表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
国に使われた内政チートが、静かに捨てられるまで ~成功例を真似したら国が動かなくなった話~  作者: レオン・クラフト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/33

第16話 成功事例として、切り取られる

 王国からの公文書は、予告なく届いた。


 赤い封蝋。

 形式ばった文面。

 だが内容は、拍子抜けするほど簡潔だった。


辺境伯爵領リューンにおける行政改革は、

王国における成功事例として認定される。


 レオンは、その一文を二度読んだ。


 そして、ゆっくりと息を吐いた。


「……一番、困るやつだな」


 執務室にいたエマが顔を上げる。

「成功、ですから?」

「“成功”と書かれた時点で、もう違う」


 エマは黙った。

 彼女も、何が起きるか分かっている。


 数日後。


 王都から追加資料が届いた。


 行政改革要点抜粋


・税収・支出の全面公開

・住民合議による意思決定

・離脱自由の保証


 三行だけだった。


 レオンは、机に資料を置いたまま、動かなかった。


「……これだけ?」

 ガルドが言った。


「ああ」

「人は?」

「書いてない」

「責任は?」

「触れてない」


 ミラが、不安そうに言った。

「……これ、誰でもできるみたいに見えます」


 レオンは、はっきり答えた。

「そう見えるように、作ってる」


 翌週。


 最初の反応は、賞賛だった。


「さすがリューン領だ」

「やればできるじゃないか」

「これからは、どこも同じように良くなる」


 王都の噂話は、いつも軽い。


 だが、その軽さが——

 世界を動かす。


 レオンのもとに、一通の手紙が届いた。


 見慣れない紋章。

 だが、文字は丁寧だった。


拝啓

私は、セルジュ・バルフォードと申します。

貴殿の改革に、深く感銘を受けました。


我が領地でも、同様の改革を行いたく存じます。

ご助言を頂ければ幸いです。


 レオンは、手紙を閉じた。


 エマが聞く。

「……どうします」

「行かない」

「返事は」

「書く」


 返事は、短かった。


制度だけを導入しても、

同じ結果にはなりません。

それでも行うなら、止めません。


 それ以上は、書かなかった。


 数日後。


 王国公報に、新しい記事が載った。


中部バルフォード領において、

リューン式行政改革を試験導入


 レオンは、その紙面を見て、目を閉じた。


「……早すぎる」

 ミラが言った。


「止められない」

 レオンは答えた。


 成功は、止まらない。

 失敗も、止まらない。


 夜。


 レオンは、帳簿を開いていた。


 だが、数字はもう見ていない。


 彼が見ているのは——

 自分の名前が、制度の一部になっていく感覚だった。


「……奪われるな」

 エマが言った。


「もう、始まってる」

 レオンは静かに答えた。


 制度が、思想に変わる瞬間。

 思想が、誤解される瞬間。


 そのすべてが、今だ。


 翌朝。


 ミラが、ぽつりと言った。

「……失敗したら、リューンのせいになりますよね」


 レオンは、否定しなかった。


「なるだろうな」

「……怖いですね」

「だから、目を逸らさない」


 レオンは立ち上がった。


「世界が勝手に動くなら」

 そう言って、窓の外を見る。

「どこで、壊れるかを見届ける」


 それが、次の役目だった。


 王国の地図の上で、

 一つの領地に印が付けられた。


 それは、始まりの印だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ