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15:00 「ほんの少しの思い出」
白い情景。夢のような、まどろみの中にいる。
僕は昔のことを回想していた。
小学生のころの話、僕がまだ桐渕と何でも競い合って遊んでいたころの話。
一度だけ、桐渕に学校のテストの点数で勝ったことがあった。算数のテストだ。100点だった。そのことが嬉しくて嬉しくて、僕は計算間違いをした桐渕に言ってしまった。
『そんな問題もわからないのか』
桐渕は大泣きした。後にも先にも、彼女が泣いたところを僕はついぞ見なかった。そのとき限りだ。僕にとっては何の気なしに放った一言だったが、桐渕はいつまで経っても泣きやまなかった。僕はバツが悪くなり、それ以上は声をかけず、逃げるように立ち去った。
ふと思い出した、桐渕があんな目をするようになる前の話である。
その過去の光景は少しずつ遠ざかり、白の中に溶けていく。
気がつけば、いつの間にか握られていた真っ白な鎖が、僕の手の中で静かに溶けていた。




