act,2_友人役Aのフラグが怖い
後半書き換えました。名前が大量発生しますが、覚えなくて大丈夫です。
嫌われはありえません
携帯を見て暫く固まっていたが、流石に心配した紅くんが肩を叩いて、ようやく我に返った。正体不明というか、どう考えても怪しい自称『友人』からのメールは、特典をあげるとのこと。何が特典かは知らないが、正直怖すぎて窓から外に投げたから、壊れてないか心配だなー、とか紅くんが部屋に帰った後に思って、ベッドでゴロゴロしていたら。ふと、机を見てみると。
「……」
あった。部屋に、携帯が。
あれ、おかしいよね。僕、怖くなって、確か外に投げたよね!?
あれか、人形の怪談のやつ。捨てても帰ってくる、呪いの人形。イメージは髪が伸びる日本人形。
「…………」
そっと、携帯に触れてみた。人形が出てくる気配はない。当たり前だ、妄想だからね。携帯を開けて画面を確認。結構勇気が入ったけど、開けた画面に文字の羅列もメールの画面もなく、僕が使っている携帯と同じ待ち受け画面が待っていた。ただ、普通の携帯ではないことは明らかだ。
先程の文字羅列事件もあるが、そもそも画面が一人で変わっているというのも不気味。しかも普通の携帯の機能が備わっていない。あるのは「死亡グラフ」と書いてある黒色のものに、「画面管理」と書いてある灰色のもの。あとは「溺愛グラフ」と書いてあるピンク色のものと、「ヤンデレグラフ」という赤色のもの、最後に「メール」の機能がある。合計で四つしかないで、他にはない。携帯の普通の機能がなく、しかも気になるフラグの表ばかりが乗っている。便利だ。
だが、少しだけ残念だ。まだ偶然で済ませられていたのに。思おうと思えば、自分は偶然同じ名前の椎名楓だと、現実逃避ができたのに。これじゃあ、もう確定じゃないか。
三つのグラフから、「溺愛グラフ」を開いた。いくつかの名前と、ピンク色のグラフ。全然グラフが立っていない。まだ溺愛グラフはないようだ。まあ当たり前か。主人公じゃないし。あと、またっていうのもおかしいな。一生立たないことを願う。
それにしても、名前多いなあ。こんなにいたっけなあ? 隠しキャラだったり。途中までだったから、まだ分からないか。
火八馬紅貴。水里青葉。風間白蓮。地島黒兎。空閑聖夜。金坂満。
この六人が生徒会とその顧問。そういえば水里先生、生徒会顧問だったな。関わってないと、忘れてしまう。
遠藤晁未。大場夢移。度会思闇。度会紫艶。雷創操。石動神楽。草薙友弦。
この七人が風紀委員会とその顧問。ああ、そうだ。度会の双子に、乙女ゲームなのに生徒会に双子がいないのは珍しいな、と思っていたんだっけ。
合計十二名。少し多すぎると思うが、攻略対象である男子は以上だ。
あとはヒロインとモブ、つまりサブキャラと敵キャラである。これは「死亡グラフ」から知ることが分かる。女子相手なら、溺愛フラグやヤンデレグラフは立たないからね。
……ん? フラグが立たないなら、どうして溺愛フラグとヤンデレフラグの機能があるんだろう?
……まあ、いいか。
小田桐藍那。城之内麗華。金坂鶫。そして――椎名楓。女子はこの四名のみ。小田桐藍那はヒロインで、城之内麗華は生徒会ファンクラブの会長、金坂鶫は生徒会の一員である金坂満の姉だ。椎名楓はご存じの通り友人役。この椎名楓という名前は僕本人だからグラフに乗ってないけど、一応。
「………………」
しかし、なんだこれは。いや、携帯なんだけれども。よく思い出せばこの携帯モドキ、僕が死亡フラグ教えてくんねーかなー、って呟いたときだった気がする。そう、ブラックホールに大きな目玉の、あの妖怪みたいなのが現れた時だった。僕は……憑かれたんだろうか。
ピリリリリ
「うわっ! 何?」
携帯を開くとメールボックスにメールが一件届いていた。
……嫌な予感しかしない。だって、この携帯のメールアドレス、誰にも教えてないんだもの。
メールを開く。送り主――『友人改め神様ウェーイ』。超怪しい。件名『いやねえ、実はねえ』。超うざい!
本文。『特典、超大切にしてね? 神様、わざわざ用意したんだからさ。投げたりしないでね。これ、超大切!』
うっぜえええええ!
ってか、霊じゃなくて神様だったのか。でも一人称が神様とか凄くうざい。いや、本当なんだろうけど。でも、あの目が神様だなんて、なんということだ。僕って神様は光る魂か、それか超絶美形。今それが否定されるなんて……ま、別にいいか。
でも……、どうして神様は僕にこの特典(命名〝フラグ携帯〟)をくれたんだ?
主人公は素で攻略できるから、必要ないのは分かるけど、しかしそこで何故僕をチョイスするか不明。――ああ、成程! これで友人役の役目を果たせということか。アドバイスをしやすいようにしてくれたんだ!
「って、追い打ちかけないでよ!」
僕は関わりたくないのに。僕の命が他人の恋愛ごときにかかっているなんて、まじでやめてほしい。自分がプレイヤーだった頃とは、また訳が違うんだから。小説である〝傍観しようぜ〟なんて勇気がない。いや、むしろ本気で大丈夫かその人。命かかっているんだぞ。なんて羨ましい神経なんだ。それともあれか。ゲームの内容がヤンデレなのがいけないのかそうだきっとそうだ!
「はぁ……」
明日から、学校どうしよう。転入初日のシナリオは崩されたけど、別に知っている人が僕以外いないから、ヒロインである小田桐藍那に声をかけなくてもいい。だけど、それは諸刃の剣。対象を攻略していく小田桐藍那の傍にいれば、もし接点ができてもそれを理由にできる。だけど、小田桐藍那の友人にならず、もし接点ができるとしたら。本当にじっとしていれば大丈夫だけど、僕は正直不安だ。そうなるように努めるけど、僕は物語の主人公のように何かを隠したりするのが苦手だから。……こんなところだけ似ていても嬉しくないな……。
接点ができるのは少し自意識過剰か? いや、それでも相手の好物とか知っていたら、おかしいんだよね。もしポロッと口から出したら、ファンクラブに目を付けられ、最後には攻略対象本人に目を付けられる。いい意味ではない。ストーカーとして、嫌悪対象で。
どうする……? 小田桐藍那の友人にならないで、しかし攻略対象に目を付けられない立ち位置なんて、あるか?
「うーん。そんな旨い話があるわけないよねえ……」
考えるのは疲れた。漫画でも見て気分転換しよう。思い出したからには、【溺れる恋愛~paranoia~】の漫画がないのが残念だけど、それでも面白い作品はあるもんだ。今ハマっているのは、「リリス・サイナーの追憶」っていう、少女漫画。恋愛要素は少なくて、大体がバトルと騙し合いだけど、それでも今から千年後の未来で生きる希望を見つける、その各場面が好きだ。主人公の一人称が僕だったから、憧れて僕の一人称もそうなった。
「あーあ、愛佳みたいにボケキャラでいけたらいいけど……」
愛佳というのは、「リリス・サイナーの追憶」に出てくる主人公だ。最強な頭脳を持っていて、誰よりも賢いくせに分からないふりをしたり、演技をして自分を騙している。わざと悪役を演じて、人に憎まれるようなこともしていた。そんなことをしても得はないのに、と少しがっかり感を感じた時もある。
「――ん? ボケキャラ……?」
それだ!
翌日。解決策が思い浮かんだのが嬉しくて叫んだら、紅くんが頭叩きにベランダから侵入し、それに驚いた僕が足の小指をタンスの角にぶつけてから、次の日。あれは凄く痛かった。グキって鳴ってたよ。――あれ、そういえば紅くん、常時窓開けてるのかな? いくら叫んだとはいえ、窓を閉めてたら聞こえないはずなんだけど……、まあいいか。僕難しいこと考えたくないし。
気を取り直して、今僕は姿見の前に立っている。友人役である椎名楓の顔が、そこにあった。
肩につくかつかないかとぐらいの、濡れ羽色の髪。底の見えない闇色の目は、まるで男のような切れ目だ。少しふっくらとした唇は、色香を醸し出す。中性的と言われるだけ、黒髪黒目の短髪は細工がし難かった。左耳にだけに、チェーンの長い、赤色の宝石がついたピアスを付ける。それだけで、中性的なのは変わらないが、勝気で色気のあるカッコいい女子の完成だ。
その容姿に、今日は少し付け加える。短い黒髪の上にカツラを被り、黒髪が長くなったように見せる。髪を少しだけ摘み、そこを赤色のリボンで結んだ。弾力のない、形だけのツインテールができる。姉である椛から借りたメイクで、愛らしい女の子ができるようにした。外見に合うような笑顔を考えて、納得がいったらやっと制服を着る。
黒いブレザーに紺色タータンチェックの棒ネクタイ。ブレザーの右胸には金糸の鷹を模した紋章。下は同じくタータンチェックの紺色のスカート。校則違反の分かりやすい短さだが、これくらいなら誰でもしている。スカートの右ポケットに白色のフラグ携帯を入れ、普通の携帯は鞄にいれてある。
ここまで来ると、ただイメチェンをしているように思うだろう。モテたいそこらへんにいる女子生徒なのだと。だが、これは違う。僕が工夫するのは性格である。
僕は――うざい系不思議ちゃん勘違い逆ハー女になろうと思う。長い。
ウザい系不思議ちゃん勘違い逆ハー女――略して勘違い女。つまりは、周りから見るうざくてぶりっこ型のヒロインを演じようと思っている。ほら、よくあるじゃないか。無理して笑っている金髪碧眼の生徒副会長に〝その笑顔気持ち悪いのでやめてください〟とか言って、気に入られているヒロイン。あれ、周りから見たらドM化した副会長と、それを真顔で言うヒロインにドン引きするだけだから。まあ、つまり、そんな感じのうざ系ヒロインになろうと思う。
本当のヒロインが言う言葉を回避しながらそうしていけば、ヒロインからは親しくなるどころか〝うわ、なにこの人〟とか思われて、逆に嫌われる。あのヒロインは、言いたいことをハッキリ言う、キツイ人だから。僕は傷付くけど、死亡フラグ回避のためなら仕方がない。とにかく、近寄りたくないと思うようにイラッとさせとけばいいんだから。
この学校にいつも笑顔の副会長はいるけど、偽物の笑みを浮かべてなんかいない。多分。いつもニッコニコだ。多分。あと、冷たい印象もなく、ポヤポヤしている。……多分。
多分これなら――いける。女子と話ができなくなるし、結局は演技しなきゃいけないけど、デッドエンドのヤンデレたちのゾッとする笑みを思い出したならば、僕の戒めとなってくれるので、多分大丈夫。
騙すのは学園の生徒のみ。例外は、紅くんだけ。迷惑をかけるが、ああ見えて世話好きだから、きっと見限るようなことはないだろう。そもそも、これは命の問題だし。乙女ゲームの世界に来られるなんて夢みたいだけど、ここで死んだらリアルBLが見られなくなる。それは勿体ない。そもそも、前世でも未練はタラタラだったのだ。回避しながら楽しんでもいいだろう。
ガラッ。窓を開く音。
「おい、かえ――――誰?」
窓を開けた瞬間、目を見開く紅くん。
「酷いなあ、紅くん。僕だよ。君の楓くんだ」
軽く笑ってそう言うと、真っ赤になる紅くん。少しキザすぎたかな。口をパクパクさせて、乗り込んできた窓から動かない。まあ、驚くのも分かる。昨日まで少し変わり者の幼馴染だったが、今は美少女となっている。しかも今までなかった可愛らしさがあるのだ。僕が言うのもナルシストっぽいけど、これは紛れもない事実だ。
「楓、お前、本当にそれで行くのか……?」
「うん、そのつもりだけど……。――紅くん」
「あ?」
「学校に着いて、僕がどんな風になっても、紅くんは味方になってね」
「……は? ああ、まあ、分かった……」
意味が分からない問いかけに、紅くんは曖昧に頷いていた。
鞄を持って玄関に行こうとすると、紅くんも一旦家に戻り、靴を履いて僕の家の前で合流する。いつもと違う外見なためか、それとも緊張ゆえか、外に出るときは少しドキドキした。教室に行ったら、すぐにばれるだろうか。いや、日頃一緒にいる紅くんが分からなかったんだ、分からないかもしれないし。
いつもならこんなに堂々と一緒に登校なんてしないが、今日の僕は美少女である。今までの中性的な顔は、何処からどう見ても女だ。少々のイメチェンで、絶対に僕――椎名楓だとは分からない。最初のうちはファンクラブに目をつけられるかもしれないが、その最初を我慢すれが、すぐに飽きられる。ふっ、我ながらいい計画だ。意味もなく心の中で高笑いしてみる。
……ん? やけに静かじゃない?
隣を見ると、紅くんがやけに不機嫌――いや、落ち込んだ表情を隠すために、眉間の皺を増やしているだけのようだ。
「紅くん、何が不満なんだい?」
「はっ!? なんでもねえよ!」
「そうは見えないけど……」
「てか、お前はなんなんだよ!? 昨日までそんなことしてなかったろ!」
「僕がイメチェンしちゃいけないの?」
「お前がそれだけなわけねえ! 絶対なんか企んでるんだろ!」
おや、紅くんは僕をそういう目で見ていたようだ。企んでいるように見えるのかな。よく分からないが、紅くんは僕の美少女バージョンをよく思っていないらしい。だが、やめるつもりはないのである。
「僕は、――勘違い逆ハー女になるんだからね」
「…………は?」
僕が勘違い逆ハー女になろうと思ったのは、二次元創作である夢小説が原因だ。僕は前世で、色々な夢小説もとい【溺れる恋愛~paranoia~】の二次元創作を見てきたけど、ほとんどがヒロインの応援をする、地が真面目な子とか、美形に興味がない毒舌またはクール系か、あとはハイテンションなギャグ系の子しか見たことがない。だが、僕はそのどれでもない。乙女ゲームの友人役になる小説はたくさんあったけど、僕っ子でぶりっこな逆ハー狙いが報われるのは見たことないから、きっとこれなら溺愛フラグも、巻き込まれフラグも、死亡フラグもなくなる、……はず。取り敢えず、ボロを出してストーカーに間違われないためには、その情報を知っていてもおかしくない位置にいなければならないのだが、それは大体ファンクラブの会長などしかないと思った。だけど、イケメンにしか興味がないと思われる逆ハー狙い――逆にいえば、イケメンのことなら何でも知っていそうなこのキャラなら、どうにかなるのではないかと。
「うーん、でもなあ……」
逆ハー狙いって、厚化粧もしなきゃいけないんだっけ? いや、でも僕は〝不思議ちゃん〟をいれるつもりだ。地でうざい、を素でいかなければならない。故意にうざいのなら、厳しく注意されてファンクラブにも目をつけられて、大変なことになる。だが、天然なら悪気は無いんだとそういうこともできなくなるのだ。ファンクラブが騒ぐのには変わりないけど、それも天然パワーで撃退だ。難しそう。
「うん、天然パワーは最高だよね」
「おい、待て。今の会話の流れで、なんで天然パワーとか出てくるんだよ」
「脳内で色々あってねえ」
隣でぎゃんぎゃん吠える大型犬を放置し、もう見えている校舎に目を向けた。学園には第一校舎と第二校舎があり、第一校舎はH字の形になっており、第二校舎はエの字形となっている。簡単に言えば、小中高一貫のこの学園では、下級生と上級生で校舎が分かれ、その校舎は向きが違う。東門を通るのは大体上級生で、西門である裏門を通るのが下級生だと、自然にそうなっている。通ってはいけないというわけではないが、暗黙の了解というやつである。多分。
校舎に入ると、今の僕の姿を見たことないと、生徒が騒ぎ出す。僕がいうのもなんだか、そう、何回でも言うが、今の僕は赤いリボンが似合う美少女である。そんな僕を知らないとなると、転入生かと騒がれるのだ。全然違うし、転入生は来たばっかりだけどね。
玄関に入り、靴を履きかえる。食い入るような男子の視線に若干イラつきながらも、顔には出さず同じく履き替えた紅くんと教室に向かう。
僕たちの教室である一組は、攻略対象が四人いる。まずは紅くんこと火八馬紅貴。風紀副委員長の草薙友弦。教師の水里青葉。そして最後が、金坂満。こいつがやっかいだ。こいつは、嘘を見抜ける。そういう〝設定〟。だから、用心しないと。下手にボロを出してはダメだ。死活問題だからね、これ。
教室に入ると、転入生でヒロインの小田桐藍那が、草薙友弦に絡まれて鬱陶しそうにしていた。気まずい雰囲気だったのだろう、ドアの音が予想外に響き、クラスの皆がこちらを見てきた。
「あれ、誰……?」
「隣に火八馬くんいるけど――」
「あー! 楓ちゃんどうしたの?」
一番早くに気付いたのは、隣の席の茶髪の子だった。名前は確か――そうだ、沢井奈乃香だ。ヒロインほどではないが、可愛い子である。指さして驚いているところが凄く愛らしい。
そして、名前を呼んだことにより、人が集まってきた。
「椎名、お前どうしたんだよ?」
「イメチェン? 楓ちゃん、似合ってるね!」
「ピアス開けたんだ?」
「そのピアスどこで買ったのー?」
フレンドリーで親しみやすく、悪く言えば遠慮のないクラスメイトたちは、喧しさを知らないらしかった。イメチェンの理由はてきとうに受け流し、ピアスの売っている店のことを話しながら、席についた。途中で弾かれた紅くんは、一人不満そうに席ついていた。少し落ち込んでいるところが可愛くて笑っていると、またクラスメイトが突っかかってきた。それにまた受け答えしていると、――ショタ声が降ってきた。
「可愛いかっこしてるねー? 楓ちゃーん」
反射的に声の主に振り返り、心臓がとまりそうになった。エクルベイジュの短髪に、真意の見えない、というか見さそうとしない、黒目。女子ほどではないが、少しだけ大きな目を不思議そうに大きく開け、問うてきた。中性的、というよりも、まるで美少女のような顔を近づけてそこにいたのは……。
「草薙くん……」
風紀副委員長であり攻略対象である、草薙友弦だった。
主人公はバカです。素で言ってます。そしてフラグの登場。
男装がダメっぽいので、不思議ちゃんにしました。これで大丈夫かな?