ラブカクテルス その18
いらっしゃいませ。
どうぞこちらへ。
本日はいかがなさいますか?
甘い香りのバイオレットフィズ?
それとも、危険な香りのテキーラサンライズ?
はたまた、大人の香りのマティーニ?
わかりました。本日のスペシャルですね。
少々お待ちください。
本日のカクテルの名前は砂遊びでございます。
ごゆっくりどうぞ。
私の仕事は土木建築業。
この国を住みやすいものにするために、日夜努力をしている。しかし、泥や土との闘いは非情である。
ある時は仲間が仕事で命を落とすこともある。自然との闘いとはそういうものなのである。
しかし、そんな俺たちも心を癒せる場所がある。
それが家族だ。
俺には4歳になる息子がいる。
とても可愛い盛だ。目に入れても痛くないとはよく言ったものだ。
今日は久々の休みだ。俺は息子と前から約束していた公園に、遊びに連れて行くことなっていた。日頃の疲れからか、朝は寝ていたかったが、早くから起こされたのはそういう訳だ。
いつも夜は遅いし、朝は早い。なかなか顔もまともに合わせられないお詫びでもある。
仕方ない。
俺はカミサンから、息子が今、公園の遊具で遊ぶのに夢中で、その中でも砂場は大のお気に入りだと聞いていた。
俺にしてみれば、たまの休みだし、遊園地や、動物園でも行ってやるほうがいいと思っていたが、子供は公園で満足なのだそうだ。
それならコチラも楽でいいが。
息子は砂場で遊ぶ玩具のシャベルや、クワ、バケツなどを嬉しそうにブラブラさせてハシャギながら俺の手を引っ張って歩いた。
久しぶりに一緒に歩く息子のしっかりした足取りに俺は驚いた。
息子はたくましく育っているようだった。
公園に着いた途端、息子は俺の手を離し、一目散に砂場に走った。そして、玩具のシャベルで穴を掘り始めた。
しばらく様子を見ているだけの俺に、息子は大きな山を一緒に作ろうと誘ってきた。俺は、よーぉしっ、と腰を上げた。
俺は使っていない玩具のクワで砂をかき集め、息子が作る山に盛っていった。
しかし、砂場の砂は意外と細目で、なかなか山は高くならなかった。
息子はいくらやっても高くならない山に、少しフテクサレ始めて、俺にもっと高くしてくれとダダをコねはじめた。
俺は仕方なく、息子から玩具のシャベルを受け取り、穴を掘り、砂を山に掛け始めた。しかし、量をかけても山はある程度で砂が崩れて横に広がってしまうだけだった。
俺はイライラしてきた。
俺は考えた。このままじゃいかん。
俺は冷静になった。
相手は砂だ。
仕事に置き換えたらイケるはずだ。
しばらく砂を手に取り考えると、俺は閃いた。
そうだ。土留めだ。滑ってしまうなら止めればいい。
俺は近くに転がっている、なるべく太い木の枝を山の周りを囲うように差して、壁を作ったのだった。そして砂の山の上にシャベルで砂を掛けると山はみるみる高くなっていった。
息子は目を輝かせながら俺からシャベルを取り上げ、穴を掘っては山にその砂を掛け始めた。
しかし少し経つと、砂はその土留めを乗り越えて流れて出した。
それを見た息子は俺にもっと高くとシャベルを渡してきた。
俺は仕方なく、大きくなった直径の通りにまた、枝で土留めをした。
すると息子はまた、俺からシャベルを取り上げ、また違う穴を掘って砂を掛ける。その繰り返しで、山は俺のヘソくらいの高さまでになったのだった。
息子は今度、あまりの高さに砂が掛けれないと怒り出した。
俺は、また人を困らせる息子をしばらく抱えてやりながら、砂を掛けさせてやっていたが、だんだん腕が疲れてきた。
息子もなんだか飽きてきたらしく、シャベルを俺に渡すと、滑り台をしてるからもっと高い山作って。と行ってしまった。俺は付き合いきれないと、玩具の道具を片付け始めると、それを滑り台の上から見ていた息子は、そこでジダンダを踏んで山を高くしろと、騒ぎはじめた。
俺は嫌々シャベルを持ち、穴を掘り始めると、息子はまた滑り台で遊び始めたのだった。
俺は砂場のあちこちを掘り、いよいよ山は俺の胸の高さまできた。そこまでくると、夢中になりだしたのは俺の方だった。
山はかなり広い直径を保ちながらそびえていたが、いよいよ俺でも天辺に砂を掛けるのが困難なものになったので、俺はまた考えた。
仕事だったらどうするか。
俺は公園を見渡した。すると、ウンテイを登る梯子が、二本のボルトでとまっていてるのが目に入った。
俺は近寄ってボルトを手で回してみると、外せそうだった。
イケる。俺は梯子を拝借することに決めた。
ウンテイの梯子は錆がかなりあったものの、意外と簡単に取り外すことができた。俺は引きずりながら鉄の梯子を砂場まで持ってきて、一番手前にある穴に梯子の足元を落として、山目掛けて立掛けた。
足元をよく固めてコケないようにしてから登ってみると、だいぶ頼りになりそうだった。
俺はバケツにシャベルで砂を入れて上に掛ける作戦に出た。
山の裾が広がる度に土留めをし、砂を掛ける作業は繰り返され、とうとう山は俺の背丈を越えたのだった。俺の心はその壮大な姿に、さらに激しく興奮させられたのだった。
玩具のシャベルは砂を掻きすぎて、まるでメッキを懸けたように輝やき、俺の顔を映し出した。
俺はやる気をあおられ、六つ目の穴を掘り始めようとした。
が、その時俺のシャベルを持った手を止める声が聞こえた。
おしっこっ!
後ろを振り返ると、そこには息子が両手で股間を押さえながらジダンダを踏んでいる姿があった。
しまったっ。俺は夢中になりすぎて、すっかり息子の事を忘れていたのだった。
息子は足をバタバタして叫んだ。
俺は周りを見たが、トイレらしいものはなかった。
俺は慌てて、とりあえずウンテイの梯子を砂で隠して、息子の手を引っ張って家に戻ることにしたのだった。
後に取り残されたその山を見て誰もが、呆れ、直そうと知る者はいなかったため、その公園には人気の砂場がなくなり、滑り台が二つある公園になってしまった。
おしまい。
いかがでしたか?
今日のオススメのカクテルの味は。
またのご来店、心よりお待ち申し上げております。では。




