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13:43 「木偶の糸切れた -3-」

 

 このゲームのプレイヤーは一筋縄ではいかない連中が多い。能力の強さだけによらず、その人間性も。

 当たり前だ。連中だって必死。死にたくはない。どうすれば自分が生き残れるか、考えようとする。知恵を絞ってゲームのイニシアチブを取ろうとしている。

 

 そこにおいて、自分だけが特別と考えるのは大きな間違いである。僕の能力は強いが、他のプレイヤーに比べて特別強いわけではない。穴はある。

 

 渥美の一件、あれには懲りた。僕は自分の能力を見直さなければならない。

 僕に対して悪意を持てないということは、嘘をつけないということであり、したがって僕の質問に対しては誰でも正直に答える。

 

 この前提は間違っていた。必ずしもそうではないことが渥美との対話で証明された。彼女は例外中の例外のようなケースである。確かに普通の人間なら嘘はつけない。だが、だからと言ってなんでもかんでも正直に答えるとは限らない。

 

 桐渕がいい例だ。あいつは僕に自分がプレイヤーであるということを隠している。あそこまで堂々と自分が一般人であるかのごとく振る舞っているとなると、もはや聞かれなかったから答えなかったで済まされる域ではない。明らかに隠しているのだ。自分の情報を隠すことは悪意ある行為ではないのか。

 

 普通の人間の感性から考えてみると、それはありえるのではないか。確かに僕がプレイヤーであるという可能性は、何の証拠がなかったとしても600分の1の確率で存在しうる。このゲームは自分がプレイヤーであると露見することは通常不利益にしかならないことであるので、僕を含め誰に対しても自分が一般人であるかのように振る舞うのではないか。僕に対してだけ自分がプレイヤーであるとバラすというのは明らかに不自然。

 

 だが、はたしてそうか、という思いもある。桐渕の場合は特殊だった。僕が鎖を握る前から、明らかに僕を疑っていた。あれは600分の1の可能性に対する疑いの域を遥かに超えている。僕のことをプレイヤーだと疑うに足る理由があるのではないか。その上で自分がプレイヤーだと隠しているとなると、それは明らかな悪意ある隠蔽ではないか。

 

 桐渕は渥美のような感性の人間ではない。渥美は特殊すぎるのだ。嘘を真実にして吐く、あいつのような人間がそうそういるはずがない。となると、僕をプレイヤーと疑いうる証拠がありながら、自分がプレイヤーであることを悪意なく隠す、そんな方法が別にあるのか。

 

 思いつかない。だいたいにして、僕は人間が悪意をなくしてしまったらどのように行動するのか見当がつかないのだ。究極的に言えばそんなこと心理学者にだってわからないだろう。悪意のない人間なんてこの世にいない。

 

 ただ一つ言えることは、桐渕が“特別”であるということだ。

 彼女を敵に回してはいけない。ゲームの最後の最後まで。

 

 「……そのように現在、校舎内は超能力を有した者が戦い合う危険な状況にあります。この戦いを終わらせない限り、この学校に安全はありません。今から詳細が判明した超能力者の中で、生存者の情報を伝えます」

 

 桐渕が行ったのは全校生徒に対するゲームの説明だった。ところどころ省いている箇所はあるが、おおむね簡単にわかりやすく情報を明かした。そして、樋垣と三本の能力を暴露する。

 特に三本は、透明化、分身制作、その制約などは無論のこと、容姿や目立つ外見的特徴の細部に至るまで晒しあげた。左目の下に大きな泣きボクロがあったので、見分けることは難しくない。

 

 「そこで、私からみんなにお願いがあります。三本矢七君の捜索に協力してもらえませんか。彼の透明化能力は詳細がわかった以上、そこまで大きな危険はありませんが、放置しておくこともできません。この戦いを早期鎮静化するためにも、ぜひ力を貸してほしいのです」

 

 まさか全校生徒を動かす気か。三本の分身を上回る圧倒的な数による制圧。数の暴力。山狩り作戦だ。生徒会長として信頼を集める桐渕だからこそ切れるカードである。いくら透明になれたところで、それだけの捜索者がいれば見つけることは可能か。

 

 だが、それは生徒たちが協力してくれればの話だ。生徒会長の頼みといえども、自分の命がかかっているというのに危険な能力者の捜索に乗り出そうとするだろうか。

 

 「もちろん、強制はしません。手伝っていただける方は、必ず2人以上のグループを作って行動してください。また、樋垣鯨太郎君は旧校舎内を徘徊しているため、そちらには近づかないでください。万が一の事態に備え、私はこれから樋垣君の暴走の鎮圧にあたります」

 

 これには驚いた。なるほど、生徒たちが教室を閉め切って待機している理由は樋垣の暴走から身を守るためだ。その原因を桐渕が解決すると宣言した。それは自ら危険の最前線に立って生徒たちを導く英雄的行為のように見える。勇将の下に弱卒無しというわけか。

 

 ゲームは時間的にだいぶ経過している。生徒たちは狭い教室に何の情報も与えられず詰め込まれた状態だ。閉塞感に支配されているに違いない。このまま何の手だてもなく自分は死んでしまうのではないか、そんな感覚に陥っているはずだ。そこに自分たちを導く情報が与えられた。ソースは生徒会長。しかもその会長は危険を冒してまでこの異常事態の解決に当たっている。

 

 普通なら信じられないかもしれない。だが、この学校の元生徒会長は一味違う。数々の伝説を作り上げた傑物。そのほとんどは眉唾物の噂でしかないが、火のないところに煙は立たない。やってくれるのではないか、そう期待してしまう。

 

 それは一筋の光明に違いないのだ。

 さらに、ゲームに関する情報を信じるのなら、教室内だって決して安全な空間であるとは言えない。プレイヤーはどこに潜んでいるかわからないのだ。動こうとする生徒は、いるかもしれない。

 

 しかも、2人以上で行動するように、この言葉の響きがいい。1人で別々に行動するのではなく、複数人のグループを作れば何とかなるのではないかと思わせる。人数が多ければ多いほど、自分が生き残れる可能性は高くなる。ひとたび有志の生徒が手をあげれば、教室からわらわらと人を引きずり出すことができるのではないか。そうなったら、逆に教室に残っていることの方が不安。自分もみんなについて行こうかな、という気持ちになる。集団心理だ。

 

 桐渕は最後にくれぐれも注意を怠らないように伝え、放送を切った。隣にいた職員らしき人は感動のまなざしで桐渕を見ている。いや、ちょっとは疑えよ。

 

 しかし、そううまくいくだろうかという疑いは消えない。やはり、危険であることに変わりはないのだ。いくら生徒会長が頑張っているからって、我も我もと志願兵が集まるものか。命は大事だ。それこそ生徒会長が全部問題を解決してくれることを期待して、教室に閉じこもる生徒もいるだろう。

 

 「木末、これはあくまで策の一つだ。仮に捜索に当たってくれる生徒がいなかったとしてもメリットはある。これだけ大々的に能力を公表されれば、三本矢七君の動きを少なからず制限できるからね」

 

 確かに、それはそうか。三本はこれ以降、人影を見れば自分の捜索者ではないのかという猜疑心にとらわれざるを得ない。神経を削られる。

 

 最も危惧すべきは他のプレイヤーの存在だ。僕の正体を知り、桐渕がプレイヤーの1人であると予想しているようだが、それを除いてもまだ1人は三本が知らない人物がいる。三本にとって予測不能のプレイヤーがいるのではないか。

 

 これは脅威だ。捜索者として解き放たれた一般生徒の中に、人外の力を持った超能力者が潜んでいる。しかも、そいつは確実に自分の命を狙っている殺し屋だ。そいつらに自分の最も大切な情報を売られたのだ。うかつには動けない。透明能力を看破する能力者がいるとも限らない。というか、まさに僕がそれだ。図書室の一件で、僕が透明能力を見破る力を持っていると勘付いている可能性は高い。

 

 もし透明化能力が僕たちにバレていなければ、三本はかなり有利に戦えた。たとえ分身体が弱かろうともそれを補って余りあるアドバンテージだ。なにしろいくら探そうと本体を見つけることができないのだから。作戦の立てようはある。

 

 そこで気づく。もはや、この状況は三本にとっての最悪なのではないか。

 分身体の戦闘能力は低いということも知れ渡った。ブラフはもう通用しない。三本の戦闘能力だって人並だろう。有利なのは透明になれるということだけ。せいぜい待ち伏せして通りかかった人間を襲うくらいのことしかできない。その作戦も相手が2人以上で行動している場合は取れない。タネが知れれば脅威は格段に低くなる能力だ。

 

 詰んでいる。どん底まで落とされた。桐渕の全校放送という一手によって。もう三本に残された道は逃げ回ること、それしかない。

 三本矢七の勝利はなくなった。

 


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