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国に使われた内政チートが、静かに捨てられるまで ~成功例を真似したら国が動かなくなった話~  作者: レオン・クラフト


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第29話 調整という名の締め付け

 違和感は、報告書の端にしか現れなかった。


 数値は良好。

 達成率も高い。

 改革は——成功している。


 それでも、レオンの報告は残った。


現場の活力低下を確認。

将来的な停滞の恐れあり。


 それは、警告というより、

 注釈に近い扱いだった。


「……調整で対応しましょう」

 議長が言った。


 誰も、異論を唱えない。


 国家は、

 違和感を“異常値”として処理する。


調整案(第三次通達)


・合議の決定期限を短縮

・未達成地域への重点監査

・監査官の権限強化

・改革達成度ランキングの公表


 すべて、合理的だ。


 すべて——

 正しい。


 クラウスが、静かに言う。

「……数字は、もっと安定します」

「ええ」

 レオンは答えた。

「その代わり——」


「地方は、

 “安全に従う”ことを学びます」


 その言葉は、

 議事録には残らなかった。


 通達は、即日施行された。


 期限は、力だ。

 ランキングは、圧だ。


 誰も怒鳴らない。

 誰も反乱しない。


 ただ、慎重になる。


 現地報告。


「新規事業申請、前年比マイナス三十%」

「合議の議題数、減少」

「監査官への事前相談が急増」


 相談が増えた。


 それは、一見良い兆候だ。


 だが——

 判断が、外に出ている。


 レオンは、現場を回った。


 今度は、模範地区ではない。

 中間層の地域だ。


 小さな町。


 役場の会議室で、

 合議が行われている。


「……期限です」

 監査官が、穏やかに言う。

「決まらない場合、

 中央基準で処理します」


 誰も反論しない。


 それは、助言ではない。

 結論だ。


 会議後。


 町の代表が、レオンに小声で言う。


「……決めなくて、助かりました」

「助かった?」

「ええ。

 責任を負わずに済みましたから」


 その言葉に、

 レオンは返せなかった。


 市場。


 掲示板には、

 改革達成度ランキングが貼られている。


 順位は、下の方。


 誰も見ていない。


 見ないふりをしている。


「……どうして、挑戦しない」

 レオンが、若者に聞く。


「失敗したら、

 順位が下がりますから」


 答えは、明快だった。


 王都に戻る。


 クラウスが、疲れた声で言う。


「……管理は、完璧です」

「ええ」

 レオンは頷く。

「だから——」


「地方は、

 管理されることに慣れています」


 次の会議。


 議長が、満足げに言う。


「改革達成率、過去最高です」

「地方の安定度も向上」


 拍手が起きる。


 レオンは、手を叩かなかった。


「異論は」

 議長が問う。


 沈黙。


 異論は、制度上存在しない。


 レオンは、ゆっくり立ち上がった。


「……この調整は、

 短期的には正しい」


 会場が、こちらを見る。


「ですが」

 一拍置く。

「人を、弱くします」


 ざわめき。


「判断しないことに、

 慣れさせている」

「責任を、外に預ける癖を

 つけています」


 それは、制度批判ではない。

 文明批判だった。


 議長が、穏やかに言う。


「理想論です」

「承知しています」

 レオンは答えた。

「だから、

 国家では使えない」


 その言葉で、

 空気が決定的に変わった。


 会議後。


 エマが、低く言う。

「……孤立しましたね」

「ええ」

 レオンは、淡々と答える。

「ここから先は、

 負け筋だ」


 夜。


 王都の灯りは、

 以前よりも明るい。


 秩序が、

 磨き上げられている。


 だが——

 熱がない。


 レオンは、静かに確信した。


「……これは、

 壊れる前の完成形だ」

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