第18話 税は公開されたが、信用は消えた
数字は、正しかった。
セルジュ・バルフォードの机の上に並ぶ帳簿は、どれも整っている。
税収は予定通り。
支出も明確。
不正はない。
「……問題ありません」
監査役はそう言った。
セルジュは、頷いた。
数字が合っている。
それなのに——
街では、別の計算が行われていた。
「……これ、去年より取られてないか」
「いや、同じだ」
「でも、前はこんなに細かくなかった」
掲示板の前で、人々は指を差す。
修繕費。
役人給金。
中央納付。
「中央に、こんなに行ってたのか」
「知らなかっただけだろ」
「知らなかった方が、よかったんじゃないか」
声は、低い。
怒号ではない。
不信の音だ。
酒場では、別の話が流れていた。
「公開って言ってるがさ」
「俺たちを信じてないから、出したんだろ」
「いや、逆じゃないか?」
「逆なら、説明が先だろ」
誰も、声を荒げない。
だが、誰も納得していない。
セルジュの改革は、
問いを投げたが、答えを用意していなかった。
数日後。
納税率が、上がった。
未納率:42% → 35%
「……下がっています」
執務官が報告する。
「一時的だ」
セルジュは即答した。
数字が動いた理由を、彼は理解していた。
「怖いから、払っているだけだ」
公開された数字は、
監視の目として受け取られていた。
翌週。
嘆願書が届き始めた。
「中央納付が多すぎる」
「この修繕、本当に必要か」
「役人の給金、高くないか」
一つ一つは、もっともだ。
だが、総体として——
攻撃だった。
「……説明会を開こう」
セルジュは言った。
ようやく、説明を始める。
集会。
セルジュは、必死に話した。
「これは、透明性のためで——」
「誰に対してだ」
「俺たちか? 中央か?」
「結局、どっちだ」
質問は、鋭い。
セルジュは、答えに詰まる。
どちらでもない。
だが、どちらでもある。
それを、彼は言語化できなかった。
「……信じてほしい」
最後に、そう言った。
その瞬間、空気が死んだ。
信じてほしい、という言葉は、
信用がない時にしか使われない。
翌日。
未納率が、跳ね上がった。
35% → 48%
帳簿が、悲鳴を上げる。
「……急すぎます」
執務官が言う。
「怒っているんじゃない」
セルジュは答えた。
「……諦めている」
人は、怒るうちは残る。
諦めた瞬間、去る。
離脱届が、静かに増えた。
書式は整っている。
理由欄は、空白。
それが、一番重かった。
夜。
セルジュは、一人で帳簿を閉じた。
数字は、嘘をつかない。
だが——
数字は、信じてくれない。
彼は、初めて理解する。
リューン領で起きていたことは、
制度の成功ではなかった。
人が、人を信じるまで待った結果だったのだと。
机の上に、一通の返書が置かれている。
レオンからのものだ。
数字は、遅れてついてくる。
先に来るのは、感情だ。
今は、何もしない方がいい。
セルジュは、その紙を握りしめた。
だが、もう——
何もしない時間は残っていなかった。
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