一部を除いてですが…。


 けれど、私は少女のことを知りません。いえ、知らないというのは語弊がありますね。噂では存じております。直接お話ししたことはありませんが。


 少女は、今年魔術科に入学された、ミアさんという方です。

 生まれは平民ですけれど、高い魔力保持者のようで特別枠で市井の学び舎から転入されてきたようです。突然の魔力暴走により高魔力保持者と知られたからとのことですが、噂ですので詳しいことは存じ上げません。


 そんな彼女ですが、大変可愛らしいのです。

 光を弾くような淡い金髪に新緑を思わせる深い碧の瞳。その微笑みには誰もが見惚れ、たどたどしい仕草も相まって大変保護欲をそそられるようです。現に何人もの殿方が夢中になっておりますもの。

 身分にこだわる令息がチヤホヤする光景には、何かうすら寒いものも感じますが…。


 それとは別に、身分に奢る令嬢たちはその様子に憤っておられます。

誰も彼女に近づくことすら出来ずにおりますのでストレスがたまるのでしょう。彼女を守るように、殿方たちが四六時中そばにべったり張り付いていらっしゃいますもの。


 私もその様子を伺っては、うん、どこの乙女ゲー設定?と思いましたわ。


 お気づきでしょうか?

 私は転生者です。


 転生者といっても、覚えているのは、ゲームや小説が好きな普通の日本人女性だったっていうことだけです。前世の名前や職業、両親や家族のことは一切記憶にはありません。

 なぜ死んだのか、それはいくつの時だったのか、どうしてここに生まれたのかも分かりません。ただ、結構落ち着いた思考をしていたようなので、大人の女性だったのではないかとは思います。因みに学力も簡単な基本以外は忘れています――というか、勉強が嫌いだったのかもしれません――夢なのか私自身の妄想なのか初めは戸惑い混乱すらしましたが、成長するにつれ、この世界がゲームや小説のような世界だというのを漠然と感じるようになりました。


 私の記憶の中にある小説の中ではありふれた転生もの。


 その記憶のおかげか、この世界が紛れもなく現実であり、自分はこの世界に転生したのだと受け入れるにはそれほど時間はかかりませんでした。それまでには、たいそう周りに迷惑をかけておりましたもの。 例えば、RPGの夢の中だと思って、一人で剣を振り回してみたり、見様見まねで魔法を使いやけどや怪我をおってみたりとか、今思えばやりたい放題でしたわ。

 忘れたい汚点です。


 前世との一番の違い。

 それは魔法や精霊が当たり前のように存在するということでしょうか。それに気づいた時は、小説やゲームによくあるRPGの世界に転生したのかな、と思って――前世の私は乙女ゲームと魔法が大好きでしたので――ちょっとうきうきしたのだけど、魔法は使えてもチートというほどすごい能力ではありませんでしたわ。普通並みに使えるだけでした、残念…。

 でも、そのおかげで、まだ夢の中だと思って魔法を使っていた時に、軽いやけどや軽いけがで済んだのですけどね。


 話が逸れてしまいましたね。

 それにしても、今、私の視線の先で展開されている状況はいったいなんなのでしょうか?

 これは、本当に乙女ゲームなのでしょうか?

 でも、記憶にある乙女ゲームに心当たりありません。

 私の知らないゲームなのでしょうか?


 確かにこの学園は名門です。在学している方も優秀な貴族の子弟や王族が通っておりますので、見目麗しい方はたくさんおります。

 それこそ乙女ゲームの舞台と言われても違和感のないほどに、一際目を引く方々もおります。

 それは、学園4強と呼ばれている方たちです。


 ひとりは、学園最強の魔術使いと呼ばれる魔術科5年のルイフィス様。

名門伯爵家第2子で薄茶の髪に漆黒の瞳をした美青年です。どこか妖しい雰囲気を纏うお方で近寄りがたい存在です。

 もうひとりは、この国の第1王子エスリード様。

輝く金色の髪とこれまた澄んだ青い瞳の美青年。その能力も飛びぬけておられて学園最難関の総合学科5年です。

 その第1王子の側近でもあるネスティ様は、総合学科に通われる5年で公爵家嫡男でもあります。宵闇に輝く青銀の髪と薄紫の瞳を持つ絶世の美女と言わしめる美貌の青年ですが、絶世の美女と言おうものなら、鋭利な刃物のような眼差しを受けるので誰も本人には言いません。はっきり言って恐ろしいです。身を持って経験いたしましたから…。

 ここにアレフリード様を加えて学園4強と呼ばれております。


 私が乙女ゲームと思い至ったのは、この4強とミアさんが妙に接触しているということでしょうか。キャラ設定にも世界観にもまったく記憶はありません。でも、よく殿方に囲まれてはおられるミアさんが、自分から接触するのは4強だけのような気がいたしますので、そんな場面に遭遇するたびに乙女ゲー?と首を傾げたくなります。


 そうなのです。よく私はそういう場面に遭遇するのです。

 その時ばかりは周りを囲む殿方たちがいらっしゃらないのが不思議ですが、偶然居合わせること数回。まるで、二人の邪魔をしろと言わんばかりに私の行く先々で彼女と仲睦まじくお話しなさる4強の皆様を見かけるのです。


 いったい私にどうしろと……。


 本当に私の知らないゲームの世界に転生したのでしょうか?

 もしそうならば私の役どころは? 

 やっぱりライバルキャラ?

 いやですわ、関わりたくもありませんし無視です無視!

 勝手に攻略でもなんでもするといいのですわ。

 相手が誰であろうと私には関係ありませんから!

 憤ってみてもこの感情を吐露するわけにもいかず、思わずため息が漏れます。


 はあ…。




「それで貴女はいつまで見ているつもりなのですか?」


 ふいにかけられた声に驚き、後ろを振り向くと、鋭利な笑みを湛えるネスティ様がいらっしゃいました。


 なぜ、彼がここに?


 長めの青銀の髪を後ろで一つに束ね、薄紫の瞳に怜悧な光を宿す壮絶な美貌を持つ絶世の美女?は薄く口元に笑みを浮かべて私を見下ろしておりました。

 その微笑みに冷や汗が流れます。幼いころネスティ様に冷やかな視線を向けられて以来彼に会うとどうしても萎縮してしまいます。今も目は笑っておりませんからっ!


「本当に貴女はいつも彼女を見ていますね? 何か含むものでもあるのですか?」


 静かな問いかけは、少しとげを含んでいてさらに背筋に鳥肌が…。


「…なぜ、あなたに言われなくてはならないのですか? 好きで見ているわけではありませんわ」


 極力抑えた声で話すのは、仲睦まじく会話をしている二人に見つからないため。

 声が少し震えるのは、けしてネスティ様の言葉に傷ついているわけではありません。怖いだけです。


「そうなのですか? 貴女を見ているといつも彼女を見ているような気がするのですが、私の気のせいでしょうか?」


「気のせいですわ。

 私が見ているのではなく、あの方たちが、私の前でいちゃついているだけです。ともかく、私には彼女との逢瀬を邪魔するつもりはありませんわ」


 なぜ私が問い詰められなくてはならないのでしょう!

 彼女と出会って以来、ネスティさまは私を敬遠していらっしゃったはずなのに…。

 どうして…?


「…彼女の相手が誰であっても?」


 探るような問いかけ。

 冷えた瞳に射抜かれ、思わず視線をそらしてしまいました。

 条件反射です。


「…ええ、もちろん。出来るのなら、人目のつかない場所でお話し下さいませ。偶然も重なりますと、こちらも不愉快ですから」


「不愉快…ですか?」


「当たり前でしょう…。それに、ここは彼女のような方が来られる場所ではないでしょう? どなたが許可されたのかしら?」


 そう、ここは上級貴族専用の庭園。彼女のような平民が入れるような場所ではないのです。


「エスリード様ですよ」


「えっ…!」


 告げられた名に思わず目を見開きました。思わずネスティ様の顔を凝視するくらいには驚いていたと思いますわ。

 まさか、王国の第一王子自らが許可していたなんて、寝耳に水です。

 彼女にとらわれたのは貴方もなんですね、――様。

 よく一緒におられますから、まさかとは思いましたが…。

 これが、乙女ゲームだとしたならば納得。でも、一国の王族の行動としては呆れますわね。学園の規律を王子自らが破棄するなんて…。


「…そうですか。あの方が許可したのならば私にそれを非難する権利はありませんわ。どうぞご自由に。それでは失礼いたしますわ」


「どちらへ行かれるのですか?」


「私の存在が目障りでしょう? 消えて差し上げますわ」


「逃げられるのですか?」


 もういい加減この場を離れたいのに、なぜこうも絡んでくるのでしょうか?


「なぜ私が逃げないといけないのですか?」


 相手をする私も私ですが…。


「貴女の婚約者がほかの女性と仲睦まじいのを見ていられないだけなのでは?」


 なにをまた的外れな事を…!

 それではまるで私が彼女に嫉妬しているみたいではありませんか!

 そう見えるのですか?

 ばかばかしい!


 確かに、彼女と今仲睦まじくお話しなさっている――イベント中の――アレフリード様は私の婚約者とされておりますが、それは勝手に決められたことであって、私は認めていないので候補です。彼に興味もありません! 彼も私には関心がないはずですもの!


「……彼は、まだ婚約者ではありませんわ。候補というだけです。正式に決まった――認めた――わけでもありませんので、現段階で彼が誰と親しくしようと私には関係ありませんわ」


「…本当ですか?」


 めずらしく、しつこいですね!


「…本当ですわ。それに、彼女が接触、いえ、彼女に執着なさっておられる方はアレフリード様だけではございませんでしょう?」


 ネスティ様、あなたもですよね。

 わずかな皮肉。

 小さく告げた言葉に珍しくネスティ様が苦笑する。


「シエラ様…」


「貴方にその名で呼ぶのを許した覚えはありませんわ」


「申し訳ありません。ユーフィア様」


 瞳にわずかな笑みを乗せたネスティ様の美しさに一瞬息をのむ。わずかの動揺も悟られたくなくて平静を装いつつ私は踵を返した。


女の私よりも美しい男なんて嫌いよ!

 嫌味ばかりの男も嫌い!

 彼女を溺愛するのは構わないけれど、私を巻き込まないでほしいですわ。


 それにしても今のネスティ様、あれは彼女を守るための牽制よね。

 私が何か彼女に害をなすとでも思っているのでしょうか。

 よほど信用がないのですね、私は…。ちょっと落ち込みます。

 このままだと本当にライバルキャラにでもされかねないですわね。

 誰のっていうのが微妙ですが…。


 彼女自身と接点はないのだけれど、彼女を取り巻く4強とは少なからず接点はありますもの。

 今現在、学園4強はミアさんにご執心です。

 

 いかにもイベント中という場面に遭遇する私は、どうしたらいいのでしょうか?

 みなさん存じ上げている方々ですので対応にも困るのですが…。


 やはり、この世界は乙女ゲームの世界なのでしょうか?


 私は、ユーフィア・シエラ・リスティア。

 リスティア王国第3王女で落ちこぼれ姫と呼ばれています。



ありがとうございました!

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