第35話 顧問の役目
辞令は、朝一番で届いた。
> 王国改革顧問 レオン・アルヴェルト
> 今後の職務について通知する。
文面は、柔らかい。
だが、内容は明確だった。
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・改革関連会議への常時出席義務を解除
・制度設計に関する発言は、要請時のみ
・今後は「助言・記録・調整」を主業務とする
降格ではない。
解任でもない。
**役割の再定義**だった。
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「……終わりましたね」
エマが、静かに言う。
「ああ」
レオンは、紙を畳む。
「想定通りだ」
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昼の会議。
レオンの席は、後方に移されていた。
名前は呼ばれない。
発言も求められない。
彼がいなくても、
議事は問題なく進む。
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「改革達成度、前月比さらに向上」
「事故後の対応も迅速」
議長の声は、満足げだった。
**もう、異論は不要だ。**
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会議後。
クラウスが、廊下で声をかけてきた。
「……正式に決まった」
「そうか」
レオンは、立ち止まらない。
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「あなたの理論は、間違っていない」
クラウスは言う。
「だが、国には早すぎた」
その言葉は、
慰めの形をしていた。
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「いいや」
レオンは答える。
「**国には、使えなかった**だけだ」
クラウスは、苦く笑った。
「同じことだ」
「違う」
レオンは、足を止める。
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「早いか遅いかは、時間の問題だ」
「だが、使えるかどうかは、構造の問題だ」
「国は、
失敗を引き受けられない」
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「だから」
クラウスは、低い声で言う。
「あなたが、引き受けることになった」
レオンは、否定しなかった。
それが、
この人事の本質だ。
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その夜。
非公式な会合に、
レオンは呼ばれなかった。
代わりに、
若い官僚が一人、訪ねてきた。
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「……失礼します」
彼は、緊張した面持ちだった。
「水路事故の件で」
「何だ」
「現地から、追加報告が」
「公的なものか」
「いえ」
彼は、封を差し出す。
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> もう、話し合いはしません。
> 決めても、責められるだけですから。
短い文だった。
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「……これは」
若い官僚が言葉を探す。
「記録に、残りません」
「だろうな」
レオンは、封を返した。
「残せば、
“不適切な感情”になる」
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「では、どうすれば」
若い官僚が問う。
レオンは、少し考えた。
「国の中では、どうにもならない」
「……」
「だが、外なら」
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若い官僚は、
それ以上聞かなかった。
聞かないことも、
学習の一つだ。
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数日後。
公式発表が出る。
> 改革顧問制度の再編について
> 専門性を活かした役割分担を行う。
名前は出ない。
だが、
**象徴だけが消えた**。
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エマが、ぽつりと言う。
「……責任、全部押し付けられましたね」
「いや」
レオンは、首を振る。
「**責任を引き受ける人間が、
必要なくなった**」
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荷物をまとめる。
王都での生活は、
静かに終わろうとしていた。
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最後に、
クラウスから短い書簡が届く。
> 正しいことをしたと思う。
> それでも、私は国を選ぶ。
レオンは、返事を書かなかった。
返す言葉がないわけではない。
**返しても、届かない**からだ。
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馬車に乗り込む前。
レオンは、
王都を一度だけ振り返った。
整った街並み。
静かな秩序。
完成した国。
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「……これでいい」
誰に向けた言葉でもない。
自分自身への、
区切りだった。
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馬車が、動き出す。
顧問の役目は、
終わった。
**国に必要なのは、
もう彼ではなかった。**
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