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国に使われた内政チートが、静かに捨てられるまで ~成功例を真似したら国が動かなくなった話~  作者: レオン・クラフト


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第14話 去る自由を、守るという逆行

 離脱対応指針の草案は、すぐに噂になった。


「去る人間を、守る?」

「意味が分からない」

「裏切り者だろ」


 声は、小さくない。


 レオンは、それを止めなかった。


 止めれば、思想になる。

 流せば、空気になる。


 今は——空気にさせる段階だ。


 正式な告知は、三日後に出された。


 離脱対応指針(暫定)


・正規手続きを踏んだ離脱は妨げない

・未納分は分割精算を認める

・技能・資格の証明を発行する

・離脱者への誹謗中傷は禁止


 最後の一行が、最も読まれた。


「……甘すぎる」

 ガルドが言った。

「そうだ」

 レオンは即答した。


 甘い。


 だが、必要な甘さだ。


 集会が開かれた。


 今度は、怒号に近い。


「なんで、出ていく奴を助けるんだ」

「残る俺たちが、馬鹿みたいじゃないか」


 レオンは、壇上に立った。


「去る人間を守るためじゃない」

 静かな声だった。

「残る人間を、守るためだ」


 ざわめき。


「出ていくことが“裏切り”になる場所は、長く持たない」

「縛られた信用は、必ず腐る」


 それは、過去への警告でもあった。


 ミラが、手を挙げた。


 少しだけ、勇気が要る仕草。


「……もし、弟が帰らなかったら」

「うん」

「私、責めないでいられると思います」


 彼女は、住民を見回した。


「でも……もし、帰れなくなったら」

「ここが、戻れない場所になったら」


 沈黙。


 誰も、それを否定できなかった。


「去る自由があるから、残る選択に意味が出る」

 レオンは続ける。

「逃げ道のない責任は、ただの強制だ」


 正しさの矛先が、

 住民自身に向けられる。


 それは、居心地が悪い。


 告知から一週間後。


 離脱者は、二人。


 予想より少ない。


 しかも、両方とも——

 静かに戻ってきた。


「……仕事の区切りがついただけだ」

「また、戻ってもいいか」


 誰も、責めなかった。


 責められなかったからだ。


 未納率は、動かなかった。


 31% → 31%


 だが、エマは言った。

「空気が……変わっています」

「どういう」

「払わない理由が、怒りじゃなくなった」


 それは、重要な変化だった。


 夜。


 ガルドが、酒を持ってきた。


「……分からん」

「何が」

「強くするために、弱くする」

「共同体は、いつもそうだ」


 レオンは窓の外を見る。


 灯りは減っていない。

 だが、騒がしくもない。


 落ち着いている。


「嫌われると思ってた」

 ガルドが言う。

「嫌われている」

「それでも、壊れてない」

「だから、成功だ」


 レオンは、はっきり言った。


 ミラが、帰り際に言った。


「……ここ、重いです」

「そうだな」

「でも」

 彼女は少しだけ笑った。

「戻れる場所なら、いいと思います」


 それが、この回の答えだった。


 帳簿に、新しい項目が加えられる。


 再流入者数:2


 小さい数字。

 だが、意味は大きい。


 この領地は、

 閉じなかった。


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