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14:22 「新校舎2階廊下にて殲滅 -5-」

 

 三本が殺され、島井が戻ってくる。向坂の談によれば桐渕を殺させるのだろう。桐渕を殺して僕を見逃してくれる、そんな都合のいい話はない。ついでに、おまけみたいに殺される。関係ない一般人を大量虐殺してきた連中だ。今さら1人、余計な罪を犯すことにいささかの躊躇もあるはずがない。

 

 『さあ、定規。次は桐渕伴を殺しなさい』

 

 島井はこちらに向かって来ている。足音が近づいてきていた。それも後ろからだ。僕の視界外からの敵の接近。これでは鎖を見ることができない。こんなことなら向坂よりも先に島井の鎖をつかんでおくべきだった。後悔しても遅い。

 

 動かない首を必死に回そうとする僕をあざ笑うかのように足音はゆっくりとこちらに近づいてくる。逃げるために前に進もうとも、そちらには灼熱の炎。一歩だって近づきたくはない。

 

 自分を殺そうとしている敵がすぐ近くまで来ているのに逃げ出すこともできず、立ち尽くす。叫びだしたくなるような焦燥感に襲われた。声すらまともにあげられず、ひゅうひゅうとかすれた息の音が喉から鳴る。

 

 足音が止まる。前もこんなことがあった。サークル棟に行ったときと同じ、あのときの焼き増しのような心境。だが、今度は違う。確実に殺されることがわかっている。一回だけでいい、ほんのちょっとの間でいい。頭を振り返らせてくれと、誰にともなしに懇願する。

 

 「実論……俺、やっぱり……」

 

 男の声がすぐそばの背後で聞こえる。攻撃はこなかった。後ろにいる桐渕も襲われてはいないようだ。

 

 どうなっているのか考える。

 島井は桐渕を殺したくないのだろう。さっきの話の通りなら、島井にとって桐渕は意中の相手である。好きな異性を積極的に殺したくはないという気持ちは理解できる。

 

 『なにをしていますの? まさか、ここまで来て怖気づいたのではありませんわよね? 私は言ったはずです。桐渕伴を殺すことを条件に、あなたに協力すると』

 

 向坂としてはそれが絶対に守ってもらわなければならない約束だったのだろう。桐渕がプレイヤーだったとすればなおのこと。そうでないとしても彼女が島井とともに生き残って、自分だけ死んでしまうというのは許せない。桐渕が何者であろうとも、殺さなければならないのだ。

 

 「……」

 

 だが、島井はまだ攻撃してこない。後ろにいる彼の表情はわからないが、おそらく迷っている。剣を振るえばあっさり倒せるという位置に来ておきながら、躊躇している。

 

 『定規! ふざけないで! 早く殺しなさい! 今さら何をためらっているの!? もう校舎内にいるほとんどの生徒たちは殺したのですわよ! つまり、桐渕伴がプレイヤーである可能性は高い。いいえ、私は始めから確信していましたわ。桐渕伴こそ、『嫉妬の鎖』を持つプレイヤーであると。そいつは、わたくしたちの仲を引き裂こうとする嫉妬に狂った女なのですわ!』

 

 校舎内の生徒はほとんど殺したと言ったか。なんてことだ。おそらく桐渕が樋垣と戦っている時間のうちに殺して回ったのだ。向坂の能力ならそれが可能である。

 

 『その女を殺せば、あなたの勝利が決まりますわ! あなたの手で殺しなさい。そうでなければ意味がない!』

 

 島井が桐渕を殺す。それをもって、向坂への愛の証明とする。島井に桐渕への未練を断ち切らせるための考えなのだろう。歪んだ愛だ。しかし、この殺人狂ストーカーならそのくらいのことは平気で考えるだろう。

 

 「お、俺は、俺には、無理だ……」

 

 しかし、島井は約束を反故にした。震える小さな声でぼそりと答える。それは距離が離れた向坂には聞こえないつぶやきだっただろう。だが、その態度が島井の反応を物語っていたのか、向坂は形相を変えて怒り出した。

 聞くに堪えないヒステリックな金切り声を拡声器まで使ってぶつけてくる。感情的になりすぎて、何を言っているのかわからないレベルだった。ところどころ英語らしき響きも混ざっていて聞きとれない。とにかく相当、頭にきているということだけはわかった。

 

 首の皮一枚のところで助かった。しかし、僕の命が風前の灯であることに変わりはない。これは最後のチャンスだ。これを逃せば次はない。

 

 とにかく島井の鎖をつかみたい。そのためには彼の姿を視界に入れる必要がある。姿を見ることさえできれば、鎖がつながる。透明人間でさえ視界に入れば鎖を見ることができた。僕は一つの可能性に賭ける。

 

 窓だ。

 外は曇天、廊下には電灯の明かりがついている。光を反射しやすい条件はできていた。何も僕の視界は顔の前方に広がっているばかりではない。鏡を使おうと、それで見える場所が他に増えるのなら、それは僕の視界だ。見えていることに変わりはない。

 

 そして、その賭けは当たった。窓にうっすらと映った島井の人影を、ギリギリのところで視界の端に捉えた。僕の胸から出た鎖が後方に向かって伸びる。

 

 島井の悪意を吸い取ったところで僕の窮地が覆るわけではない。焼け石に水だろう。だが、少なくともこれで考えられる時間は増える。僕が殺される可能性を一つ、潰せる。

 僕はあらかじめ胸の前で控えさせていた手を動かし、島井の鎖をつかんだ。

 

 

 その瞬間、僕の体がすっと軽くなる。

 


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