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14:50 「新校舎2階廊下にて決戦 -1-」

 

 僕は何も言えなかった。

 高慢ちき。常軌を逸するほどに。長年の思いを破裂させるような吐露。僕が何を言ったところで無駄だとわかった。根本からぐちゃぐちゃにねじれているんだ、この女は。

 沈黙が訪れる。

 

 しかし思いのほか、その静けさは早くに断ち切られた。唐突に、ベルの音が鳴り響く。びくりと体が震えた。何事かと思えば、桐渕が携帯を取り出した。音の発信源はその携帯だ。すぐにベルは鳴り止んだ。

 

 「さて、だいぶ長話をしてしまった。現在、時刻は14時50分。ゲーム終了まであと10分となった」

 

 夢から覚めたように、はっとした。ベルは桐渕が目覚まし機能を使ってあらかじめ設定していたもののようだ。

 失念していた。今もまだゲームは続いている。呆けている場合ではなかった。時計も確認せずに話に聞き入っていたとは。

 

 残り10分だ。短い。短すぎる猶予。

 それまでに桐渕を殺さなければ、僕の生還はない。だが、どうやって。正面から戦いにいって、勝てるのか。それは不可能だ。運命書き換え能力があるかぎり、僕は桐渕を殺せない。不意打ちを突くにしても、その方法がない。罠をしかけて誘導する、それも馬鹿げた作戦だ。あと10分でできることは何もない。

 

 しかし、それは桐渕にしても同じことのはずだ。僕がプレイヤーだと気づいたのだから、何も悩むことなく殺してしまえばいいだろう。普通なら。それができないということは、僕の能力が効いている証拠。殺意を持って僕を殺すことはできない。桐渕が僕を殺そうと考えれば考えるほど、殺すことはできなくなる。

 

 「まいったな。これは困った。この状況になっても、私は君を殺す気が微塵も起きない。不合理だとわかっているのに、行動する気が起きないというのはつくづく不思議な気分だ」

 

 「僕のこと助けたいとか言ってたくせに、結局殺す気か!」

 

 「そりゃそうだよ。私だって自分の命は惜しい。君を失うことは計り知れない損失だが、私の命には代えられないな」

 

 「そもそも僕はプレイヤーではない!」

 

 「島井君の攻撃を止めて見せたじゃないか」

 

 「何を言っているんだ。僕は何もしていない! 島井やお前がどう思っていたのか知らないが、お前たちの考えていることなんて僕の知ったこっちゃない。言いがかりをつけるな!」

 

 「ふむ……まあ、君の言うこともわかる。もしかしたら君はプレイヤーでないのかもしれない。島井君が全校生徒を殺してしまったとは言っても、彼の能力的に1人残らず全て殺しきれた保証はない。何人かはまだ生きている人がいるだろう。その中にプレイヤーが要る可能性もある。君を疑うばかりで視野が狭まっていたようだ。すまない」

 

 そう言う桐渕の悪意はほとんど減る様子はなかった。少しばかり疑念が増えたが、スズメの涙ほど。僕への殺意は消えない。

 建設性などない、ただ時間を浪費するだけの言い合いだ。どちらも一歩も譲る気はなかった。残り10分という貴重な時間が無意味に削れていく。

 

 「黙りなさい……」

 

 その膠着した状況に一石が投じられた。それまでうずくまって泣いていた向坂が声を発したのだ。小さな声だったが、突破口を模索していた僕と桐渕はそのわずかな変化にもすぐに気づいた。視線を向坂に向ける。

 

 「ゲームを終わらせたいのでしたら、簡単な方法がありますわ」

 

 向坂が立ちあがる。その目は強く桐渕を睨んだ。手に持つ裁ちばさみを握りしめている。

 

 「桐渕伴、あなたが死ねばいい。それでゲームは終わる」

 

 再度、はさみを構えた。さっきまでの尻込みしていた様子はない。剣を持つ桐渕に対して、堂々と対峙している。島井を殺した報いを受けさせるという、強い意思を感じさせた。

 

 「その通りだ、向坂さん。何も間違っていない」

 

 それに対して桐渕は応えるように剣を持ち直す。間違ってはいないが譲る気もない、桐渕の立ち居振る舞いは案にそう伝えていた。不敵な笑みは変わらない。

 

 この展開、僕にとってはプラスだろう。だが、あってもなくてもいいようなプラスだ。一般人の向坂では桐渕に勝てない。

 いや、そう決めつけるべきではないか。勝てないにしても、状況に変化を与えられる。向坂は一応、こちらの戦力だ。いかにそれを最大限、利用できるかを考えるんだ。無駄にするな。選択を見誤れば生き残れない。

 

 しかし、向坂は僕が何か言う前に飛び出してしまった。

 

 「あ、ちょ……!」

 

 待たない。待ったなしの気迫。僕の言葉では止められない。

 走り寄る向坂。それに合わせるように、桐渕は軽く剣を振り上げた。

 

 踏み出しと同時に繰り出される突きにも似た一閃。速い。脇から見ている僕でさえ鋭いと感じる一撃だ。正面からそれを迎え撃つ向坂には電光石火に見えただろう。

 

 「ぐぅ……!」

 

 向坂は下手に回避しようとしなかった。できなかったのだろう。はさみで受け止めた。2枚の刃を開いて、挟み込むようにして受ける。白羽取りのような感じだ。素人丸出しの無駄の多い防ぎ方だったが、なんとかしのげた。剣を肩の上へそらすことに成功する。

 

 だが、そこまで。正面きっての近接戦、ものを言うのはどれだけ次の一手につなげられるかだ。一合は次の一合へ。止まらず、相手に先んじた方が勝つ。

 桐渕はすでに次の一手に向けて動いていた。両手で握っていたはずの剣を、いつのまにか片手に持ち替えている。そして開いた方の手に出現する、もう1本の剣。向坂は防御体勢のまま固まっていた。避けられない。桐渕がニヤリと笑う。

 

 そしてあっけなく決着がついた。腹を突き刺し、肉をえぐって飛び出る剣の切っ先。とっさに後ろ跳び退くも、剣が刺さった事実は覆らない。彼女の腹から赤い血がこぼれた。

 

 桐渕伴は剣に刺された。向坂実論の持つ剣によって。

 

 「は……?」

 

 何が起こったのか理解できない。目の前で、間違いなく、桐渕の方がやられたのだ。これから運命が巻き戻るのだろうか。いや、そんな気配はない。そもそも、それが起こるなら僕は桐渕が怪我をしたという認識さえ持ちえないはずだ。つまり、桐渕の能力は発動しなかった。不意を突かれたのだ。

 

 何よりおかしいのは、向坂が剣を持っていること。桐渕が持っているものと同じ剣だ。どうして彼女の手にそれがある。わけがわからない。

 

 「ど、どいうことだい?」

 

 桐渕の顔は真っ青になっていた。剣を落とし、拾う間もないまま、腹部を手で押さえている。そんなことで止血はできない。桐渕の命がこぼれていく。

 

 「このハサミで挟んだプレイヤーから、能力の1つをコピーして使うことができる。それが私の、『窃盗の鋏』の能力ですわ」

 


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