試作(第八話)
ブラックドラグーンのコアが砕けた瞬間。
サイドは静かに笑った。
「見事だ、赤き龍」
次の瞬間。
内部エネルギーが暴走する。
「だが王は、敗北では終わらぬ」
爆光。
衝撃。
夜空を裂く黒い柱。
サイドは、爆散した。
地面が抉れ、建物の窓が一斉に割れる。
宇佐美は腕で顔を庇う。
レッドドラグーンの装甲が軋む。
爆風が止む。
そこに残ったのは、巨大なクレーターだけ。
勝った。
確かに勝った。
だが。
空が、割れた。
三つ。
亀裂が走る。
そこから、降り立つ影。
圧。
重力が増したかのような錯覚。
宇佐美の膝がわずかに沈む。
「……なんだよ、これ」
一人は氷のように冷たい気配。
一人は静かな狂気。
一人は、純粋な“破壊”。
並行世界の四天王。
残る三柱。
そのうちの一人が口を開く。
「サイドが消えたか」
「未熟な王だった」
「だが、データは回収済み」
宇佐美の背筋に寒気が走る。
レッドドラグーンを再展開しようとする。
だが――
動けない。
圧倒的な存在格差。
「……無理だろ、これ」
呼吸が浅くなる。
「勝てるわけ……」
その時。
背後から、声。
「なにやってんだよ……」
聞き覚えのある、少し呆れた声音。
宇佐美が振り返る。
そこに立っていたのは――
浅倉ひより。
でも、透けている。
幻影。
「ひより……?」
彼女は肩をすくめる。
「ホント変わってないね」
宇佐美が震える声で言う。
「お前、消えたはずだろ」
「うん、消えたよ」
あっさり言う。
「でもね、可能性は消えない」
四天王の一人が視線を向ける。
「干渉存在か」
ひよりは無視する。
宇佐美の前に歩み寄る。
「アンタはさ、いっつも一人で抱え込む」
胸を指でつつく。
「玉木の時も、宇佐美の今も」
宇佐美が目を逸らす。
「俺は……」
ひよりが言葉を遮る。
「勝てないって顔してる」
一瞬の沈黙。
そして、彼女は背後の空間に手を伸ばす。
光が収束する。
新たなデバイス。
三つのコアを持つ、三角形のシステム。
それを、宇佐美の手に押し付ける。
「デルタシステム」
四天王が僅かにざわめく。
「それは……」
ひよりが微笑む。
「オメガの上位互換じゃない」
「ブーストの強化版でもない」
宇佐美を見つめる。
「アンタ専用でもない」
デバイスが脈打つ。
「三つの世界の力を重ねるシステム」
宇佐美の瞳が揺れる。
「三つ……?」
「玉木の世界。
この世界。
そして、まだ来ていない世界」
ひよりの身体がさらに透ける。
「これが最後の干渉」
宇佐美が叫ぶ。
「待て!」
ひよりは優しく笑う。
「大丈夫」
空を見上げる。
四天王を一瞥。
「アンタは、絶望してからが強い」
消えかけながら、最後に言う。
「次は、一人じゃないよ」
光。
消滅。
宇佐美は、デルタシステムを握りしめる。
四天王の一人が冷笑する。
「新兵装か」
「無駄だ」
「格が違う」
宇佐美は、ゆっくり立ち上がる。
恐怖は消えていない。
だが、絶望も消えた。
「……デルタ」
デバイスを構える。
空気が震える。
三つのコアが発光する。
赤。
白。
蒼。
四天王が一歩退く。
「これは……」
宇佐美が低く言う。
「まだ試作だ」
笑う。
「だから壊れるかもな」
空が轟く。
デルタシステムが起動する。




