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14:30 「新校舎2階廊下にて解答 -1-」

 

 島井が死んだ。それは確かだ。僕の手の中から鎖が消えている。そもそも、死んでいないと主張する方が難しい状態になっている。

 

 「い、いやあああ! 定規! 定規ぃ!」

 

 思い出したように絶叫する向坂。愛する者が、自分の命を賭してでも守りたいと思っていた人間が、目の前で死んだ。いや、殺されたのだ。しかも眼をそむけたくなるほど惨たらしく。

 彼女は闘志を完全に失ったわけではなかったのか、ショックによろめきながらも武器を取りだした。裁ちばさみだ。家庭科の授業で使うことはあるだろう。事務用のはさみと違い、先端が鋭く尖っている上に刃渡りも長い。なるほど、校内で個人が用意できる武器としては優秀だ。

 

 しかし、それに対して桐渕は剣を握っていた。60センチはあるかという真剣。それは古臭い時代の産物だとしても紛れもない戦闘の道具。はさみ一つで対抗できる武器ではない。ましてそれを手にする人物は、桐渕伴。ずぶの素人ではない。明らかに戦いなれした相手。敵うわけがない。

 また、その剣を持っているということ自体が変なのだ。島井が使っていた剣である。それもどこからともなく取り出して、まるで自分の能力で作り出したかのように見せていたはず。なのに、島井が死亡したというのに消えずに残っている。つまり、これは島井の能力によるものではないと見た方がいい。向坂の能力であるはずもなし、状況から考えて、これは桐渕の能力であるとしか思えない。

 

 向坂は怨嗟を呪詛のようにつぶやき、裁ちばさみを構えるものの、それ以上は動けなかった。僕はほうほうのていで桐渕から距離を取る。こんな物騒な奴の近くにいられるか。まだ向坂の方がマシ。

 

 これでおかしな対立関係になった。僕と向坂が、組んではいないが成り行き上、ともに桐渕と対峙している状態だ。もうこの桐渕という強大な敵を前にして、僕は向坂のことなんかどうでもいいと思っているし、向坂も僕のことなど眼中にないだろう。ザコ2人の低レベルパーティーで無謀にもボス戦に突入してしまった感じ。哀れな僕に救いはないのか。

 

 「桐渕伴あああ! どういうことなの! あなたは定規に何をしたッ! 答えなさい!」

 

 泣きながら怒声をあげる向坂に対し、桐渕は涼しい顔をしていた。というより、笑っているのだ。心底おもしろいことを思いついたかのような、無邪気な笑い。血のついた剣をもてあそぶように手の上で転がしている。

 

 「そうだね。まずはその質問から答えようか。向坂さんには本当に悪いことをした。説明してあげなければならないだろう。それが誠意だ。ではまず、私と島井君の関係から」

 

 桐渕は『傲慢の剣』のプレイヤーである。

 島井は『色欲の灯』のプレイヤーである。

 2人は協力関係にあった。

 

 それが桐渕の口から語られた事実だ。

 

 「島井君に何をしたのか、と言う話だが。それが彼の自殺に関することであるのならば、結果から言えば、私は何もしていない。彼はプレイヤーである私をゲームに勝たせるために自分の命をなげうった」

 

 「そ、そんなわけがないでしょう! なぜ、あなたなんかのために定規が死ななくてはならないの!?」

 

 「それは私にもわからない。まあ要するに、君が島井君のために死のうとしていた気持ちと同じものを、島井君は私に対して持っていたということではないだろうか」

 

 確かに島井は桐渕のことを好きだったかもしれない。ではなにか、愛する人のためだから利用された挙句、自殺することをも許容したのだとでもいうのか。馬鹿な。それならまだ能力で洗脳されていたと説明された方が納得できる。

 

 だが、僕はこれまでに異常なプレイヤーたちを目の当たりにしてきた。島井は『色欲』のプレイヤーだった。桐渕に殺されたというのに浮かべていたあの表情、異常性癖と言われればその通りだ。そんな人間、僕には到底理解できない。もし洗脳でないとしたなら、それはこの上なく『色欲』という名に符合する。

 

 「正直な話、私も相当驚いているんだ。前から彼は被虐趣味があるのだろうなあとは思っていたのだけれど、まさかこれほどとは。間違いなく、私が見てきた中で最高にヤバい変態だったよ」

 

 「あなた、定規を馬鹿にしているの!?」

 

 「ああ、いや。そんなつもりはないんだ。不謹慎だったね、すまない。ただ、ちょっと愉快なことがあって、今の私は少し浮かれているんだ。島井君のこととは別件だよ。別件さ」

 

 桐渕はあのニヤニヤと憎たらしい笑顔で僕の方を見てきた。バレているんだ。感情の変化から見ても間違いない。桐渕に勘付かれた。

 

 「くぅ、許せない……! あなただけは絶対に許せませんわ! 私の能力が使えれば焼き殺してあげますのに、どうして使えませんの……!」

 

 桐渕はひどく残念なものを見るように、生温かいまなざしを向坂に向ける。

 

 「向坂さん、君がその設定を疑いもなく信じてくれていることはありがたいことだし、それが演技なのだとしたら称賛に値することなんだけど……一応言っておくと君はプレイヤーではないよ」

 

 向坂はプレイヤーではない。

 

 桐渕と島井がプレイヤーなのだとすれば、そうなる。プレイヤーの数は全部で7人だ。そこに向坂が加われば、8人。定員オーバーだ。必然的に向坂がプレイヤーであることはありえない。

 

 だが、それではこの状況を説明できない。向坂は自分のことをプレイヤーだと思っている。一般人が自分のことをプレイヤーだと勘違いするなんて、そんなことはありえないはずだ。やはり洗脳なのか。なぜ、彼女がここにいるのか、その必要性もわからない。

 


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