再会(第六話)
地下保管庫。
雨音。
崩れた壁。
宇佐美は膝をついていた。
ブーストの反動で視界が揺れる。
ジドバ幹部がゆっくり歩み寄る。
「やはり不完全だな。
玉木の再構築体では、オメガは安定しない」
幹部の手が上がる。
「ここで終わらせる」
その瞬間。
空間が、軋んだ。
まるで世界の継ぎ目が裂けるような音。
宇佐美も、美兎も、幹部も動きを止める。
白い光。
そこに立っていたのは――
少女。
長い髪が揺れる。
見覚えがある。
でも、ありえない。
「……栞?」
宇佐美の声が震える。
小瀬栞は、静かに微笑んだ。
「遅いよ、玉木」
その呼び方。
宇佐美の胸が締め付けられる。
「俺は……宇佐美だ」
「ううん」
栞は首を振る。
「あなたは、両方」
ジドバ幹部の目が細まる。
「存在誤差体……
消滅したはずの個体が、なぜここに」
栞は答えない。
代わりに、静かに言う。
「オメガ」
空気が凍る。
宇佐美のデバイスが、勝手に反応する。
発光。
だが、宇佐美は触れていない。
光が、栞の元へ移動する。
幹部の顔色が変わる。
「馬鹿な……!
オメガは選定式だ!
同時存在は――」
選ばれた。
栞が。
白い光に包まれる。
装甲が形成される。
宇佐美と同じシルエット。
同じデザイン。
同じ“オメガ”。
だが。
立ち姿が違う。
静かで、迷いがない。
「どうして……」
宇佐美が呟く。
栞は振り返らない。
「だって私、もうこの世界の住人じゃないから」
その声は、どこか遠い。
「一度消えた存在はね、
“外側”にいるの」
幹部が後退する。
「貴様……計画外だ」
栞はゆっくり歩く。
「あなたたちは、オメガを護衛用に作った」
幹部の瞳が揺れる。
「敵幹部を守るための、最終防衛形態」
一歩。
「でもオメガは、命令じゃ動かない」
二歩。
「“最も強い意志”を選ぶ」
幹部が叫ぶ。
「ならばなぜ貴様だ!」
栞が止まる。
振り向く。
ヘルメット越しの瞳が、強く光る。
「だって私は」
一瞬の静寂。
「あなたたちの世界を、
一度終わらせた人間だから」
次の瞬間。
消える。
音が遅れて届く。
幹部が吹き飛び、壁を突き破る。
圧倒的。
宇佐美が使ったオメガより、
明らかに完成度が高い。
幹部が立ち上がる前に、
栞の拳が胸部を貫く寸前で止まる。
「殺さない」
静かに言う。
「私は、あなたと違う」
そして蹴り飛ばす。
幹部は撤退。
空間の歪みが閉じる。
静寂。
オメガの装甲が消える。
栞の姿に戻る。
少し透けている。
宇佐美が立ち上がる。
「……どうして生きてる」
栞は、困ったように笑う。
「生きてないよ」
その言葉が重い。
「私は、可能性の残滓」
「じゃあ、なんで戻ってきた」
栞は、まっすぐ彼を見る。
「あなたが、また迷ったから」
一歩近づく。
「玉木」
宇佐美の呼吸が止まる。
「あなたは何度でも選べる」
指先が、彼の胸に触れる。
温かい。
「でも、私はもう選べない」
身体が、少しずつ透けていく。
「だから今度は、あなたが終わらせて」
宇佐美が叫ぶ。
「消えるな!」
栞は微笑む。
「Good Luck」
光。
そして、消える。
地下保管庫に残るのは、静寂。
宇佐美の拳が震える。
今、確信する。
オメガは兵器じゃない。
選ばれるのは――
“世界の外に立つ者”。
そして。
彼女は、まだどこかにいる。




