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13:35 「図書室にて進退 -4-」

 

 しかし、状況は僕の思い通りにいくばかりではない。

 

 「そうだ、探す前にこの部屋を閉め切る必要があるな。木末、ドアの鍵を閉めてきてくれないかい?」

 

 その言葉を聞いて、透明人間が移動を始めたのだ。当然である。目の前で自分のことを探し出そうとしている人間たちがいるというのに、黙って座っているわけがない。

 さすがにこちらに襲いかかろうとはしてこないようだ。いくら透明人間でも攻撃すればその存在は明らかになる。こちらは2人いるのに対してあちらは1人。好戦的な態度は取れない。

 つまり、逃げようとする。透明人間はドアに向かって移動している。

 

 僕はどうすべきか思考を巡らせていた。

 

 なんとも間の悪いことに、ドアは三本が出て行ったあのとき、半開きの状態にされているのだ。その隙間は、なんとか体をねじ込めば細い体格の人間なら通りぬけられるほど。バレずに突破できるかもしれないと思わせるほどの隙間がある。

 

 透明人間の歩くスピードはゆっくりだ。足音を出さないように気にしているのだろう。だが、それもいつまで続くかわからない。いよいよ僕がドアを閉めるというときになればなりふり構わず突っ込んでくるかもしれない。

 

 現在、位置的には透明人間の方がドアに近い場所にいるのだ。それを追い越してドアを閉める。言うは易し行うは難し。

 

 桐渕はなんで僕に頼んだんだ。こういうことはお前が率先してやりたがる仕事だろう。いや、その理由もわからないではない。とにかく今の桐渕は僕の言うことに対して半信半疑なのだ。そのうちの「半疑」は僕が吸い取っているが、それでも「半信」。悪意を持っていない人間の言うことだから、とりもなおさず何でも信じるということにはならない。やる気が起きないのもわかる。僕だって桐渕の立場で透明人間がこの部屋にいますなんて言われたら、そんなことを考える奴はおかしいと思うことだろう。悪意とか以前にそいつの頭を心配する。透明人間なんて世迷いごと、普通はただの言い逃れにしか聞こえない。

 

 その言い逃れも、透明人間その人を捕えることができれば真実になる。ここであいつを逃がすわけにはいかない。僕がやるしかないのか。

 

 しかし、状況はもう少しだけ僕に味方した。

 

 ドアが外側から開けられたのである。その隙間から、中をうかがうように1人の生徒が顔をのぞかせた。

 

 「あの、どうなりました……?」

 

 な、ナイスガアァド!

 この生徒は渥美の呼びかけで集まり、図書室に避難していた者の1人だろう。上遠野の手術によってどんな影響があるかわからないため、一般生徒は図書室から出るように指示していた。

 おそらく、図書室の近くで待機していたのだ。そして、中から三本の分身が出てくるのを見た。三本は何も話さなかったのかもしれない。だから事態はひと段落したのだろうと予想し、中の様子が気になって見に来たのだ。

 

 「すまないが、まだ予断を許さない状況だ。そのドアを閉めて、外で待っていてくれないかい? ドアが開かないように外から押さえていてもらうと助かる」

 

 透明人間の動きが止まった。図書室のドアは内側から鍵がかけられる。しかし内側にいる透明人間なら、仮にドアを閉められたとしても僕たちが探している隙をついて外に出ることは可能だ。

 だが、外から押さえられるとなると話が違う。出られなくなる。この部屋に閉じ込められる。僕なら、今しか逃げるチャンスはないと思う。

 

 透明人間も僕と同じ結論に至ったようだ。鎖が勢いよく動く。走り出した。足音がすることも構わず、ドアに向かって突進する。

 

 「うわっ!? な、なんだ!?」

 

 そしてドアの前に立っていた生徒を押しのけて、部屋の外に出た。

 それを見逃す桐渕ではない。

 

 思い立ったが一直線。行動にタイムラグというものがない。迷いなど微塵も見せずに桐渕は透明人間の追跡を開始する。ドアを目指して走り出した。僕もその後を追う。

 

 「さっきのモノがどちらに行ったかわかるかい?」

 

 「え、あ、えと、そこの階段の方に行ったような……」

 

 図書室は新校舎4階にある。ここが最上階であるため、階段は下に通じるものしかない。桐渕は転がるように階段を駆け下りて行く。

 

 その階段の踊り場に、突如として人影が湧いた。3体の三本が現れる。

 

 「ああ、面倒なことになったっす」

 

 透明人間への追跡を阻止するように、三本の分身体が立ちはだかったのだ。

 

 それを見ても、僕はさして驚かなかった。それは考慮していた可能性だった。

 僕は最初、あの図書室という異常空間に僕を含め6人のプレイヤーが集まっていると思っていた。

 桐渕、僕、上遠野、渥美、三本、透明人間。

 これに樋垣を含めれば7人となる。

 

 しかし、三本は本人ではなく分身だとわかった。では本体はどこにいるかと考えたとき、思いついたのが透明人間が三本本人であるという可能性だ。三本が分身を作れるとわかった以上、消去法的に7人のプレイヤーの所在が確定するわけではない。少なくとも、1人のプレイヤーがまだその素性を僕の前にさらしていないことになる。

 

 だから、透明人間が実は三本本人であるという可能性はあった。三本は分身を作る能力のほかに、透明になれる能力も持っていたのだ。分身を作るという能力の性質的に、本人が近くにいないといけないというデメリットがあるのではないか、とも考えられる。透明になれるのなら分身と一緒に行動していても危険な目に遭うリスクはかなり減らせる。

 

 だが、そうと断言することもできなかった。能力を2つ持っていると確証できる材料が何もない。分身三本と透明人間との間に何の関係もない可能性の方が十分現実的だ。本人がわざわざ危険を冒してまで図書室にいる必要がないからだ。透明になれるのならなおさら別の場所に隠れていた方がより安全である。

 

 しかし、現に今、こうして三本の分身体が道を遮るように現れた。これは透明人間が三本本人であるという説得力のある証拠だ。

 

 ずっと図書室に居座っていたなんて度胸があると言えばいいのか、それとも彼の大罪にあやかってものぐさだと言えばいいのか。渥美を利用しようと考えて、あの場所にいたのかもしれない。本体をセーフティゾーンに置いたところで、三本の場合は分身体を使って自由に行動できるのだから、渥美の能力は魅力的に映ったのではないだろうか。

 

 いずれにしても、目の前に現れた3体の三本を倒さない限り、先に進むことはできなさそうだ。

 


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