第30話 静かに、世界が縮む
崩壊は、報告書の外で始まった。
いや、
報告されなくなったところで始まった。
王都に集まる数字は、相変わらず美しい。
「税収、前年同月比プラス三%」
「治安指数、改善」
「未納率、最低水準」
会議室には、満足が漂う。
誰も疑わない。
疑う理由が、ない。
だが、別の報告が減っていた。
・新規事業の提案
・新しい組合の申請
・制度外の試み
提出自体が、消えた。
レオンは、非公式に現地を回っていた。
今回は、三年前まで活気があった地方都市。
かつての工房街。
店は、開いている。
だが、作っているものは同じだ。
「……新作は?」
レオンが、職人に聞く。
「ありません」
「作らないのか」
「……必要ないでしょう」
その言葉は、諦めではない。
学習の結果だった。
酒場。
若者はいる。
だが、話題が違う。
「中央の監査、厳しいらしい」
「順位、下がると面倒だぞ」
「無難にやっとけ」
夢の話が、消えていた。
農村。
畑は整っている。
放棄もない。
だが、拡張がない。
「去年と同じだけ」
「今年も、同じでいい」
未来への余白が、削られていた。
レオンは、帳簿を見ない。
見る必要がなかった。
数字は、死にかけの心臓でも打つ。
王都に戻る。
クラウスが、疲れた顔で迎えた。
「……各地で、人が減っています」
「反乱か」
「いいえ」
クラウスは、首を振る。
「移動です」
移動は、合法だった。
離脱自由は、守られている。
だが、行き先は同じだ。
・中央直轄地
・国外
・“何もしなくていい場所”
「……国家は、安定しています」
クラウスは言う。
「ええ」
レオンは答えた。
「だから——」
「地方が、
国家に“吸われている”」
クラウスは、言葉を失った。
会議。
議長が言う。
「人口集中は、
効率化の証です」
「管理もしやすい」
誰も、反論しない。
正しいからだ。
レオンは、立ち上がらなかった。
もう、言葉が届かないことを
理解していた。
その夜。
エマが、低く言う。
「……このままだと」
「分かっている」
レオンは、遮る。
「誰も、間違えなくなる」
間違えない世界は、
挑戦しない世界だ。
挑戦しない世界は、
縮む。
王都の地図。
色分けされた領地。
中央は、濃く。
周縁は、薄く。
国家は、完成に向かっていた。
だが、完成したものは、
あとは——
壊れるだけだ。
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