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act,9_友人役Aの幼馴染が恐ろしい

短いです


 彼らが理科準備室と称するそこで、彼は泣いていた。

 長い前髪の所為で隠れぎみな紺色の目は今、涙で埋もれている。

 部屋の隅で床に座り、アイアンブルーの前髪で隠した目は、下を向いていた。見て痛痛しいと思うほどに大泣きしている彼の手には、カッターが握られている。

 力強く握られたカッター。それは彼の隣に置かれている棺桶に使われた。

 十字架の模様の部分を幾度と刺す。

 何回も刺すうちにカッターの刃が少し歪み始める。


ザクッ――


 何度も何度も、刺す。


ザクッ――ガチャ


 その部屋の扉が開いた。顔を見せたのは、一人の男子生徒。

 プラチナブロンドの髪に赤い目を持ち、白制服を着こんだ生徒だ。



「誰かいると思ったら貴様か……。それに傷をつけるのはいいが、後で空閑に説明しておけ。俺が疑われるのは御免だ」



 髪はぐちゃぐちゃ。目は虚ろ。近くにあった棺桶を何度も刺している姿。感情が錯乱しているだろう顔を見ても、白制服の生徒はそれが当たり前のように接した。

 カッターから手を離し、彼は顔をあげる。



「風間くんは――空閑さんだけ?」



 掠れた声。



「空閑さんだけだよねだって風間くんは空閑さんのこと尊敬しているんだよね」

「おい、……どうした?」



 白制服の生徒は、彼の口から出た言葉に驚き、そして混乱する。



「風間くんは僕から何も取らないし風間くんは僕に嘘をつかないし風間くんは空閑さんを尊敬してるから空閑さん以外に興味を持たないよね」

「……ああ、そうだな」

「―――――――なら、お願い」



 彼は口にした。



「暫く、火八馬くんを学校に来ないようにしてくれる……?」



 彼は笑った。涙で先が濡れているのか、細められた目はほとんど隠れている。それでも、いつもない早口と口数、そして〝お願い〟という言葉に、白制服の生徒は戸惑いならも頷いた。



 ※



 先に言っておこう。風間白蓮ではない。だけど魔王は降臨なされた。

 目の前に仁王立ちするのは幼馴染である紅くん。その顔は鬼のように歪められている。

 どうしよう、僕、何かしただろうか。もしかして、女装(?)への怒りが限界値へ突破したのだろうか。え、僕……殺される? 逃げたい。超逃げたい。でも、流石に教室で撲殺はないだろう。


 現在の状況を説明しよう。

 その趣味の人が見たら百合を想像するような(実際はその想像かけはなれているが)くらい、屋上仲良く話し合っていた僕たち(その会話の正体は知らぬが仏)。城之内先輩のキラキラスマイルに負けて授業をサボったのだが、教室に戻ると何故か魔王化した紅くんが睨んできたのです。ですです。

 いや、ふざけている場合ではないのです。紅くんが今までないくらに怒り心頭してます。なんで敬語とか疑問はいいとです。



「三時間目……どこ行ってやがった」



 疑問符がついておりません、魔王様。



「屋上。美少女。語り。です」



 恐怖で単語しか言えません(※楽しんでいます)。

 それにしても珍しい。紅くんがここまで怒るとは。



「僕、何かしたかい?」



 そう言うと、魔王様は溜息をプレゼント。今ならリボンで包装までしてくれるようで、座っているイスの下から蹴られた。



「お前な。あんなに具合悪かって、その次の授業にサボってたらなんかあったかと思って心配するだろうが……」



 ああ、やはり紅くんは天使だ。僕の癒し。やけに怒っていると思ったら、それが理由だったんだね。でも大丈夫だよ。具合が悪いってわけじゃないから。むしろ同士と話して元気いっぱいだから。



「で。美少女って何だ。誰と語って?」

「小田桐さんと城之内先輩です、サー」

「サー言うな」



 そう言った後、紅くんの片眉がピクリと反応する。


「小田桐と城之内……」



 紅くん、先輩を呼び捨てはいけないよ。あ、でも、紅くんは生徒会で城之内先輩はそのファンクラブだからいいのかな。

 それにしても紅くん。いくら心配かけたとは言え、それほどまでの怒りがそれだけの理由じゃないよね。もしかしてこの女装もといイメチェンがそこまで嫌だったのかな。そうかそうか。そういや紅くん、これが理由で僕を殺そうと思っているんだっけ?

 でもやっぱり、それだけじゃないよなあ。それだけなら、ただ不機嫌なままで終わるし。


 …………ああ、簡単か。少し考えれば分かった。

 紅くんは僕に嫉妬しているわけだね?

 ヒロインである小田桐藍那と一緒にいたから!



「まあまあ紅くんや」

「なんだよ」

「女子に嫉妬しても意味ないだろう?」



 ぼっと湯気があがりそうなほど真っ赤になる。勿論僕じゃなくて紅くんだ。

 この様子だと図星だね。うんうん、早速紅くんを惚れさせたか。流石正統ヒロイン。イラつくけど根はいい子だしね。天使のように可愛くて癒しで優しくて純粋な紅くんは惚れてもおかしくない。でも紅くんを取られるのはちょっと嫌だから、今度小っちゃい嫌がらせしておこう。



「馬鹿言ってんじゃねえ……」

「ふふふふふ。いいんだよ、分かっているから」

「うっせ! 具合なんともねえなら座っとけ!」



 具合はいいよ。むしろ絶好調だよ。

 ああ、ヒロインといるのは女子でも嫉妬か。もし僕が男だったら、これ以上不機嫌になっていたんだろうな。俺以外見るなよ、的な意味で。でも実は嫉妬はその男(攻略対象の誰かか、または美形なら誰でも)にではなく、ヒロインに嫉妬していて。そう、その男と一緒にいるヒロインの方が嫌いなのだ。ああ、こうやって妄想していると現実になってくれる超能力ないかなあ。……スマンね、腐女子で。

 と、言うように妄想――いや、想像をしていたため、紅くんが何を言っていたのか聞いていなかった。



「自覚ありかよ……性質(たち)わりい」



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