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12:49 「図書室にて談話 -4-」

 

 情報は出そろった。では、まず何を論議すべきか。

 

 決まっている。利益についてだ。

 この場合の利益とは命のことである。この世でこれほど価値のあるものは他にない。自分の命、という限定はつくが。

 

 「話をまとめようか。この校舎のどこかにいる7人の超能力者が最後の1人になるまで殺し合いをする。そのゲームが終わるまで、この異常は続くということだね」

 

 「そういうことです」

 

 「しかし、君はこんな話を簡単に他人に話してしまっていいのかい? 自分の身を危険にさらしているわけだが」

 

 「え? なんでですか? 確かに他のプレイヤーさんにこんなことを話したら危ないかもしれませんけど」

 

 「だから、もし私たちがプレイヤーだったとしたらどうするんだい?」

 

 「やだなあ、桐渕先輩。この学校に何人の生徒がいると思ってるんですか。プレイヤーはたった7人しかいないんですから、そうそう出会うものじゃありませんよ」

 

 この子の思考回路ときたら、いっそ庇護欲をそそるレベルだな。

 

 「上遠野さんはプレイヤーらしいのだが」

 

 「ぬええええええっ!?」

 

 渥美は悲鳴をあげて椅子から立ち上がる。ゲームの趣旨を理解しているのなら、このような事態になることも容易に想像できると思うのだが。急いで桐渕の後ろに移動し、その陰に隠れるように身をひそめた。体格が大きいので全然隠れられていない。

 

 ここでもし、その頼りにしている桐渕先輩もプレイヤーであると知ったら心臓が止まってしまうのではないだろうか。さらにその付き添いできた人畜無害そうな普通の男こと、東原先輩もプレイヤーであると知ったときには、もう昇天である。まあ、そんな事実が露見するような事態になったら僕も昇天しそうだけど。

 

 「落ち着くんだ、見ての通り上遠野さんに敵意はない。こうして私たちと一緒に行動している点から見ても、ひとまず暴力的な手段に訴え出る人ではないとわかる」

 

 上遠野は渥美を前にしても相変わらずの気分が悪そうな態度のままだ。一言も言葉を発していない。渥美の能力の詳細がわかっても動こうとしない。彼女の能力は防御一点集中型なので、攻撃の機会を虎視眈々と狙っているのかもしれないという可能性はあるが、少なくとも今のところすぐに手を出す気がなさそうなのは確かだ。

 

 「そうですね。すみません、取り乱してしまって。ごめんね、えーっと、るいちゃん」

 

 席に戻った渥美は上遠野るいに謝る。というか、るいちゃんて。その人は3学年、お前の2こ上の先輩なわけだが。完全に見た目で判断したな。まったく悪気がなさそうな笑顔で言っているところが、なお悲しい。

 渥美は上遠野に握手を求め、手を差しだしたが、当然のごとく無視された。ばつが悪そうに苦笑いをしながら手を引っ込める。しかし、そこで流れを変えるように意を決した表情になった。

 

 「で、ですね! それはともかくとして! ここからが話の本題なわけです! あたしはゲーム開始後、すぐに人が襲われたという噂を聞いてピンときました。これはプレイヤーのしわざだって。人が人を襲うだなんて……そんなことあってはいけないと思います」

 

 渥美は自分の能力をクラスメイト達に明かした。それは力の誇示などではなく、純粋にクラスの生徒たちのことを考えての行動だったと彼女は主張する。セーフティゾーンに生徒たちを避難させて守るためにだ。

 

 今、図書館にいる生徒たちは渥美の言葉を信じて集まった者たちである。おもに彼女の友達が多い。この異常事態を前にして、そして自分の異常性を明かして、それでも十数名の生徒の信頼を集められたことは評価に値する。愛すべき馬鹿とでも言おうか、日ごろの彼女の行いが良かったのだろう。

 

 「でも、あたしの言葉を信じてくれた生徒は、この部屋にいる人たちだけです。あたしじゃここまでが限界……だから、桐渕先輩にお願いしたいんです! ゲームに関係ない人たちが巻き込まれないように、みんなを誘導してもらえませんか? 桐渕先輩の言葉なら、みんな信じてくれるはすです!」

 

 真剣に渥美は願いを伝えた。テーブルに身を乗り出すほどの意気込みだ。その頼みを、桐渕は穏やかな表情で聞いている。

 

 「渥美さん、私は感動したよ。こんな殺伐とした事態だというのに、君は自分の身よりも他人を案じることができる、素晴らしい人間だ。多くの生徒の命を救いたいという気持ちは私も同じだよ。できる限りの協力をしたい」

 

 「それじゃあ……!」

 

 「だが」

 

 喜びの声をあげようとした渥美を、桐渕は制した。

 

 「だからこそ、君の提案には賛成できない」

 

 「え、な……」

 

 「よく考えるんだ。確かに私が皆に呼び掛ければ、耳を傾けてくれる生徒がいるかもしれない。しかし、その集まった人間が危険ではないと、判別することは困難だ。プレイヤーが混ざっているかもしれない。いや、そう考える方が普通だ。そうした危険な人間をセーフティゾーンに入れてしまえば、守るものも守れない」

 

 「それは、チェックすればいいです! セーフティゾーンに入る前に、検問みたいなのを作れば」

 

 「判別方法がないと言っただろう。樋垣君のようなプレイヤーならともかく、隠そうと思えばいくらでも手段がある者だっているはずだ。君のように。携帯電話をチェックしたところで、証拠となるメールは削除しているに決まっている」

 

 「じゃあ、だったら、えーっと……」

 

 「そもそもだ。君は避難したい生徒を集めて、その後どうするつもりなんだい? それは対処療法であって、異常の根本的な解決にはならない。超能力者同士の戦いが起これば人は死ぬ。いくら安全地帯があろうと、プレイヤーであるかどうかの別なく、死ぬんだ」

 

 「……先輩、軽々しく“死”なんて言葉を使うのはやめてもらえますか」

 

 それまで桐渕からの指摘におたおたしていた渥美だったが、何かの一言が彼女の琴線に触れたのか。一変して険しい顔つきで桐渕を見つめる。

 

 「あたしは、誰かが命を失うことなんて認めません。プレイヤー同士の戦いも認めません。こんなひどいゲーム認めません! だからゲームのルールにも従いません。この学校に閉じ込められた生徒全員を助けます。この異常の謎を解いて、黒幕の正体を暴いて、懲らしめてやります! それで、みんな笑って家に帰るんです!」

 

 幼稚としかいえない現実逃避だ。

 だが、不思議とその言葉には人を惹きつける魅力があった。実現不可能だとわかりきっていても、そこに後ろ向きな感情はない。ただまっすぐな一念だった。

 


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