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12:41 「図書室にて談話 -1-」

 僕はこれからどう行動すべきかについて、考えなければならないだろう。

 

 図書室に行くか、別のことをやるか。

 

 図書室になんか行きたくないことは確かだ。明らかに罠である。

 しかし、桐渕にすべてを任せていいものか。もし、桐渕が罠にハマって殺されてしまうのならそれは喜ばしいことだが、そう簡単にはいかないだろう。彼女だってプレイヤーなのだから、無力ではない。僕の知らないところでゲームが進行してしまい、情報を取り逃すことはよろしくない。

 

 逆に、こう考えてはどうだろうか。

 桐渕は僕に対してプレイヤーではなく、一般人であるふうを装っている。つまり、僕の前で大っぴらに【武器】を使うようなマネはできないはずだ。そりゃ自分が死にそうってときにまで切り札を出さないとは思えないが、なるべく隠そうとするはず。

 であれば、僕が隣にいることは、彼女にとってそれだけで足を引っ張る存在になる。僕の監視により、彼女の力は削られる。全力を出せない状態にできる。それが命取りになれば重畳、能力を使わせることになればそれもまた重畳。良いことづくめではないか。僕は戦いに巻き込まれないことだけを考えていればいい。

 

 ある意味、これは信頼ともいえる。僕は桐渕の強さを信頼しているのだ。こいつはゲーム終盤まで生き残ると確信しているからこそ、危険視もするし、依存もできるのだ。

 

 言うなれば、桐渕は僕の剣。いびつな切れ味の妖刀のようなもの。そして上遠野は僕の盾である。上遠野で守り、桐渕で切り開く、それが僕の戦い方だ。いや、自分で言っておいてなんだが、僕は最低の男だな。

 

 そんなわけで悩んだ挙句、図書館に来てしまった。

 

 落ち着け、罠とわかっていても、わかっているからこそ、対処のしようはある。敵影を発見次第、すぐに鎖を握る。そうすれば助かる見込みはある。もしものときは背中の上遠野を使ってガードする。問題ない。

 

 「失礼する」

 

 桐渕は図書室のドアを律儀にノックした。

 僕は目玉が飛び出そうなくらい驚いたさ。

 

 なんで敵にこちらの存在を知らせるようなことするんだ。こういうときは突撃、制圧、逮捕の流れじゃないのか。

 

 「合い言葉を言え!」

 

 僕が硬直していると、ドアの向こうから大声が返ってきた。女子の声のようであった。

 

 「木末、合い言葉だそうだ」

 

 「いや、なんで僕に振るんだよ。急に言われても……や、山、とか?」

 

 僕が自信なさげに答えると、再びドアの向こうから大声が返ってくる。

 

 「川!」

 

 これはあれか、おちょくられているのか。それとも、このやり取りに何か僕には想像もつかないような隠された意味があるというのか。

 

 「では、今から扉を開けるので、少し待っていてください」

 

 そう言われては、待つしかない。実に気が抜ける。もし相手がこちらの緊張を解いて気を緩めさせることが目的だとすれば、その作戦は成功したと言えるだろう。

 少しどころか数分は待たされ、ようやくドアが開いた。僕はいつでも鎖をつかめるよう、身構えた。

 

 現れた人物は、想像よりも背が高かった。日に焼けた健康的な褐色の肌は、スポーツに熱心に取り組んでいることを容易に想像させる。高く柔らかい声の割に大人びた印象のある女子だ。

 

 「さあ、外は危険なので、すぐに中へ!」

 

 そう言って体育会系女子は、早く来いと手招きしている。

 その行動だけ見れば怪しい。いかにも早く罠にかかれと誘っているように見える。

 

 しかし、僕は彼女から伸びる鎖を見て困惑した。

 錆がないのだ。きれいなものである。

 

 試しに鎖を手に取って見るが、まったく悪意を感じない。

 

 これは僕にとってよくない事態だ。

 なぜなら、相手が何を考えているのか、その手掛かりがつかめない状態であるからだ。僕は悪意しか吸収・感知できない。つまり、悪意を持っていない人間がどんな感情を持っているのか、判断するすべがないのだ。

 

 悪意を持っていないのだから害はない。結果的にそう断定するしかないのだろうが、不安はぬぐえない。それは能力を抜きにして他人を信じるということだ。普段の僕なら何の気なしに信用してやってもいい。だが、この命を賭けた大勝負というときに、しかも相手はプレイヤーだというのに、簡単に信用してしまっていいものか。

 

 「では、そうさせてもらおうかな」

 

 桐渕は相変わらずの薄ら笑いを浮かべながらのんびりドアへ近づいていく。その動きは自然で、まるでそれがさも当然であるかのように。

 ベルトに挟んでスカートの中に忍ばせていたホルダーのようなものから包丁を抜き放った。

 

 よどみなく、目の前の女子に向けて凶刃を突きつける。

 

 「ひっ……!」

 

 いきなりのことにおびえる女子を押し戻すようにして、桐渕は図書室に入った。体育会系女子の体格は、そう桐渕と変わらない。しかし、凶器を持っているか、持っていないかという差もさることながら、それ以前に圧倒的に負けていた。その常識をはずれた“構図”が、権力関係を頭に焼き付けさせるのだ。誰が襲う側で、誰が襲われる側か、ということを。

 

 体育会系女子は尻もちをついて止まる。桐渕は素早く室内の状況を確認し、そして包丁をおさめた。

 

 「本当にすまない、出会いがしらにぶしつけなことをした」

 

 そう言って桐渕は頭を下げ、倒れる体育会系女子に手を差し出した。

 


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