act,11_友人役Aの展開が異状
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久しぶりにあの人が登場
突き刺さる視線。集まる目は、決して友好的なものではない。嫌われているわけではないが、あちらは僕を探ろうと必死なのだ。一人を除いて、生徒会室にいる皆は隠しているつもりだろうが、結構分かりやすい。一番分かりやすい、いやそもそも隠そうとしているのか疑問に思うのが、僕から見て空閑聖夜の右にいる風間白蓮、魔王様だ。
どうぞと迎えられた生徒会室には、案の定空閑と度会兄弟以外の人物が居座っていた。いや、本当の生徒会もいるから、いるのは当たり前か。
いるのは、七人。透視を持つ空閑聖夜。サトリを持つ金坂満。暗示を持つ草薙友弦。言霊を持つ風間白蓮。テレパシーを持つ度会の紫艶。相変わらず思闇と一緒にいる。そして、サイコキネシスを持つ風紀顧問の石動神楽。僕は石動先生と呼んでいるが、女子生徒には大体神楽先生と(勝手に)呼んでいる。
石動神楽の灰色の目が、僕を見た。その目は探りというより、何故か怯えている――恐怖を、感じているように思える。こんな最強集団でいるくせに、どうして恐怖があるんだろうか。相手は、僕、一般生徒なのに。
取り敢えず。
「生徒会室に風紀委員が入っていいんですか?」
「特例だよ」
そうっすか。やけに返事が早かったですね。もしかして予想でもしていましたか。まあ、あっちが僕は能力のことを知っているものと思っているなら、こちらが暗示を持つクソ薙――じゃない、草薙を追い出したいと思うのは当然だと思ったのだろう。実際、そうだし。でもクソ薙――草薙を追い出したところで、金坂も風間もいるから仕方がない。どうせ逃げられないのだから、それだから、僕は勝負に出たというのに。
そうですか、と返事してそう思っていると、ちょんちょんと肩を叩かれた。振り返ると茶髪。度会兄弟だ。
「「ねえ」」
「どうして朝行っちゃったのー?」
「楽しみにしてたのにー」
嫌だからに決まっているだろう。とは言わない。
「ごめんね、予習しないと授業に追いつける自信がないんだ」
「ほう。昨日の夜にはやらなかったのか?」
「夜はやる気が出ないので、朝にしているんですよ」
何が、ほう、だよ魔王め。
先輩だからと言って、お前に敬意なんてないんだからな! 敬語使っているのはお前が先輩だからと空閑聖夜に絡んでほしいからだよ! 勘違いするなよな! ――また失敗だ。ツンデレというのは凄く難しいらしい。
「それでも、楓ちゃんは頭いいよね?」
「楓ちゃんなら、予習しなくてもいいんじゃなーい?」
「まあ自主勉強するくらいだからね」
金坂、クソ――もういいや――クソ薙、空閑聖夜の順で言われた。
確かに、僕は全ての教科をほどんど満点で結果を出している。だけど予習は習慣だから行き成りやめても何でしなかったんだろうって後悔するだけ。そもそもどうしてお前らにそれらを指摘されなければならないんだ。……あ、疑われているからか。忘れていたよ。
「好きですからね、勉強。――それに、頭がいいと言うなら草薙くんもじゃないかなあ」
あくまでも一般的に。
あくまでも普通に。
あくまでも不自然がないように、応じる。
もし僕が一般人を演じていなければ、だからなんなんだよ、と一蹴しているところだ。
「ところで、僕はてっきり渡会くんたちと、空閑さんだけだと思っていたんですけど……」
「ああ、ごめんね、言ってなかったかな。最初話したいと言ったのは二人なんだけど、僕が誘いに行っている間に話したいって人が増えちゃったみたい」
「そうなんですか? 僕と話しても何の意味がないでしょうに」
「いやあ、これがあるん――」モガッモガモガッ?
あるんだな、と言おうとしたんだろう。でも、金坂に笑顔のまま口を塞がれ、なんでなんで、と疑問符を飛ばしている。今、口を塞がれたと想像して、口と口でと思った人は僕の同族だ。ぜひとも話そうではないか。残念ながら、彼の口を塞いだのは、金坂の手だが。
空閑聖夜はしっかりしているようで、実はおっとりさんという設定である。だから本来、こういう騙し合いの場は似合わないのだが、彼は透視があるからここにいたい、と言ったのだろう。まあ、能力者は多い方がいいからねえ、確かに。
「どうかしたのかい、金坂くん?」
勿論、分かっていて問うのは嫌がらせである。
「いやいや、なんでもないよー楓ちゃん」
へらっ。
いつもの貼り付けた笑顔。どうしてこいつ、モテるんだろうなあ。
「椎名」
呼んだのは、石動先生。
その顔は真剣そのもの。うん、嫌な予感しかしないよ?
「ここに呼んだのはな。実は、椎名を会長補佐として生徒会に誘おうと思ったからだ」
「お断りします」
「よかった、受けてくれ―――えええ!?」
まったく油断も隙もない。いや、もう杠学園の中にいる間は、油断してはいけないな。しかも今みたいな危機的状況では特に。
なんだかさり気なく凄く重要なことを言っていた。驚いて隙は与えない。でも、今、結構焦っている。生徒会、会長の補佐。生徒会長、風間白蓮の、補佐。無理だから。笑えないから。なんでそんな、死亡的なフラグが立ちすぎるところに、わざわざ立たなければいけないんだろう。そもそも、その座はヒロインである小田桐藍那のものだ。優等生のキャラが壊れるが、死亡フラグ回避には変えられない。断るに決まっている。
「予想外だったな……椎名は受けてくれると思ったんだが」
まあそうだろうね。今の反応を見て分からない人はいないよ。
「今はやりたいことがあるので」
「じゃー、そのやりたいことが終わったらいいのー?」
「そのやりたいこと、は杠を卒業するまで終わりません」
嘘は言っていないさ。だって僕のやりやいことって、死亡フラグ回避だから。それって、ヒロインの小田桐藍那が誰かと結ばれるか、それともハーレムエンドまたは友情エンドで卒業するまで、終わらない。ていうかその前に、ヒロインの立場を奪おうなんてこと、してはならない。別に小田桐のためとか、そういうわけではなく、ただシナリオが変わると未来が分からなくなるから、死亡フラグを回避できなくなる時があるかもしれない。
僕はバットエンド時の風間白蓮の言葉を覚えている。脅す低い声。その言葉が、死亡フラグの立った合図である。僕は風間白蓮の言霊を封じたりすることはできないため、そのバットエンド直前にヒロインと仲が良くなければいいのだ。そうなると、僕と同じ会長以外の補佐になるであろう小田桐とは、ここで接点を作ってはいけない。小田桐が生徒会に入らないというのはありえない。生徒会に入る本当の目的は、小田桐が能力のことを口外しないように、と監視の意味もあるのだから。
「そのやりたいことって、何だ?」
「言えません」
断るっつってんだろ、ホスト。
――口が悪くなった? さて、なんのことやら。
「何で言えないんだ?」
「生命に関わる問題ですので」
「それなら尚更だ。杠で生死に関わる問題があるのは困る。んでもって、その生死に関わることを放ってはおけない」
正論言うなよ、ホスト。
…………。
……あ、この人の本職って、教師だっけ? 忘れていたよ。
「大丈夫ですよ、関わるのは僕の命だけですので」
嘘だけど。風間の言霊で自害するのは僕だけじゃない。
「でも、椎名の命は関わるんだろ?」
「それは自分で回避できます。だから、生徒会入りはお断りします」
これでどうだ! 流石に生死の関わる問題では、無理強いもできないだろう。生死が関わるなんて嘘だろう、とも、どんなに胡散臭くても言えない。そう言える証拠がない。そもそも、相手は入ってくれと頼む側だから、そんなに強くも言えないからね。
「話はそれだけですか?」
「あ、」ええっと。
困惑している。本題を出して時間を稼ぐか、それともその生徒会入りを受け入れてくれてこれからじっくり探るつもりだったんだろう。だが、僕はそのどちらもさせない。生徒会入りはしないし、時間を稼ぐこともさせない。これなら、まだ本題を言わない方がよかったものを。
もういいですか。そう言って生徒会室を出ようとした時、金坂が言った。
「ねえ楓ちゃん」
――――超能力って、どう思う?
反応するような素振りは見せてはいけない。動揺を見せず、笑顔を見せ。
「それ、今日火八馬くんからも聞きました。でも、答えは同じ」
聞いていたでしょう?
そんな意味を込めて、笑ったのだ。
それを分かったのか分からなかったのかは知らないが、金坂とその他一同は固まった。
「――カッコいいと、思いますよ」
明らかに、胡散臭かったと思う。
勿論、これも嫌味だ。
生徒会室を出ても、近くには誰もいなかったため、助かった。ただでさえ、生徒会室に行くまで生徒に見られているのに、生徒会室に入ったことまで広まったら、そこですぐにファンクラブ始動である。恐ろしいことこの上ない。城之内先輩と話したことはプラスになり、きっと庇ってくれるが、しかし何回も言うが温和なファンだけでもない。
ただ、どこか廊下がおかしく感じた。誰もいなくて静か、というより寂しい、殺風景、という感じだ。目から伝わってくる違和感。
どこがおかしい? 何がおかしい? 何がそう思わせている?
――――――――――ああ、そうか。今、僕、草薙友弦の暗示にかけられている。
草薙の能力、〝暗示〟――。それは、頭の中を操ること。頭を操ることでできるのは、三つ。一つは頭を操って、対象のある場所に誘導すること。これは神隠しと同じ。二つは、思考の制限。対象を黙らせることができる。何かを問われ、何かを言い返そうとするが、その〝何か〟を忘れてしまう、という、日常にありそうなもの。最後は洗脳。言葉のまま。
草薙のヤンデレ型は監禁系陥れルート。ヒロインを一度監禁して、手枷をつける。そしてわざとその鍵を、取れるか取れないかのところに置く。取れなかったらそのまま。取れて監禁部屋から出ても、外に出た瞬間すぐに戻るように洗脳されている、というものだ。それを永遠と繰り返す。
つまり、――僕は、試されている。
このまま騙されていれば、今までよりは警戒は軽くなる。だが気付いて、この暗示を無視したならば。どうなるかは言わずもがな、警戒されるどころか敵視されるかもしれない。僕も能力者かもしれない、と。
そうすると、疑われるのは今いる能力者の仲間たち。僕は死亡フラグ回避のためなら、別にあいつらはどうでもいいのだが。でも、疑われる中に紅くんが入るのは気に入らない。
どうしようかなー。別に騙されてあげてもいいけど、草薙に騙されているっていうのがいやだなー。でも紅くんのためだしー。それに死亡フラグ回避のためだと思えばー。思えばー。…………いや、嫌だよ。あの可愛い顔にニヤニヤの笑みが張り付くのも嫌だが、手の上で乗せられている、というのも不快。ああ、しょうがないから、フラフラしてやろう。さて、どこに行こうかな。行き先は自分で決めてもいいよね。あいつらは目的地を教室だと思っているんだろうから、教室以外ならどこでも。
後ろから、手が伸びてきた。
男らしい大きな手の、掌が見える。
「ねえ、」
抱きすくめられた。
「どこ、行くの……?」
見上げた顔は、無表情。ゾッとする。何故、ここにいる?
――大場夢移。
短く切られた黒髪。肌は焼けたチョコレート色。切れ目は確かに、僕を見ている。
そして―――――――――――――ハッとする。
驚いてはいけない。
初対面で書き締められるのは驚くことだが、必要以上に驚いてはいけない。
そもそも、どうして、今。彼は、大場夢移は、夏休み中に出てくるはずなのに――!
て、いうか!
「いつまで抱きしめているのかなあ!?」
鳩尾に一発。後ろから抱きすくめられた時、痴漢にあった時は、肘で鳩尾を攻撃。これ、結構大事なこと。でも、失敗する可能性もあるからやめた方がいいかもしれない。ん? 僕は勧めているの? それとも駄目だと指摘しているの? んん?
振り返ると、そこにはお腹を押さえてプルプル震え、しゃがんでいる大場夢移。
「君、誰!」
知っているけどね。
だが普通の反応ってこうなんじゃないかな?
「って、あ、あれ……?」
さっきから、ずっとしゃがんだまま動かない。震えてお腹をおさえたまま、一言も喋らないし、というかちょっと顔が青くなってきてるんじゃ……。
やばい、どうしよう。やりすぎた。本当はこの人、暗示を解こうとしてくれた人なんだけど。暗示は、他人の声で解けるから。え、あ、もしかしなくとも、僕、悪者……?
「っ、ごめん!」
大場夢移の足を引っ張って、保健室に向かう。怪我人に酷いとか言ってられない。僕は男一人運べるほど、力がない。女子にそんな力、普通はないんだよ。保健室が近くでよかった。きっと、能力でよく怪我するからだろう。
保健室は無人だった。保健の先生は必ず優しいかエロキャラで攻略対象なのだが、【溺れる恋愛~paranoia~】では攻略対象ではなかった。むしろサボり気味のおじさんだ。いなくて正解だ。変態だって噂もあるし。噂って大切だね。
「ねえ、ちょっと、座れる?」
大場夢移が頷かず、静かにイスに座った。捲った腹には、赤い痣。
ああああああ、どうしよう。冷やせばいいのかなあ?
行き場のない手たちをどうしようか迷っていると、大場夢移は立ってベットに向かい、そのまま……寝た?
「え、え、え?」
僕、どうすればいいの?




