第20話 崩壊は、静かに始まる
中央管理下に置かれた翌日、街は驚くほど静かだった。
兵は来た。
役人も増えた。
だが、怒号も暴動もない。
壊れる時、街は騒がない。
掲示板が、書き換えられた。
税の公開は続く。
合議制も、形式上は残る。
だが、その下に新しい一文が加わった。
最終判断は、王国監督官が行う
それを見た住民は、ただ頷いた。
「……そうなるよな」
「結局、こうなる」
失望ではない。
確認だった。
倉庫の火事の後、夜の見回りが増えた。
兵士は真面目だった。
暴力も振るわない。
だが——
顔が違う。
「誰だ?」
「通行証を」
それだけで、人は距離を取る。
街は、少しずつ“自分の場所”ではなくなっていった。
セルジュは、役所の奥に座っていた。
肩書きは、まだ「領主」だ。
だが、決裁権はない。
「……これで、秩序は戻る」
監督官は言った。
セルジュは、答えなかった。
秩序は戻る。
だが——
信用は、戻らない。
市場。
商人の数が減っていた。
「税が重いわけじゃない」
「危ないわけでもない」
「……ただ、分からない」
何が、誰の判断なのか。
それが見えない場所で、人は商売をしない。
農村では、畑が減った。
収穫が悪いわけではない。
だが、人が減った。
「今年は、これくらいでいい」
そう言って、広げるのをやめる。
未来への投資が、止まった。
数字は、安定した。
未納率:48% → 30%
帳簿は、綺麗だ。
だが——
意味がない。
払われている税は、恐怖と諦めの産物だった。
セルジュは、街を歩いた。
挨拶は返ってくる。
だが、目は合わない。
以前は、違った。
不満があっても、話しかけてきた。
今は——来ない。
夜。
彼は、最後の視察報告を書いた。
秩序は回復しました。
だが、活力は戻りません。
誰に向けた文書か、分からない。
その頃。
リューン領では、同じ報告があった。
「……模倣領地の税収は安定」
「住民流出が続いています」
レオンは、静かに聞いていた。
「数字は、嘘をつかない」
エマが言う。
「だが、真実も言わない」
レオンは、頷いた。
セルジュは、王都へ呼ばれた。
理由は、簡単だ。
責任の所在を、明確にするため。
彼は、抵抗しなかった。
それが、最後の役目だった。
馬車が去る朝。
街は、静かだった。
誰も、見送らない。
誰も、罵らない。
それが、答えだった。
リューン領の地図の隣に、
もう一つの印が付けられた。
赤ではない。
灰色だ。
回ってはいるが、生きていない領地。




