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国に使われた内政チートが、静かに捨てられるまで ~成功例を真似したら国が動かなくなった話~  作者: レオン・クラフト


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第17話 正解をなぞるという決意

 セルジュ・バルフォードは、その文書を何度も読み返していた。


 王国公報。

 成功事例。

 辺境伯爵領リューン。


「……これだ」


 呟いた声は、小さかったが、確信に満ちていた。


 彼の領地は、悪くない。

 飢えてはいない。

 だが、良くもならない。


 税は集まる。

 不満も、集まる。

 それを処理するだけの日々。


 変えなければならない——

 そう思い続けてきた。


「領主様、本当にやるんですか」

 執務官が、慎重に言った。


「やる」

 セルジュは即答した。

「成功事例がある以上、理由は十分だ」


 彼は、若い。

 だが、軽率ではないつもりだった。


「税の使途を公開する」

「合議制を導入する」

「離脱の自由も、認める」


 一つ一つ、声に出して確認する。


「……問題はありません」

 執務官はそう言った。

「ただ」


 言葉が止まる。


「何だ」

「……説明には、時間がかかります」


 セルジュは、少し考えた。


「説明は、後でいい」

「え?」

「まず、形を示す」


 正しさは、見せれば伝わる。

 そう、信じていた。


 掲示板が立てられた。


 税収と支出が、細かく書かれている。


 住民たちは、集まった。

 だが、リューンの時と違い——

 誰も、黙ってはいなかった。


「なんで、こんなことを書くんだ」

「俺たちを疑ってるのか」

「見張られてる気分だ」


 ざわめきは、すぐに不満に変わった。


 セルジュは、戸惑った。


「……透明性のためだ」

「透明って、誰に対してだ」

「中央か?」


 その一言で、空気が変わる。


 セルジュは、否定しようとして言葉を失った。


 否定する材料が、なかった。


「合議制を始める」

 次の施策も、すぐに打ち出した。


 代表を集め、会議を開く。


「皆で決めよう」

 セルジュは、そう言った。


 だが——

 誰も、決めようとしなかった。


「領主様が、決めればいい」

「俺たちは、従う」


 それは、好意だった。


 だが、セルジュには分からなかった。


「……それでは意味がない」

「意味って何だ」


 返された言葉に、詰まる。


 正しいから——

 それ以上の説明を、彼は持っていなかった。


 夜。


 セルジュは、机に向かっていた。


 リューン領の報告書を、もう一度読む。


 だが、そこにあるのは——

 結果だけだ。


 過程がない。

 迷いがない。

 失敗がない。


「……どうしてだ」


 彼は、気づかない。


 それが「切り取られた結果」だということに。


 翌日。


 合議は、再び開かれた。


 決まらない。

 誰も、責任を取りたがらない。


 セルジュは、ついに言った。


「……では、今日は解散しよう」

「次は?」

「……考える」


 その瞬間。


 決断の空白が、生まれた。


 その夜、雨が降った。


 強くはない。

 だが、続いた。


 セルジュは、窓の外を見ながら思った。


「……間に合うだろう」


 その言葉は、

 根拠のない希望だった。


 数日後。


 報告が入る。


「用水路が、崩れました」

「……どこだ」

「合議で話していた場所です」


 セルジュは、椅子に座ったまま動けなかった。


 誰も、悪くない。

 誰も、決めなかった。


 それが、原因だった。


 夜。


 セルジュは、初めて理解した。


 正解をなぞるだけでは、足りない。


 だが、遅かった。


 住民の視線は、もう冷たい。


 彼は、震える手で、次の文書を書く。


辺境伯爵領リューン

レオン・アルヴェルト殿


——助けてください。


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