エピローグ 灯りの数
三年後。
王都は、さらに整っていた。
税は安定し、
事故は減り、
監査制度は精密になった。
国家は、完成に近づいている。
誰もが、そう言った。
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一方で、地方の人口は、ゆるやかに減っていた。
統計上は誤差。
報告書では「適正化」と記される。
異常ではない。
問題でもない。
ただ、広がらない。
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王都の執務室で、
クラウス・エーデルマンは一枚の報告を読む。
小さな領地での灌漑路拡張計画。
国の基準外。
自己責任。
失敗した場合の引受人、明記。
承認申請は、ない。
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「……許可は出していないな」
部下が言う。
「求められていない」
クラウスは答える。
違反ではない。
抜け道でもない。
ただ、
**制度の外側**にある。
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その報告書の端に、
見覚えのある書式があった。
失敗の想定。
判断の経緯。
責任の所在。
かつて、読んだ形式。
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「まだ、残っているか」
誰に向けた言葉でもない。
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リューン領。
レオンは、畑の脇に立っていた。
新しい水路が、静かに流れている。
設計は荒い。
完璧ではない。
だが、
決めた人間がいる。
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「今年は、少し広げすぎました」
若い農夫が、苦笑する。
「なら、来年は抑えろ」
レオンは言う。
それだけだ。
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夕暮れ。
丘の上から見ると、
遠くにいくつかの灯りが見える。
大きくはない。
だが、
一つではない。
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「増えましたね」
エマが言う。
「数えたことはない」
レオンは答える。
「数えると、
守りたくなる」
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風が吹く。
遠く、王都の方向にも、
光はある。
あれもまた、
一つの形だ。
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国は変わらない。
だが、
国の外で決める人間は、
少しずつ増えている。
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失敗は、消えない。
責任も、消えない。
それでも、
誰かが引き受ける限り、
灯りは消えない。
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夜空の下。
静かに、灯りの数だけ、
世界は続いていく。




