第21話 助けてほしい、という依頼
王都の宿は、静かだった。
豪奢ではない。
だが、必要なものは揃っている。
セルジュ・バルフォードは、その一室で待っていた。
扉を叩く音がして、開く。
「……久しぶりだな」
レオンは、そう言った。
「……はい」
セルジュは、立ち上がらなかった。
立つ理由が、もうなかったからだ。
「状況は、聞いている」
レオンは椅子に座る。
「……でしょうね」
短い沈黙。
セルジュは、先に口を開いた。
「助けてください」
飾りのない言葉だった。
「制度でも、名前でもいい。
もう一度、立て直したい」
それは、かつてレオンが
誰からも言われなかった言葉だった。
レオンは、すぐに答えなかった。
窓の外を見て、
人の流れを確かめる。
「……一つ、聞く」
「何でしょう」
「今、あの領地で、誰が決めている」
セルジュは、俯いた。
「……監督官です」
「違う」
「……王都です」
「違う」
レオンは、はっきり言った。
「誰も決めていない」
セルジュの指が、震えた。
「決断は、制度じゃない」
レオンは続ける。
「引き受ける人間だ」
「分かっています」
セルジュは、声を絞り出す。
「だから、あなたに——」
「俺が行っても、同じだ」
レオンは、遮った。
それは、拒絶だった。
「俺が行けば、
“リューン式”の看板が立つ」
「皆、従うだろう」
「だが——」
レオンは、セルジュを見た。
「それは、あんたの領地じゃなくなる」
セルジュは、目を閉じた。
しばらくして、呟いた。
「……正解を知っている人間が、
現場にいれば、うまくいくと思っていました」
「正解は、知識じゃない」
レオンは静かに言った。
「背負う覚悟だ」
沈黙。
それは、慰めではなかった。
判決に近い。
「……では」
セルジュは、声を振り絞る。
「私は、どうすればよかった」
レオンは、少しだけ考えた。
そして、答えた。
「最初の会議で」
「?」
「決めるべきだった」
「誰かが、恨まれるとしても」
セルジュは、うなだれた。
その一言で、
すべてを理解してしまった。
外が、少し明るくなっている。
夜明けだ。
「……ありがとう」
セルジュは、そう言った。
「礼を言われることは、していない」
「それでも」
セルジュは、立ち上がった。
「失敗を、失敗だと
言ってくれたのは、あなたが初めてです」
レオンは、何も言わなかった。
別れ際。
セルジュは、最後に聞いた。
「……もし」
「?」
「あなたなら、
同じ立場で、やり直せますか」
レオンは、答えなかった。
代わりに、こう言った。
「二度目は、ない」
それが、真実だった。
セルジュは、王都に残る。
役職は、与えられない。
だが、追放もされない。
失敗例として、生きる。
それが、国家の判断だった。
リューン領に戻る馬車の中で、
エマが言った。
「……冷たすぎませんか」
「冷たい」
レオンは、認めた。
「だが、救えば——」
言葉を切る。
「次も、同じ失敗が起きる」
その夜。
レオンのもとに、
新しい依頼が届いた。
今度は、一通ではない。
五通。
十通。
内容は、同じだ。
我が領地でも、
リューン式改革を。
レオンは、深く息を吐いた。
「……止まらないな」
「ええ」
エマが答える。
「世界が、動き始めています」
レオンは、手紙を束ねて机に置いた。
これは、もう一領地の問題ではない。
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