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12:43 「図書室にて談話 -2-」

 

 「いや~、びっくりしました~」

 

 僕たちは図書館の丸テーブルを囲って席に着いた。僕と、桐渕、体育会系女子、上遠野の4人だ。上遠野は僕が座らせた。

 

 「重ね重ねすまない。言い訳にはならないが、こちらも超能力者という得体のしれない相手と対峙する以上、最低限の警戒が必要だったんだ」

 

 「気にしないでください! そう思うのは当然ですよね」

 

 あの場面でためらいもなく凶器を振るえるところが、桐渕のぶっ飛びたるゆえんである。

 ただ、その行動もわからないではない。敵陣に乗り込むのだから、相応の警戒を持つべきだ。僕にはあそこまでのことはできないが。

 

 一方、体育会系女子はあっさりと桐渕の蛮行を許した。まあ、ここで敵意をむき出しにして交渉の場を失うのはまずいと考えたのかもしれない。

 

 「っていうか、むしろチョーかっこよかったですよ! 普通、包丁を持って突き出すだけじゃ、あんなふうにキマらないですって! なんかこう、ドラマの女優さんみたいな感じでしたよ!」

 

 「そうかい? 照れるな」

 

 いや、考えすぎかもしれない。さっき自分を殺そうとしていた相手にこうまで好意的に接することができるものだろうか。何も考えてない頭の湧いた馬鹿に見えてきた。

 実は全て演技で、それこそ女優さながらの腹黒役者、という可能性もないではないが。

 

 「あっ、申し遅れました。あたしは1年1組、出席番号1番、渥美あつみ天音あまねと言います! 陸上部ホープのスプリンターです!」

 

 「私は3年の桐渕伴だ」

 

 「僕は3年の東原木末」

 

 「……」

 

 「この子は3年の上遠野るいさんね」

 

 僕たちがこうして剣呑な空気になることなく、普通に話している理由も一応ある。

 図書室内にいる生徒たちに異常が見られないからだ。十数名ほどいるのだが、不安そうにしているものの、それ以上は特に変わったことをされた様子がない。空気も比較的明るい。

 

 もし、渥美が罠を張ってプレイヤーが来るのを手ぐすね引いて待つような人間であれば、ここにいる生徒たちの身に何らかの仕打ちがされていても不思議ではないのだ。いや、一般人とプレイヤーを区別することは難しいのから、疑わしきは殺すはず。問答無用で殺してしまう可能性は高い。それをしていないということは、差し迫った危険があるわけではないのかもしれない。

 

 また、彼女の鎖から悪意を感じないことも理由の一つである。刃物で脅すようなことをした桐渕に対して柔和な態度を取ったことが演技だとすれば、その連れである僕や上遠野に対しても演技で接するものと思われる。その場合、僕に対して悪意を抱くはずだ。それがないということは、信じがたい話だが、本当に僕たちを警戒していないということだ。

 

 渥美の鎖に関しては、手に持っていても持っていなくても意味はないのだが、一応の用心のために握っておくことにする。

 

 「ん? 桐渕伴……も、もしかして、生徒会長の桐渕先輩ですか!?」

 

 「そうだね。正確には今の生徒会長は2年の島井君だから、元生徒会長ということになるが」

 

 「入学から卒業までぶっちぎり学年トップの成績を取り続け、絵画や書道のコンクールで何度も最優秀賞を受賞し、ついには個展を開くまでに至り、高校生読者モデルとしても人気を博しているという、あの桐渕先輩ですか?」

 

 「そうだね。正確には学年トップの成績だが私はまだ卒業していないし、中学生のころに一度だけ書のコンクールで入選しただけで、読者モデルでもなんでもないが」

 

 「すべての運動部を掛け持ちし、あらゆる競技の大会で好成績を残し、インターハイの記録を根こそぎ塗り替え、そればかりかコーチとしての資質も遺憾なく発揮、彼女が見込んだ生徒は例外なく大成し、オリンピック選手を何人も輩出したという、あの伝説の桐渕先輩なんですね!?」

 

 「そうだね。うん」

 

 いや、ちゃんと訂正してやれ。

 というか、なぜそんな嘘八百も甚だしい経歴だと1秒でわかる噂を信じた。

 

 「握手してください!」

 

 「いいよ」

 

 この一刻を争う重大なゲームの最中に何をのんきにやっているんだ。僕は軽く咳払いして話を先に進めるよう促す。

 

 「それで、僕たちは超能力者なる人物が図書館にいると聞いてやってきたわけだけど、渥美さんがその人、という認識で間違ってないのかな?」

 

 「超能力者? プレイヤーのことですか? だったらあたしのことです」

 

 「確か、ゲームがどうとか、君は言っていたらしいね。できれば知っていることを話してほしいのだが」

 

 「わかりました。お話します」

 

 やけに物分かりがいい。僕たちがプレイヤーだと疑っていないのだろうか。現に、目の前にいる僕たち3人はそろいもそろってプレイヤー。殺し合う敵同士だというのに。

 そう考えるとこの場はかなり異常に思えてくる。何せ、7人のプレイヤーのうち4人、半分以上の人間が一堂に会しているわけだ。それらが表面上とはいえ平和的に会談しているというのだから異常も異常、大異常だ。

 

 「あたしの知っていることを全部話します。そのうえで、桐渕先輩に協力してほしいことがあるんです!」

 

 「かわいい後輩からの頼みごととあっては、無下に断るわけにはいかないな。私にできることであれば、なんでも言ってくれ」

 

 「ありがとうございます!」

 

 そう言って桐渕はニコニコ笑う。

 僕に向ける笑顔とは微妙に違う、きれいな笑みだ。まったくもって不愉快極まりない。

 

 渥美は一見して桐渕に尊敬の情を抱いているように見えた。それが真実か偽りか、見極めるとしよう。少し興奮した調子で渥美の話が始まった。

 


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