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指に宿る邪  作者: makerSat
第1章 双生の鬼子
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雨が奏でる不協和音

 りゅう崎町さきちょうは朝から雨だった。

 そのため、天笠柚紀あまがさゆずきはサボタージュを決め込んだ。大学には行かずに、家で机に腰掛けてぼんやりとすごしている。

 彼女の視線の先で、雨粒が窓の外をひっきりなしに流れていく。

「……柚紀ゆずき。どうしたの?」

「んー」

「お腹いたい?」

「んー」

 双子の鬼、阿鬼都あきと鬼沙羅きさらが何を尋ねても、ひたすらに生返事ばかりしていた。

 彼女がそのような調子であったから、双子は、荒療治しかない、と顔を見合わせて頷きあう。陰気は損気である。

柚紀ゆずきにせんちめんたるなんて似合わないなー」

「そうそう。いくら雨降りのせいで6月の某イベント、かっこ花婿に逃げられてしまったの巻かっことじ、を思い出さずにはいられないとはいってもねー」

 ざーざー。

「いい加減にして欲しいよなー」

「ほんとほんとー。陰気がうっとうしすぎてキノコ生えちゃいそう」

「こう暗くちゃ、他の男だって寄り付かないって」

「陰気オブザイヤーって感じだもんねー」

 ざーざー。

「正直鬼の目から見ても願い下げだよー。女好きの酒呑しゅてんのやつでも倦厭けんえんしそう」

「いばちゃんは物好きだから意外とおーけーかもね」

茨木いばらきか? どうかなー。それよりあれは? 昔お坊さんにフラれて鬼になった――」

「あーきよちゃん?」

「そー。清姫きよひめ。あいつ今、女が好きだろ? 柚紀も一応女だし、あれなら……」

「んー。たぶん無理じゃない? こんなに陰気じゃー」

「そっかー。やっぱ陰気じゃなー。ついでに乱暴だし」

「陰気じゃねー。ついでに目つき悪いし」

 がたっ。

 そこで、柚紀ゆずきが勢いよく立ち上がった。

 双子は怒声に備えて身構える。

 しかし――

「……ちょっと出かけてくる」

 柚紀ゆずきは無表情で歩みを進め、玄関先にかけてある茶色の雨傘を手にした。玄関扉を潜る。

 がちゃ。

 物音とともに閉まった扉を、阿鬼都あきと鬼沙羅きさらは呆然として見守っていた。

 ざーざー。

 雨音だけが、部屋に響いていた。


 ばちゃばちゃ。

 雨の中を陰気な女が歩いてゆく。

 ざーざー。

 降り続く雨は、心の陰りを深くしていった。


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