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14:14 「新校舎2階廊下にて殲滅 -2-」

 

 樋垣や三本との壮絶な闘いが終わったというところで向坂による襲撃を受ける。まさにバトル漫画の次々に現る強敵たちのような息をつかせぬ怒涛の展開。現実にそんなことをされる身としてはたまったものではない。

 

 しかし、予期しておくべきであった。向坂たちはプレイヤーがあと1人倒されれば行動を開始すると言っていた。樋垣が死に、三本も瀕死というこの状況なら動き出して当然である。ゲーム時間も残り少ない。終盤の時間帯になだれ込むようなプレイヤー同士の戦いが連続して起こることは必至。もっと注意しておくべきだったのだ。

 

 『あら、どうやら持ちこたえたようですわね、桐渕伴。私としては望む展開ですわ。あっけなく炎に焼かれて死なれてしまっては興ざめですもの』

 

 向坂が拡声器を手に挑発してくる。

 

 いつもならここで桐渕が軽口をたたくところだが、今の彼女にそんな余裕はない。魅了の炎が僕たちの体の自由を奪っている。ろくにものを話すことさえできそうになかった。サークル棟で殺された人たちが騒ぎを起こさなかったのはこのためか。炎の光を見たときには暗示にかけられ、火の中に引き込まれてしまう。凶悪極まりない能力だ。

 

 気持ちはどうしようもなく焦っている。しかし、ここで取り乱したところで状況は好転しない。落ちつかなれば。僕はまず、敵の姿を観察する。

 

 女子生徒の方、向坂実論は整った容姿をしていた。見た目だけなら桐渕といい勝負ではないだろうか。性格でも悪い意味でいい勝負かもしれない。

 しかし、異質だった。何がと言われると、まず目に着くのは髪である。金髪なのだ。セミロングに切りそろえられた髪は黄金色に光っていた。瞳もよく見れば、色素が薄いように見える。そういえば僕たちの一つ下の学年に外国人とのハーフだという生徒がいるという話を聞いたことがあるような気がする。

 お嬢様のような話し方は、なるほど優れた容姿と相まって堂に入ったものがある。きつい目つきとへの字口は荒い気性を表しているように見えた。

 

 一方、男子生徒の方は島井定規。2年の現生徒会長である。印象は一言でいうとチャラい。ゴテゴテという感じではないが、なんとなく雰囲気が浮ついている。とんがった髪型や薄い眉毛は校則ギリギリ。生徒会長という役柄に似合わない見た目だ。

 僕は着任式でその姿を見たことがあった。あまり興味もないことなので忘れていたが、確かにあのとき壇上に上がっていた彼である。と言っても、式での挨拶スピーチ程度聞いたくらいで人となりなんてわかるはずもない。生徒会長と言われれば桐渕伴というテンプレートが植え付けられたこの学校において、すっかり影に隠れてしまったかわいそうな奴、くらいの感想しかあのときは持たなかった。

 

 2人とも制服の校章は2年生の色である。なにぶんクラス1つ違うだけで関係性が薄れてしまうのが学生の構造的性質だ。学年1つ違えばその差はさらに開く。同じ部活動に所属しているとかならともなく、帰宅部の僕にはまったく関わりのない生徒たちだった。

 

 必死に考察を始める。

 現状、こちらが圧倒的に不利であることに変わりはない。焼身自殺は免れたものの、依然として体の自由はきかない。術中から抜け出す方法もわからない。少しでも気を抜けば火柱に引き寄せられる。現に、じりじりと少しずつ足が前に進んでいた。抵抗の意思を絶やさず集中して持ち続けることは簡単ではない。一歩一歩、着実に死に近づいている。

 

 また、おかしな点があった。島井が術にかかっている様子がないのである。火柱の近くにいるのに平然としていた。向坂は能力者だから自分の術の効果を受けないことはわかるが、島井はなぜ影響を受けていないのだ。

 

 『さあ定規、後は手はず通りにやりなさい』

 

 向坂が何か指示を出した。そして島井の手の中からありえないモノが出現する。

 

 それは剣だった。どこからどう見ても、演劇の小道具みたいなわかりやすい西洋の剣。ゲームでよく出てくるファンタジーな感じのあれ。

 

 剣という造形が問題。それは七つの【武器】のうちの一つ、『傲慢の剣』なのではないか。確かにそれは島井の手から現れたのだ。そして向坂は先ほど「燃えろ、色欲の灯」という言葉とともに火柱を作り出した。この事実から鑑みるに。

 

 向坂は色欲のプレイヤーであり、島井は傲慢のプレイヤーということになる。

 プレイヤー同士が協力しているというのか。信じられない。確かにその同盟関係は魅力的だ。人外の力を持つプレイヤーが2人集まれば、他のプレイヤーはまず単独で敵対できない。同盟関係が続いている間はとてつもない有利を得る。

 

 だが、それは絵空事である。最終的にプレイヤーは全員殺し合わなければならない関係なのだ。一時的に腹の探り合いの上での協調はできても、互いの背中を任せるような同盟はできない。信頼なんて微塵もないのだ。僕と桐渕のような関係ならまだしも、互いに相手がプレイヤーだと知った上で協力し合うなんて考えられない。

 

 それが成立するとすれば、考えられるのはどちらかが弱みを握られているということになる。同盟ではなく、主従関係。おそらく、これまでのやり取りから見て、島井は向坂の言いなりになっていると思われる。向坂は魅了の火柱以外にも、まだ隠し手を持っているというのか。それか、島井が自分の能力の弱点を知られてしまったのか。いずれにしても、島井は向坂に隷属しなければならない立場にあるとしか考えられない。

 

 そして僕にはもう一つ、どうしても納得がいかないことがあった。

 これで7人全てのプレイヤーの素性が判明したのだ。僕、樋垣、上遠野、渥美、三本、向坂、島井。この中に、桐渕は入っていないことになる。

 


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