14:33 「新校舎2階廊下にて解答 -2-」
「わたくしがプレイヤーではないですって!? 何を証拠にそんなことを」
「申し訳ないが、こちらで君がそう思い込むように仕組んだんだ。能力で炎を作り出していたのは、島井君。彼は常に君のそばにいた。君が能力を行使するそぶりを見せたときに、それに合わせて炎を作った」
島井が黄金の火柱を作り出していた、というのはわかる。それなら僕が彼の鎖をつかんだときに、効果を受けなくなった理由も説明がつく。
だが、それを向坂が使ったかのように思わせることなんてできるのか。いつどこに、どれくらいの規模の炎を出現させるかなんて、実際に能力を使う人間にしかわからない。そのタイミングをどうやって察知するというのだ。
そこで僕は思い出す。確か、向坂は術を使う直前、何かしていた。
「向坂、お前、なんか燃やしてただろ、能力を使う前に」
「はい? ああ、それは……」
向坂が取りだした紙切れ、写真だ。それを燃やしていた。その火が、黄金の火柱に変わったのだ。その写真は何なのだ。
そこには、桐渕伴の姿が写っていた。
「これは……私の能力の制約らしいですわ。憎しみをこめた品を燃やさないと、あの特殊な炎は生み出せないようです。憎しみが強ければ強いほど、強力な炎となる。だからこの写真を手に入れたのですわ」
「手に入れたって、どこから?」
「定規が隠し持っていたものを発見したので取り上げたのですわ」
偶然。
そんな偶然あるか。こいつまんまと騙されたんだ。となれば、島井の能力の制約もおおよそ察しがつく。
「そう、その写真を燃やすことで、島井君は能力が使える。より具体的に説明するなら島井君の能力は『価値ある物を燃やすことで、幻覚を見せる魔法の炎を生み出す』というものだ」
本人が「価値がある」と思っている物であり、かつ燃やせる物なら何でもいい。
真っ先に思いつく例をあげるなら、紙幣だろうか。
火とはエネルギーの変化の発露だ。島井は物の「価値」を燃焼させることができる。それによって作られた火は、その物の価値に則した魅力のエネルギーを短時間のうちに放出する。それが幻覚を見せるのだ。
「と言ってもこの能力、使い勝手は非常に悪い。試しに一万円札を燃やしてどの程度の効果があるか、実験に立ち会ったんだが、ちょっと気を取られるくらいのもので終わった。炎の大きさも手のひらサイズ、とても人間を焼死体にできるほどの火力は得られなかった」
考えてみればそうだ。価値があり、燃やせる物を代償にしなければ使えない。そもそもその前提を満たす物を用意することが困難なのだ。
万札でその程度なら、実戦で使える水準に持っていくためには、札束くらい準備しておかないといけないのではないだろうか。そんな物が学校にあるのだろうか。仮に見つけられたとしても、使える機会は一回かそこら。出し惜しみすれば威力を得られない。経済的な意味でもコストパフォーマンスが悪すぎる。
しかし、その制約の壁を島井はぶち破ったのだ。どういう理屈か、僕にも想像はできる。だが、とても信じられない。されど彼にとってはそれが真実。この能力と、島井は最高に相性が良かった。
「私には全くどういう心理なのかわからないのだけど、彼にとってはその写真がとてつもなく価値ある物だったようだね。いつもご神体とか言って何枚も持ち歩いてたから、気持ち悪……まあ、あれだよ、これも一種の才能というものだったのだろう」
それであれだけの生徒を滅殺するほどのパワーを引き出せたのだから質の悪い冗談だ。島井が使うことで超強力な能力へと変貌する。だが、そのある意味で狂的な精神は島井に力を与えると同時に弱点も作った。
桐渕には逆らえない。逆らおうとする考えがない。彼のパワーの源は、桐渕という存在そのものなのだ。
なるほど、島井の能力の原理はわかった。だが、それでもまだ説明がつかないことはある。
「おかしいと思わないはずがない。向坂のそばに島井はいつもいた、ということは能力発動中、炎の魅了効果範囲内に島井もいることになる。なのに島井がその効果を受けていないことに疑問は持たなかったのか?」
「それは定規の能力だと説明されたのですわ! 精神を惑わす系統の攻撃は全て無効化すると」
そ、そうきたか。向坂は島井が『傲慢の剣』の【武器】を持っていると思っていたわけだ。傲慢の剣、精神攻撃を無効化。それっぽい。うまいこと話術で言い含めれれば、なんだか信じてしまいそうな気もしなくはない。しなくはないが……
「そうだ。どうやって、このゲームに関する情報を知り得たんだ。プレイヤーが7人いて、それぞれ【武器】を持ち、ゲームのルールがある。それらは全てメールで知らされた。電波は圏外にされてしまったのだから偽装メールを送ることもできない。島井が説明するにしても、ではその情報はどこから仕入れたのだという話になる。疑わしいじゃないか」
「それらの情報を伝える手紙なら、ちゃんとわたくしのところにも届いていますわ」
届いていた。なぜだ。不可能なはず。そんなことはゲームの主催者にしかできない。
いや待て、“手紙”と言ったか。
「手紙? メールではなく?」
「メールと言えば手紙のことでしょう? 電子メールではありませんわよ。私、携帯電話は持っていませんもの」
手紙というと本当に紙の、あれか。アナログのやつ。いまどき携帯も持っていないのかという思いもあるが、それを問い詰めたところで何の解決にもならない。
「昨日、下校するときに靴箱に入っていましたわ。そして今日、ゲーム開始の手紙が12時……30分くらいでしたでしょうか。同じように靴箱に入っているのを見つけましたわ」
な、に?




