真実(第三話)
雨が降っていた。
Cicadaの地下保管庫。
極秘資料区画。
「……これ、本当に見ていいのか?」
宇佐美啓太郎は、端末の前で立ち止まる。
浅沼美兎が静かに答える。
「本当はダメ。
でも、あなたの適合値が異常なの。
“この世界の住人ではない可能性”って判定が出てる」
宇佐美は笑う。
「は? 俺、生まれも育ちも東京だけど?」
「戸籍上は、ね」
端末に表示される機密ログ。
――Project ORIGIN
――被験体:TAMAKI HAYATO
――状態:MISSING(行方不明)
宇佐美の視線が止まる。
「……玉木隼人?」
その名前は、知っている。
前作事件の中心人物。
覚醒病事案で最後に確認された後、消息不明。
死亡確認はされていない。
行方不明扱い。
「なんで俺にこのデータが紐付いてる?」
美兎は、画面を拡大する。
DNAパターン照合率。
99.98%
「……嘘だろ」
宇佐美の喉が乾く。
「偶然じゃない。
あなたの遺伝情報は、玉木隼人とほぼ一致してる」
「ほぼ、ってなんだよ」
「完全一致じゃない。
“再構築された痕跡”がある」
宇佐美の頭に、フラッシュが走る。
知らないはずの風景。
崩壊した街。
血に濡れたカード。
“ありがとう、玉木”
知らない声が、脳裏に響く。
「……っ」
膝をつく。
「啓太郎!?」
「俺は……」
呼吸が荒くなる。
記憶の奥底に、もう一つの名前。
玉木。
自分じゃないはずの自分。
その時、保管庫の奥から低い声がした。
「ようやく辿り着いたか」
振り向く。
そこに立っていたのは、
ジドバ族の幹部。
「オメガに選ばれる条件。
“この世界の住人ではないこと”」
宇佐美を見つめる。
「貴様は、この世界の宇佐美ではない。
玉木隼人――改変後の存在だ」
「……改変?」
「貴様は一度、世界をやり直している」
美兎が息を呑む。
「でも玉木は行方不明……!」
幹部は笑う。
「そうだ。消えたのだ。
この世界から“上書き”された」
画面に映る最終ログ。
――タイムリープ干渉
――個体再構築成功
――識別名変更:USAMI KEITARO
宇佐美の中で、何かが繋がる。
なぜか戦いに既視感があった。
なぜかカードの扱いを“知っていた”。
なぜかオメガに選ばれた。
「俺は……」
声が震える。
「玉木なのか?」
答えは、誰もくれない。
ただ、胸の奥に残る感情だけが確かだった。
誰かを守れなかった後悔。
失った世界。
消えていった少女の笑顔。
「……行方不明じゃない」
宇佐美はゆっくり立ち上がる。
「俺は、ここにいる」
ジドバ幹部が言う。
「それでも貴様は異物だ。
この世界の存在ではない」
宇佐美は静かに笑う。
「だからなんだ」
「この世界の住人じゃないなら、
守っちゃいけない理由にはならない」
宇佐美の瞳が強くなる。
「俺が誰でもいい」
雨音が強くなる。
「玉木でも、宇佐美でも――」
一歩、前へ。
「守るって決めたのは、俺だ」




