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14:38 「新校舎2階廊下にて解答 -4-」

 

 向坂はショックで放心状態のようになり、座り込んでしまった。真実より残酷な言葉はないとはこのことか。桐渕の話は向坂のなけなしの闘志を簡単に吹き飛ばしてしまった。

 

 「さて、待たせたね、木末。次は君の知りたいことを話してあげよう。これも順を追って説明していくとしようか」

 

 向坂の心を折った桐渕は、嬉々として次のターゲットを僕に定めた。話したくて話したくて、うずうずしているといった様子。ああ、なんということだろうか。その話はおそらく僕が最も知りたかったことであると思われるのに、聞くことを拒否したい気持ちの自分がいる。

 

 そんな僕のおののきなど一向だに介せず、桐渕は刃物のごとき真実を語り始めた。

 

 「まず、私は4時限目の授業が終わった後、旧校舎資料室に向かい、樋垣鯨太郎君に会いに行った」

 

 もう、その、話の、始まりから、おかしい。頭がおかしい。

 

 桐渕は今朝の登校中、樋垣が大声で何かを話しているところに居合わせたらしい。それはゲームのメールに関する話だった。これで桐渕は、ゲームの参加者のうち自分も含めて3人の存在を知った。

 

 おかしなメールが届いた生徒が他にもいる。そのことは桐渕の琴線に触れたようだ。登校中は時間がなかったため樋垣と話ができなかった桐渕は、昼休みに彼と会おうと決めた。

 授業が終わるのが11時50分。そこから教科書などを片付け、昼飯の誘いに断りを入れ、不良のたまり場となっている旧校舎の資料室前に行く。そこには樋垣がいた。昨日のメールのことについて話し始めたというとき、12時になった。

 

 2人はすぐにゲームの趣旨を理解した。理解はしたが現実のことかどうかはわからない。とりあえず何らかの検証を行い、そこから熟考し、行動すべきた。まさか目の前にいる敵プレイヤーらしき相手といきなり戦うわけにもいかない。普通ならそうする。

 

 だが、樋垣は短絡的だった。血の気の多い彼は喧嘩上等とばかりに息まき、ゲーム開始そうそうにして桐渕に襲いかかる。おそらく考えがあっての行動ではない。ぐだぐだ考えるよりも先にブン殴る。そういう気質なのだ。

 

 それに対し、桐渕は応戦した。いや、そんな消極的な対応ではない。先に手を出したのは樋垣だが、ある意味で桐渕はそれを上回っていた。要するに、樋垣は闘うことを第一に考えたのに対し、桐渕は殺すことを第一に考えた。殺しにいったのだ。その可能性を考慮しておき、瞬時に決断した。

 

 樋垣の能力は接近戦において強力な武器ではある。彼自身の戦闘技能も高い。

 だが、わずか2分で決着はついた。勝者は桐渕であった。差があったとすれば、それは能力の違いではなく両者の決意の違いだった。

 

 桐渕は馬鹿じゃないのかと思う。いくら超能力を持った敵が襲いかかってきたからって、そこであっさり殺人を許容できるものか。その思考に頭を切り替えられるものか。ならない。もうそれは即断即決とか、そんな次元じゃない。なんでいとも容易く犯罪行為に及べる。それって偉いことなのか。イカれてる。紙一重どころか一周回って帰ってきた馬鹿。

 以上の話を聞いた上で、僕は本格的に桐渕を人外認定した。初めからだったんだ。最初から桐渕は化物だった。ゲーム開始から2分で人殺しを決意する人間なんて、人間じゃない。それ以外のナニカ。

 

 「だが、私は失敗した。人を殺すなんて初めての経験だからね。詰めが甘かった。致命傷は与えられたのだが、それで死んだものと勘違いした。彼はギリギリのところで生きていたんだ」

 

 樋垣の能力は相手に激痛を感じさせるというものである。

 桐渕の推測によれば、その能力により痛みの毒を植え付けられた人間は死ぬことができない。どんな重傷を負おうと強制的に生かされ、痛みを味あわされる。樋垣にやられた一般人たちはそんな状態だったらしい。残虐な能力だ。しかし逆に言えば毒が体に回っている限り、死なない。それはメリットでもある。

 

 「思うに、樋垣君は自分に対してその能力を使ったのではないだろうか。だから、あの傷をものともせず活動できた。私は彼の攻撃を受けたときに何となくわかったんだけど、彼の毒は死ぬほど辛い激痛をもたらすと同時に強力な興奮剤でもあるのだと感じた」

 

 死をも覚悟させる激痛の毒にして、死人をも生かし続ける薬。それを自らあおり、あれだけ暴れまわった男なのだとすれば、その精神力は計り知れない。桐渕をして2度食らえば死んでいたと言わせる毒なのだ。やはり樋垣も、「憤怒」のプレイヤーに選ばれるだけの異常性を持っていたということか。

 

 まあ、全て推測にすぎず、彼が死んだ今となっては考えるだけ無駄な問題だが。と、桐渕は付け加えた。

 

 「私は暴走して手がつけられなくなった樋垣君を一端、放置するしかなかった。今になって考えればあれも全くの失敗というわけではなかったかもしれない。樋垣君は命を2つ持っていたようなものさ。そのうちの1つをゲーム開始2分で消すことができたのだから儲けものだよ。ポジティブに考えよう」

 

 まるで自分に非はないのだと主張するようにふてぶてしい見解を述べる桐渕。その失敗でどれだけの人間が恐怖し、苦しまされ、殺されることになったと思っているんだ。

 

 ともかく桐渕は樋垣の処分を後回しにした。理性を失い、狂戦士と化した樋垣の強さは先ほどの戦いから見てもわかる通りである。桐渕も手がつけられなかった。その場で仕留めるよりも安全で確実な方法を探す必要があった。何なら他のプレイヤーに殺してもらったっていいのだから、桐渕だけが頑張る必要はない。

 

 それから樋垣が一般人を襲う事件が起こるわけだが、そのどさくさに紛れて逃走する。そして何食わぬ顔で教室にもどり、生徒会長らしく偉そうに指示を出して回ったわけだ。その後、桐渕は自分が知るもう1人のプレイヤーと接触する。彼は生徒会室にいた。島井定規だ。その場にて、両者は協力関係を結んだ。また、そこで互いの能力を明かす。

 

 「ところで、そろそろ私の能力を軽く説明しておこう。私には大きく分けて2つの能力がある。そのうちの1つが、この剣だ」

 

 それこそが僕が知りたいと思っていたことであった。いや、絶対に知っておかなければならないことである。一言も聞き逃すまいと耳を傾ける。

 

 桐渕は持っていた西洋剣を掲げる。突如としてそれは消えた。消えたかと思うと、再びヌルリと剣が出現する。

 

 「私は手の指を剣に変化させることができる」

 

 はっきり言って、しょぼい。拍子抜けした。

 剣なんて1本あれば十分である。二刀流なんてそれを専門にやっている武道家くらいしか実用できない。3本以上になれば、むしろ邪魔。すぐに替えがきくくらいの利点しかない。だいたい、剣の数を増やして剣を扱う指の数を減らすのでは本末転倒ではないだろうか。不意をついて度肝を抜くことはできるだろうが、これまでに出てきた【武器】の性能と比べるとお粗末すぎる。

 

 だが、それで合点が行った。だから島井は剣を持っていたんだ。「剣」という形あるものを用意できただけで、彼がどんなプレイヤーであるか容易に判断を誘導できる。

 しかし、確か島井は剣を何もないところから出現させるようなそぶりを見せた。ということは、引っ込めたりもしていたはずだ。自由に剣を出し入れする、その発動のタイミングはどうやって決定しているたんだ。

 

 「簡単なことだよ。この剣は私の体から離れたところで発動を解除すると、こうなるんだ」

 

 そう言って、桐渕は剣を消し去った。彼女の手のひらの上には、1本の指が乗っているのが見える。桐渕の指だ。血が出ている様子もないし、切断されたわけでもない。指が手から分離した状態。よく見れば、桐渕の両手の指はすでに何本かなくなっている状態だった。そのうちの一か所に離れてしまった指をくっつけると、何事もなかったかのようにつながった。問題なく動いている。

 

 「つまり、私は自分の指を自由自在に外して遊べるビックリ人間になってしまったわけだ。この指は離れたところにあっても感覚があるし、少しだけなら動かすこともできる。島井君に私の指を1本渡しておいた。剣の形にしたいときは、その指に決まったタッチをして合図してもらう。また、こちらから彼へ指示を出したいときは、あらかじめ決めておいたサインを出して伝えることもできる」

 

 なんてセコイやり方だ。せせこましい。しかし、侮れなかった。確かにその方法なら、あたかも島井が能力を使って剣を作り出しているかのように見せかけることができる。さらに、離れた所から秘密裏に命令を下すことも可能なのだ。携帯電話が使えなくなっている現状において、その情報の発信性能は馬鹿にできない。

 

 そして僕は以前に確認していた、ある小さな気がかりについて、その違和感の正体を突き止めるに至った。

 桐渕は左手の薬指と小指を怪我していた。添え木を当て、包帯をぐるぐる巻きにして固定していた。普通は突き指したからと言ってそんな大仰な処置をするだろうか。それ以前に、あの桐渕が突き指なんて凡庸なミスをするだろうか。

 

 「ああ、これは粘土で作った偽物だよ」

 

 桐渕は添え木ごと、作り物の指を取り払った。

 


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