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14:20 「新校舎2階廊下にて殲滅 -4-」

 

 プレイヤーは殺し合わなければならない。それがこのゲームのルールだ。

 

 なぜならそうしないと自分が死ぬから。自分の命に優る宝はないと僕は考える。誰だってそう考える。

 だがしかし、もしその人間がすべからく有しているべき思考からはずれた存在がいたら。自分の命を失うことより、大切な何かを守りたいと思う人間がいたなら。

 

 そのルールは破綻する。

 

 『皮肉なものですわ。私の最愛の人間が同じプレイヤーであり、私たちは互いに殺し合う運命を課せられた。ですが、私に定規を殺すことなどできませんわ。だから協力したのです。私の覚悟はまさに決死。命惜しさに戦うような愚鈍どもとは決意が違うと知りなさい』

 

 すべては愛する者のため、島井をゲームに勝利させるために自分の身を差し出した。これは主従関係などではない。ただの献身。ゲームのルールを覆すイレギュラー。

 

 これが愛の力だというのか。そんな、そんなきれいごとがあっていいはずがない。何かの間違いだ。陳腐な理由じゃないか。命をかけるほどのことじゃない。そんなことができてしまったら、勝てない。

 

 勝てないと思ってしまった。

 

 「うぎ……」

 

 足が大きく動く。桐渕が手を引いてくれているが、それでも足を止められない。のろのろと前に進んでしまう。

 

 気を確かに。気を確かに。

 そう自分に言い聞かせても無駄だった。プレイヤー2人分の戦力というのはあまりに強大だ。島井の能力はまだ不明だが、剣を出して終わりなんてことはあるまい。向坂1人でも手に余るというのに、2人なんて反則だ。

 

 『ところで、そのさえない男は誰かしら? 必死に助けようとしているようだけど、まさかあなたの恋人とでも言うのではないでしょうね? 定規に手を出しておきながら他の男にまで粉をかけているなんて、度し難いクズですわね。その男の方から、あなたの目の前で殺してあげましょうか?』

 

 向坂が僕の方を見ている。絶体絶命の状況が僕の精神を追い詰める。その焦りがさらに歩調を速めてしまう。

 

 なんとかしなければ。この魅了から抜け出さなければ、数分後には死が待っている。すべて話はそれからだ。僕にできることと言ったら一つしかない。

 能力を使うのだ。そのために、僕はすでに行動を起こしていた。本当にゆっくりと緩慢な動きだが、手を胸の前まで持ってくることができた。魅了による体の動きの拘束はかなり強いが、全くあらがえないわけではない。たとえば火に背を向けて逃げ出すといった動きは取れないのだが、前方に進むことを阻害しない限りの動きについてはわずかながら自由がある。手を前に差し出す、この程度の動きなら何とか取れた。

 

 そして向坂の鎖をつかむことに成功した。

 

 鎖から悪意が流れこんでくる。単純な「殺意」。それは別にいい。

 魅了の効果はなくならなかったのだ。さっきまでと全く変わらず、僕は炎から目をそらせない。

 

 「ひぃ……!」

 

 小さな悲鳴がどこからか聞こえた。自分自身の口から洩れたものだと気づく。

 この炎は僕と最も相性が悪い、最悪の能力だ。一度発動すればターゲットとなった人間に対して無差別に効果を発揮するのだろう。そこに術者の意思は関係ない。悪意がなくなろうとも、効果範囲に僕が入ってしまっている以上、その影響はなくならないのだ。

 

 たぶんこの手の攻撃はそういう性質のものだろうと、なんとなく予想はしていた。火炎放射気のトリガーを引くのは人間の意思だが、炎自体に悪意はない。そこにあるだけで人を焼き殺す。僕はたまたまその射程に入ってしまっているだけ。

 

 考えてはいたが、その可能性を否定することが希望だった。超能力で生み出した特殊な炎だからなんとかなるのではないかと思ったが、なんともならない。絶望的な事実を突きつけてられて終わった。こうなっては鎖なんて持っていようといまいと同じである。

 

 のっぴきならない状況。鎖をつかむこと以外に僕に何ができるというのだ。

 考えを巡らせていると、火柱が急に勢いを落とし始めた。天井まで立ち上がっていた炎の背が小さくなってきている。

 

 能力の効果が切れかけているんだ。そりゃ、これだけ強力な術である。いつまでも時間の制限もなく使い続けるなんてできるはずがない。どんな能力にも代償と弱点はあるはずだ。火が消えてしまえば逃げ出せる余地はある。

 

 『あら、もう消えそうですわね』

 

 そう言って向坂は火の中に小さな紙切れを投じた。

 その瞬間、息を吹き返したように火柱の勢いが元に戻る。そんな馬鹿なことがあるか。連続して火を燃やし続けるなんて。術はリセットされたのかもしれないが、やはり僕の体の自由はきかない。僕に対する悪意は関係ないのだ。火柱が燃え続けている限り、その光を目にしている限り、この地獄から抜け出すことはできない。

 

 『もしかして、能力の効果が切れるとでも思いましたかしら? 残念でしたわね、まだ当分は持ちますわよ。しかし、私の炎が燃え尽きるまでもなく、もうすぐあなたは死にますわ。ほら』

 

 僕の手の中から鎖が一本消えた。三本の鎖だ。戦いの音も止んでいる。彼が死んだ。事が終われば、島井は次の獲物を始末するために戻ってくる。

 確かにそれは炎に焼かれて殺されるより早い、死の訪れだ。

 


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