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12:59 「図書室にて談話 -8-」

 

 怒涛のように暴れ出しそうな心を、得意の人間関係形成術で培った感情抑制で何とか落ち着かせ、僕は上遠野の携帯を取り出すことに成功した。

 さっそくメールボックスを調べる。年頃の女子の携帯を許可もなくのぞき見るなど万死に値することかもしれないが、状況が状況、構うものかと開き直る。そして目当てのメールを見つけることができた。

 

 ----

 

 暴食の釜。

 錬金術師は夢を見る。

 偉大なる液アルカへスト。

 それを収める釜も溶け。

 ついに生まれることがない。

 未来永劫、過去永劫。

 

 ----

 

 これっぽっちも意味がわからない。片鱗すらつかめない。僕に続き渥美の【武器】暗示メールも要領を得ない内容だったが、ここにきて一気に読解難易度が上がった。本人の口から情報を聞き出せない、こんなときに限ってである。頭が痛い。

 

 「一つずつ、わかるところから検討していくしかないね。まずは一文目の『暴食の釜』だ」

 

 これまでの傾向から見て、【武器】の能力はその道具の用途に由来している面もあると言える。渥美の【武器】である「鍵」はわかりやすい。自由に密室を作ったり解放したりできるところはまさに鍵らしい能力である。

 僕の「鎖」は少し本来の用途からは、はずれているところがある。実体がないし、悪意を吸い取るという能力は「鎖」に関係ないものだ。だが、鎖には“強固に何かをつなぎとめる、拘束する”というイメージがある。それを人間の絆に当てはめているところは、一応の関係性があると言っていいのかもしれない。

 

 しかし、上遠野の場合は「釜」だ。用途は飯を炊く、あるいは茶を沸かす道具。そこからどう連想しろと。

 

 「この場合は日本の釜を表す言葉ではない気がするよ。『錬金術師』という単語があるから、実験器具を指すのではないかな。または、魔女の釜という言葉もある。錬金術もそうだが、近代以前の化学は宗教的意味合いも強い。そういう儀式の道具、という線もある」

 

 「この『暴食の』って言葉は何ですか?」

 

 「それは七つの大罪の一つだ。キリスト教の教義に出てくる用語だよ。これはメールにも少しだけ記述があったよね。確か……傲慢、嫉妬、憤怒、怠惰、強欲、暴食、色欲。この七つ。順序もこれで間違いないはずだよ」

 

 よくそんな知識があるものだ。漫画か何かで聞いたことがある言葉だが、順序まで正確に記憶してはいない。まあ、桐渕には昨日メールが届いているはずなので、そのときにネットでちょっと調べればすぐ出てきたであろう情報ではあるが。

 

 それに今回のゲームに登場する7つの【武器】を当てはめると、『傲慢の剣』、『嫉妬の鎖』、『憤怒の鋸』、『怠惰の棒』、『強欲の鍵』、『暴食の釜』、『色欲の灯』となる。

 

 僕が鎖、渥美が鍵、上遠野が釜とわかっている。樋垣は、ただの推測でしかないが、おそらく鋸ではないだろうか。憤怒というイメージは奴にぴったり合致する。そして桐渕は剣だ。これ以外にないだろう。傲慢という言葉は桐渕につけられるために作り出されたと言って過言ではない。

 

 「暴食って……全然、るいちゃん先輩の雰囲気じゃない気がするんですけど」

 

 「そればかりか、上遠野さんは拒食症だ。一見してそんな欲望とは真逆の人間に見える。しかし、だからこそ似合うようにも思うよ」

 

 「その心は?」

 

 「摂食障害には大きく分けて拒食症と過食症の2つがある。これらは真逆の症状のように思えるが、その実、明確な区別がされているわけではないんだ。その境界はあいまいで、どちらにも転化し得る。まあ、私が上遠野さんの何を知っているということでもないんだが、少なくとも“食”に対する思い入れはこの学校で誰よりも強い人だと思うよ」

 

 そういう言われ方をするとそれっぽく聞こえるが、抽象的な言葉ではぐらかされたようにも思えてくる。だいたい渥美も“強欲”という人柄ではない。7つの選択肢の中からたまたま選んだものがそれだった、というだけの話ではないか。鎖を選んだ僕が、まるで嫉妬深い人間のように思われるじゃないか。

 

 「まあ、あたしは強欲ではないですけどね。弟が三人もいて家も裕福というわけではないので、お姉ちゃんとしては自分のことより弟たちのことを優先してきたつもりです。質素倹約があたしの信条です」

 

 「確かに君は欲深い人間には見えないが」

 

 「将来は家族に楽をさせてやるために、NASAに就職して軌道エレベータ構築プロジェクトに携わり、宇宙の覇権を握って世界的大富豪になるつもりです」

 

 終始真面目な表情で語る渥美を見ていると、こいつはある意味この学校で誰よりも強欲な人間ではないかと思えてくる。

 

 「そう言えば、木末は上遠野さんが超能力を使うところを見ていないのかい? 助けられたと言っていたけど」

 

 「ああ、そのことを話していなかったな。見たよ。樋垣に何十発も殴られたのに、傷一つ負わなかったんだ。どうも、体の表面に防御膜のようなものがあって、たいていの攻撃は防ぐみたいだ」

 

 そこでふと気づく。死にたいと口にした上遠野だが、その言葉と行動が矛盾していないか。

 樋垣のふところに飛び込んだとき、あれが自殺だったとするなら防御膜なんて能力は解除するはずだ。

 しかし、途中で怖くなって能力を使ってしまった、という可能性は大いにある。

 

 最悪の可能性を考慮しよう。

 

 もし、能力を解除できないのだとしたらどうか。

 防御膜は常時展開され、意思によって消すことができない。あるいは意思によらず自動的に展開されるのでオンオフの操作ができない。よく考えれば、僕が上遠野を背負って運んだときその間中、防御膜は常に展開されていた。上遠野は僕に対して悪意を抱くことができないはずなのに、だ。

 

 もしそうだとすれば、僕たちはどうやって上遠野を殺せばいいんだ。

 


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