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14:08 「新校舎2階廊下にて攻防 -6-」

 

 銃は人を殺すための兵器だ。包丁とかスコップとか、そういう“凶器になりえるモノ”とは違う。次元が違う。人をいかに効率よく傷つけるかということを追及した兵器。

 引き金を引くだけで人が死ぬ。惰性でだって殺人ができる。

 暴力の化身のような恐ろしい存在に見えた樋垣も、その威力の前にはあっけなく敗れた。手のひらほどの鉄の塊は、いともたやすく怪物を殺す。

 

 そんな兵器を持ち歩く、透明人間。勝てるはずがない。それはどんな化物でも恐怖を抱く存在になりえた。自分の能力が多くの人に露見してしまったとしても、その窮地を覆しうる可能性は大いにあった。ましてそれが、僕が三本の存在に気づかないうちに全て準備を終えていたとすればどうか。上遠野を除いて誰にも太刀打ちできない暗殺者となったことだろう。確かに“ゲームを制しうる秘策”ではあった。

 

 「つまり先輩は僕の作戦など全てお見通しだったと。樋垣と勝負したのも、それに負けたふりをしたのも、銃を奪って今の状況を作りだすことも、全て計画通りだったと言いたいっすか?」

 

 三本は桐渕と樋垣をぶつけさせることで、樋垣を足止めすることが目的だった。桐渕がプレイヤーならその能力で、樋垣を倒すか、それができなくても弱らせるくらいのことはできると思ったのだろう。相討ちしてくれれば御の字、片方が生き残ったとしてもきっとそいつは無傷ではすまない。弱ったところを銃でとどめを刺せばいい。

 

 結果は樋垣に目立ったダメージを与えることもなく桐渕の負けのように見えた。三本としては嬉しくない。しかし、それでも銃があれば樋垣を倒せると踏んだ。5発あればどうにかできると思った。最初の1発は試射のようなものだ。三本自身、銃を撃つのは初めての経験だろう。それでどうにかできないようなら、分身を使って足止めをした上でさらに撃つか、あるいはそのまま撤退してもいい。

 

 そもそもあの場では、銃を撃つことそのものに意味がある。三本にとって脅威なのは樋垣だけではない。校舎中をうろつく一般人の探索者たちも厄介な敵だ。そういった輩に自分は銃を持っている危険な存在であると知らせることも一つの目的だったのではないだろうか。そうすれば探索者は、下手に三本のことを探そうとすれば危険が及ぶのではないかと考える。だからあんな芝居がかった演出をして、銃を持っていることを周囲に強調したのだ。

 

 「それは違うよ、三本矢七君。私がその考えに至ったのはついさっき、全て終わった後の話だ。君が銃を用意しているなんて思いもしなかった。樋垣君に闘いを挑んだのは、言ってしまえば私のうぬぼれだね。負けかけたことにも裏はない。本当に、私はあのとき樋垣君に負ける寸前まで追い込まれていた」

 

 「じゃあ、あの気絶した演技は何だったんっすか。余裕だったじゃないっすか」

 

 「あれは死んだふりだ。ほら、よく言うじゃないか、野生の熊に会ったらって」

 

 桐渕は樋垣の刃による攻撃を受けた。それにより、想像を絶する苦痛を与えられたのだという。具体的には全身の皮膚が火傷してその上から唐辛子を塗りこまれるような痛みだったらしい。全身の皮膚が火傷した時点でショック死するとか、そういう理屈は置いておいて、とにかくそれくらいひどい痛みに見舞われたそうだ。少なくとも攻撃を受けた直後は本当に動けなくなるほどだったらしい。

 そこで一時退却することにした。と言っても、敵に手痛い一撃を入れられた直後に逃げだそうとしても失敗する可能性が高い。そこで逃亡のチャンスを見出すために、死んだふりをした。

 

 「樋垣君は動かない人間には手を出さないかもしれないと聞いていたんだ。重傷を負わせられた人たちは皆、樋垣君から逃げようとしたり、抵抗しようとした人ばかりだったみたいだ。もちろん、確証はないけど。あと1発でも殴られて、あの激痛を追加されていたら行動不能になっていただろうね」

 

 そんなことを軽く口にする桐渕。樋垣が死んだことで激痛はなくなったようだが、胸元は切り傷から出た血で真っ赤に染まっている。

 本当にそれは野生の熊の前で寝転がるがごとき蛮勇だ。一歩間違えば死ぬという瀬戸際の選択。尋常な胆力ではない。

 

 「それにしたって、その後の行動が狂ってるっす。なんで走ったんっすか」

 

 そう、そこからが異常すぎた。死んだふりまではなんとかわかる。そうする以外に切り抜ける方法がなかったから仕方ない。ぎりぎり普通の感覚の範疇と言える。

 

 だがそれ以降、銃声が聞こえてからの行動が明らかにおかしい。いきなり飛び起きて、銃声がした方向に走った。そして三本を襲い、銃を奪う。頭がおかしいとしか思えない。透明人間の狙撃手とわかっている相手に突っ込んでいく。正気の沙汰じゃない。訓練を受けた兵士とかならともかく、ただの高校生がそんなことできるのか。絶対にできない。できるわけがない。

 

 「失礼だね。私にできる最良を尽くしたまでだよ。あのタイミングで逃げなければ樋垣君から追撃を受けていたところだ。それに廊下は、前か後ろか、進める方向は2つしかない。後ろには木末や生徒たちがいたからね。私がそちらに向かって走れば樋垣君もついてくるだろうから当然、他の生徒を巻き込むことになる。だから全力で前に走った」

 

 他人を巻き込むからなんて、自分が窮地に立たされているというのにそんなことにまで気が回るだろうか。ない。むしろ自分を優先する。あわよくば僕たちに樋垣をなすりつけて自分だけ逃走すればいいのだ。そうした方が絶対に得。特に僕はプレイヤーだと桐渕は勘づいている節があるのだから、積極的に殺そうと……

 

 あ、そうか。それはできないんだ。

 桐渕が樋垣を引き連れてくれば、僕が巻き込まれる。その可能性はある。故意にそんなことをしようとすれば、それは紛れもない悪意である。だから桐渕は僕を巻き込めない。そういうことか。僕の能力が桐渕にありえない行動を取らせたのだ。

 


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