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12:46 「図書室にて談話 -3-」

 

 渥美の説明に嘘はなかった。

 プレイヤーなら知りえているであろう、全ての情報を包み隠さず話した。昨日のゲーム開催の予告メールや、今日の12時に届いたゲーム開始を知らせるメールなど、実際に自分の携帯電話を見せて懇切丁寧に教えてくれたのである。真性の馬鹿か。

 

 僕たちにとっては既に知っている情報であるため、わざわざ聞かせてもらう必要はないのだが、そんなことは口が裂けても言えないので、さも驚いたふうのリアクションを取った。

 

 「なるほど、理解した。ひとまず君の話を信じよう」

 

 「本当に信じてくれるんですか!? 説明しておいて何ですが、非現実的な話ですし……」

 

 「もとよりこちらは信じるしかない立場だ。現状において、渥美さんの話の他にこの異常事態を説明できる有力な情報がないのだからね。しかし、話にあったプレイヤーが持つ【武器】というものが気になる。君の超能力も、その【武器】によるものなのかい?」

 

 そう、そこが話のミソだ。

 僕たちが知りたいことはゲームのルールなどではなく、敵プレイヤーがどんな能力を持っているかだ。馬鹿なのか策士なのかわからないが、この流れで行けば渥美の【武器】の正体がつかめそうである。

 

 「あたしの【武器】は……このメールを見てください」

 

 そう言って渥美が見せた携帯の画面には、僕たちの知らない文面が表示されていた。しかし、類似したものなら知っている。これは【武器】の能力を暗示するメールだ。

 

 ----

 

 強欲の鍵。

 奪えば暴かれ、怖し恐ろし。

 仕舞えば暴かれ、怖し恐ろし。

 しからば、鍵は千金か。

 益は持ちたる者にあり。

 すべてを開き、すべてを閉ざす。

 

 ----

 

 なんだか僕の【武器】より抽象的な説明になっている気がする。わかりやすいのは最後の一文だろうか。“開ける”ことと“閉める”こと。そこに“鍵”というフレーズが加われば、薄ぼんやりとだが特徴が見えてくる。

 

 渥美は制服の胸ポケットから何かを取り出して見せた。

 鍵である。金ぴかで、宝石類がちりばめられた、いかにも高そうな装飾過多の鍵。そうとしか言いようがない。

 

 【武器】が見た目そのままの形をしており、実体がある。そういうこともあるか。僕の「鎖」は人間の絆という実在しない存在を視覚化したものだから形はないが、樋垣の体からは思いっきり無数の刃が出ていたわけだし、【武器】によって見た目や効果は様々、ということだろう。

 

 「12時、ゲームがちょうど始まったころ、気がついたらいつの間にかこの鍵を手に握っていたんです。それで、誰に教えられたわけでもないのに使い方がわかるようになったんです」

 

 その【武器】には大きく分けて二つの能力があった。

 

 一つは“施錠”。

 指定した空間、建物内の部屋などを閉鎖して内外どちらからの干渉も無効化する場所を作り出す。渥美はこの空間を「セーフティゾーン」と呼んでいるようだ。この図書室も現在、セーフティーゾーンとなっている。空気や電気などのライフラインは外から通ってくるが、人は絶対に入ってこれないし、攻撃もすべてシャットアウトする。中から外へ出ることもできなくなり、同様に攻撃も無効化する。

 「中のモノを守る」と同時に「中にモノを閉じ込める」という機能があるようだ。校舎全体にかかっている脱出阻止結界の簡易版と考えればわかりやすい。

 

 一つは“解錠”。

 密室などの閉鎖された空間への出入りを自由にする。有体に言って、万能の鍵破りである。扉がないような場所でも、一時的にだが壁に穴を開けるなどして中に入れるらしい。セーフティゾーンを解除する唯一の方法でもある。

 

 「それってタダで何回も使って大丈夫な能力なの? 代償とか、そういうのはある?」

 

 「いえ、特にありませんよ。しいて言えば、鍵を使うたびに本人認証をしないといけないところが面倒なことくらいですね」

 

 これがこの能力の有利な特徴だろう。能力の使用に副作用がないのだ。

 

 樋垣が正気を失っていることや、上遠野の調子がおかしいことなどから見て、二人の【武器】には望まぬ副作用がある気がしている。そう考えるのが普通だろう。メリットがあればデメリットがある。強い能力を得れば、それなりの対価が必要なのかもしれない。

 

 僕の能力にもデメリットはある。悪意を吸収すると、その感情を自分が引き受けなければならない点だ。好んで人の悪意などもらいたくはない。しかし、これは比較的軽い副作用のように見える。つまり、僕の能力はそこまで強くはないということかもしれないが。

 

 その点、渥美の能力にはデメリットがない。コストパフォーマンスという観点から見れば、非常に優れている。

 確かに直接的な戦闘能力ではないため、使いどころが難しい力ではある。しかし、うまくハマれば大いに戦況を左右する能力になりえる。このゲームのバトルフィールドは校舎内に限定されているのだ。これが屋外も含めていたのなら能力の弱体化は否めないが、いくらでも部屋がある建物内では存分に力を発揮できるだろう。

 

 それも自分の力を隠して秘密裏に行動していれば、の話だが。

 デメリットはないが、しいて言えば頭の悪さで能力のメリットとの帳尻を合わせているのだろうか。残念極まりない。

 

 「その“解錠”の能力で、この校舎から脱出はできないのかい?」

 

 「あ、それは何度も試しました。でも無理みたいです。あたしの【武器】よりも上位の力みたいで」

 

 望み薄だとわかっていたが、そういう使い方はできないようだ。それができたらゲームが成立しないしなあ。

 


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