act,3_友人役Aの屋上が怖い
人の超能力とかいろいろ書いてるけど、能力が出るたびに説明するんで、覚えてなくていいですよ
平常心。平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心。
この人が声をかけるのは、イメチェン登校初日だからだ。巻き込まれフラグと死亡フラグは立っていない。
彼と僕は同じ黒目で(甘い雰囲気なんて意味ではなく)見つめ合う(僕は睨んでいるという方が正しいかもしれない)。彼――草薙友弦は危険だ。女子よりも可愛らしい美少女の顔を持っておきながら、外見をイメージする「純粋」を裏切り、腹は真っ黒である。話術がうまく、〝催眠術〟を使うことができる。イメチェンの理由を、ここで吐かせられるかもしれない。これは興味などでは関係なく、彼は日常の中で異状があったら、真っ先に取り除く性格だからだ。それは、自分に害がなくても同じ。
草薙友弦が使うと言った、〝催眠術〟。これは、比喩でも技術を使ったものでもない。それは、こういう力なのだ。
攻略対象が少し多いからか、それとも純粋にゲームが良かったのか、それとも絵がよかったのかは分からないが、そこそこ人気だった【溺れる恋愛~paranoia~】。ほとんどのプレイヤーがヤンデレ好きの中で、怖いものが好きだからと言って買っている人もいた。
確かに、ホラーな場面があった。それも、ヤンデレ化のバッドエンド以外で。僕が異常に巻き込まれフラグを恐れているのは、これの所為でもあった。それは、乙女ゲームでもありがちな設定――攻略対象が超能力を持っていると言う事実があるから。
心を読める力を持つ金坂満は、少し会って話しただけで、僕が超能力について知っていると分かってしまうのだ。秘密裏にされていることを知っていたら、探られるイコール興味を持たれる、そしてさらにイコールで巻き込まれることになるのだ。
攻撃系の能力もちの戦闘場面は、血が飛び散り、R18指定していなければ、まだ中学生の子などや免疫のない子は、気持ち悪くて吐いてしまったこともあるらしい。これは、乙女ゲームの試作品を自分の娘に試させた親の証言だ。
今までそんな顔を見せず、普通に話している紅くんも、攻略対象だから能力持ちである。目の前でニコリと笑っている、草薙友弦も。力の強さは、一番が生徒会顧問である水里青葉、次に風紀委員顧問である石動神楽、またその次に生徒会役員の五人、最後が風紀委員会役員の五人だ。そうすると何だか草薙友弦が弱いように思えるが、まず超能力であることが恐怖の原因なので、気を紛らわそうとした僕の作戦は無効だったうようである。
「――楓ちゃーん?」
固まっているのがようやく分かったのか、沈黙の中、草薙友弦がもう一度話しかけて来た。平常心、平常心。自然に、嘘はつかず、答えればいい。この人の能力は〝催眠術〟――というより、〝暗示〟みたいなものである。心を読むものでも、嘘を見抜くものでもないから、今不審なところを見せなければ大丈夫だ。ああ、もう、なんで転生者って本当の傍観がないのかな?
――あくまでも、自然に。
「草薙くん? 何かな?」
問うと、草薙友弦は笑った。
「いやあ、どうして今頃イメチェンなのかなーって。二年に入る時か、入学するときにするもんなんじゃないの? 普通」
案の定、直球だった。草薙友弦の声に棘は無く、責めるような声でもなく、ただ質問しているだけなのだろう。だが、どうも笑顔が信用できない。てか、さっき名前で呼んでなかったか? え、イケメンって大体こんな馴れ馴れしいの?
「おかしいかな?」
「えー? 似合ってるとおもうよー?」
「ありがとう」
「…………それで、理由は?」
チッ、覚えていたか。話題を逸らそうと思ったのに、失敗した。逆に怪しまれることは――まだないらしい。顔色を見てみたが、探るような視線ではない。よかった。まあ、相手は一般生徒だって思ってるから、それも当然か。
「…………ねえ、何ボーッとしてるのー?」
「え、あ、ごめんごめん。イメチェンは、ね、……紅くんがそうしたらいいんじゃない、って言ったから!」
「紅くん? ――もしかして、火八馬紅貴のこと?」
「そ、そう」
「…………二人とも、親しかったんだ?」
しまったああああああああ! しまったよ! 紅くんってツンデレだから、設定では親しい人はいなかったはずなのに! 公にばれちゃったよ!
「家が……隣なんだ?」
「へえ、隣人ってこと?」
「うん。親が仲良くって……」
「親が……ねえ」
訝しむような視線は、探る視線へと変わった。本当にそれだけか、疑っている。何故だ、ミスはしなかったはずだけど。いや、紅くんと親しそうに呼んでしまったのはミスだけど、その時はこんな視線じゃなかった。僕、またおかしいこと言ったっけ?
――あ……、忘れてた。攻略対象の家は、代々超能力を子孫に受け継がれる家系で、金持ちや神社、または裏稼業関係ばかりだ。そんな家と仲がいいのは……同じ稼業のものでしかないはず。
「まあ、いいや。そのピアスはどこで買ったの?」
「え? ああ、これは駅前の――」
すぐに話を変えた草薙友弦に困惑しながらも、平然とした顔で場所を教える。追究しようとしないということは、もう怪しんでいないのだろう。よかった。こんなどうでもいいことでどうして嘘を吐いたんだ、って思われたら、もう巻き込まれフラグが立つから。
彼らはヤンデレだから、監視カメラとか盗聴器とか普通に持っているし、それを部屋とかに付けられていたまま、普通に【溺れる恋愛~paranoia~】の話をしてたら、目をつけられる。
そうなると誤魔化しようがない。ヒロインはたまたま一匹狼な性格だったから、話す仲の人がいないと判断されて〝排除〟されなかった。だが、僕が超能力のことを知っていると、巻き込まれるし、最悪その場で殺される。秘密を漏らす、国の邪魔者として。後で僕、仲良い人いないから大丈夫だよ、とか言っても、今このクラスメイトに囲まれているところを見ているので、言い訳もできない。そもそも、嘘を吐いてもサトリの力を持つ金坂満を騙しつくせるわけがないのだ。
その時、僕は考え事をしていたため、この後に彼が呟いた言葉を、聞いていなかったのだ。
「――まあ、後で火八馬くんに詳しく聞けばいいしねー」
四時間目の授業が終わると、皆一斉に外に出た。優等生の集まるこのクラスの生徒でも、勉強が好きというわけではないので、開放感があるのだろう。なんせ、この学校では生徒にチョーク投げ(達人のみだが)をするのを認められている。勿論校則でも先生側のルールでもなく、暗黙の了解である。だがこのクラスでは優等生が多いからか、滅多に見られない。ヒロインが投げられるところ、早く見たいな。きっと、額は白のチョークの粉がついているんだろうな。だって、凄く早く投げないと、途中で威力落ちちゃうからね。……あれ、ここまで考えてみると、達人って結構馬鹿にできないのか? いやいやいや、チョークだし。ちなみに、投げているのは温和な水里先生ではなく、ホスト教師の攻略対象、そして風紀顧問の石動神楽だ。
そんなわけでお昼ご飯タイム。鞄から弁当を取り出す。我が校では食堂があるが、それはパスポートを持っている金持ちぐらいしか食べられない高級品ばっかりである。
杠はお金持ち学校ではないが、小中高一貫で偏差値が高く、しかもマンモス校となると、常識を学ばせたいと思う金持ちの親がいっぱいいる。そうなると、自然に集まってくるのだ。
だが、食事はいいものを食べさせてやらないと、とそういうのを気にする親たちもいる。でも、本当に金持ち校ではないので、一般生徒にまでそんな食事は出せない。だから子供に持たせたカードで、一部の生徒でしか食べられない食堂が作り上げられたのだ。なんていうか、学園側も結構大変だよねー。
ちなみに、紅くんはその食堂でも食べられるんだけど、いつも誰もこない屋上で食べていたりする。昼食の時は、友達も皆開放感を味わいに教室から出ているため、紅くんと話しても注目されないのだ。
「じゃあ行こうか、紅くん」
「おう」
同じく弁当を持って、屋上へ。紅くんの弁当は、豪家の母親が作るはずもなく、使用人が作ったものだ。愛情が籠っていて、美味しい料理だったので、その使用人が男だと分かった時は顔のニヤニヤがとまらなかった。紅くんよ。僕のいないところでハーレムを作るな。イチャイチャするなら僕の前でしてよ。
昔からあるのにまったく古い雰囲気を出さない学校では、階段も綺麗だ。七不思議もあり、その内の一つは今の上を歩いているピッカピカの階段も入っていて、夜中になると一番増えるという定番のやつである。前世の記憶を取り戻した今、ゲームでは紹介されなかった学校は、とても輝いて見えた。面白いところだし、何よりも賑やかだ。死亡フラグの件さえなければ、本当に完璧だ。憧れの学園である。
屋上のドアの前に着く。ドアノブに手で掴んだその時、甲高い女子の声。
「最低! あたしは本気だったのに!」
パンッ
その音で、ドアを開けずとも何があっているのか察した。だが馬鹿で天然な紅くんはその意味に気付かず、屋上を出て去ろうとこちらに近づく女子のことも分からず、静かにここを退こうと思っているのに、有ろう事か普通に声を出す。
「――おい、楓?」
「ちょ、今は声出すなよ!」
「は?」
結局ドアの前から退けず、女の子が開いたドアが、額にぶつかった。危険を察知して手を挟んでいたためか、痛みはない。ただ、泣きながら走り去って行く生徒にぶつかり、危うく転びそうになった。紅くんが支えてくれたお陰で、回避されたけど。てか、ここすぐ後ろに階段あるんだけど、なんだか怖いんだけど、死亡フラグ立ってないよね!?
何はともあれ、ここで転ばなくってよかった。これから死亡フラグが立ちそうな時は、紅くんがいればなんとかなるかなあ?
「ありがと、紅くん」
「……お前が転んだら俺まで巻き込まれるんだよ」
「ハイハイ。ところで、場所をかえ、」
「――ねえ、入るんなら早く入ったら?」
場所を変えよう、と言い終わる前に、紅くんとはまた違った美声が降ってきた。確かにドアを開けたままでは気になるだろうと、声の主に振り替えると、そこで固まった。 椎名楓のデフォルトの時よりも、少し長めの茶髪。同じ色の目。三つずつの銀色リングピアス。紅くんよりも着崩した制服は首元を晒していて、そこから一つのネックレスが見える。
見るからにチャラそうなその男は、案の定チャラ男である。整った顔立ちから、考えなくても分かった。彼は攻略対象で――生徒会会計、金坂満。こいつが、例の心を読む(サトリの)超能力者である。言ってなかったが、紅くんの力は火を操るパイロキネシスと、念写だ。
生徒会は二つ異能を持っており、風紀委員会の異能は一つだ。先生も一つだが、威力が違うとのことで生徒よりも強いらしい(やっぱりあのチョーク投げは凄かったらしい)。目の前のチャラ男もとい金坂満のもう一つの超能力は、金属を操る能力。どんなに太いやつでも、金属なら曲げられたりする。
「――ねえって、入らないの?」
驚いて固まった体が反応する。その問いには、僕ではなく紅くんが答えた。正確には、答えてはいないけど、質問返しで相手をしたのだった。
「金坂か。お前、ここで何してるんだ?」
「んー? ちょっと修羅場ってた!」
「はあ?」
事情の読めてない紅くんの、間抜けな声。それにしても、副会長じゃないのに、テンプレだなあ。チャラ男のことを言っているんじゃなくて、さっきから浮かべている薄っぺらい笑顔。なんでこんなに分かりやすいのに、皆知らないんだろう? でも成程。これは確かに気持ち悪い。張り付けられた笑みは、喜色の能面のようだ。
そう思うが、口には出さない。勘違い逆ハー狙い計画は、うっかり秘密がばれた時か、それとも興味を示しだした非常事態に使うものだ。無駄に嫌われたくないしね。
ちなみに、イメチェンをしなくても性格を変えるだけでいいと思ったら、大間違いだ。これもファンクラブに対抗するための、計画の一つ。
この学園のファンクラブは、過激だが愚かで馬鹿じゃない。さっきも言ったように、ここは豪家の子供がたくさんいるのだから、そしてその子供もファンクラブに入っているのに、愚かになるわけがないのだ。
例えば生徒会の誰かに彼女ができたとする(この場合、チャラ男である金坂満は含まない)。即行で怒り狂って苛めるのではなく、まずその人が彼女に相応しいか見極めるのだ。認めた場合は放置。悔しながらにも応援する人もいる。だが相応しくないと判断された場合(その彼女が平凡すぎたり、相手を大事にしていなかったりなど)は、その時からテンプレのイジメが始まるのだ。チャラ男が例外なのは、何股かしているからだ。一人一人が相応しくない、と思い見極めようとしても、数が多いし時間はかかるし、相応しいと認めても金坂が女を捨てたら意味が無くなる始末だからね。
つまり、相応しい容姿があればいいのか、と結論づいて、こうなった。何度も言うが、自分で言うが、可愛いしね。
が。それは今どうでもいい。問題は、その金坂満が目の前にいるという現実だ。
今はまだ、紅くんの連れ程度にしか思ってないだろうけど、彼が屋上を去らない限り、一緒にお話しましょう的な展開は決まっている。紅くんと金坂は、結構仲が良かったから。
そうなると、自然に僕もお話するわけであったり、しかも紅くんとも話すから親しいのがまたばれっちゃったりするかもなのだ。さっさと退室(?)させてもらおう。
「紅く――火八馬くん、僕はちょっと教室に戻るねー」
「は? 何言ってんだお前。てか火八馬くんってなんだよ。早くしろ」
「……」
「そうだよー、せっかくなんだから一緒に食べよーぜー」
空気を呼んでくれ! そして金坂、便乗するな!
だが、時はすでに遅し。そう言われると、(金坂にとって)一般生徒であるイメージが崩れてしまう。そういう誘いを断って、巻き込まれる小説は何回も見たことあるのだ。これはもう、我慢するしかない。潔く諦め、紅くんの右隣に座る。三人でこの席だと、金坂の左隣ということにもなる。
金坂が、ふいに僕の手を取った。顔を見れば、また貼り付けの笑顔。
「それで、可愛い君のお名前は? 俺は金坂満。ミッチーって呼んで」
「……椎名楓です」
「ところで火八馬とはどういう関係?」
「…………クラスメイトです」
「クラスメイト? ただの? ――よく火八馬仲良くなれたねー」
「………………まあ、成り行きで」
「あ、楓ちゃんって彼氏募集中だったりする? 俺とかどーお?」
「……………………間に合ってます」
「えー、相手いるのー?」
「…………………………一応」
うざい。超うざい。フレンドリーだとか言っていたが、ただの口説き魔じゃないか。
恋愛関係の相手はいないが、いないと言ってこれ以上絡まれるのは嫌だ。だけどいると言ったら嘘になるし、もし心を読んでいるのならすぐにばれる。だから、嘘を吐かず曖昧に返した。
まあ、それはいいとして。いや、よくはないけどね? もっと凄い問題があるんだよ。
ねえ、何で不機嫌なのかは分からないけど、金坂満どうにかしてくれないかな。君ら、恋愛ごと以外では仲良しだったよね。なんで金坂は紅くんに話しかけないの。なんで紅くんは金坂をとめないの。ちょ、助けてドラヱモーン!
そうして僕は、昼休みが終わるまでさんざん金坂に口説かれ、紅くんの不機嫌オーラに怯えて過ごしていたのだった。
朝日さん、拍手ありがとうございましたー^^
次はお望みの紅くん視点です♪