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国に使われた内政チートが、静かに捨てられるまで ~成功例を真似したら国が動かなくなった話~  作者: レオン・クラフト


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第12話 正しい決断は、必ず誰かを置き去りにする

 期限は、三日と決められた。


 合議体に与えられた猶予としては短い。

 だが、これ以上引き延ばせば、同じことが起きる。


 議題は一つ。

 崩れた用水路を、今すぐ直すかどうか。


 費用は明確だった。

 負担も、明確だった。


 問題は——覚悟だけだった。


 三日目の夕方。


 会議室の空気は、重かった。


「……結論は出ない」

 ガルドが低く言った。


 誰も反論しない。


 農家は修復を望む。

 商人は今の出費を恐れる。

 職人は仕事として必要性を訴える。

 若者は将来を理由に黙る。


 全員が、正しい。


「期限だ」

 ガルドは立ち上がった。

「俺が、決める」


 その瞬間、何人かが目を伏せた。


「修復する」

 短い言葉だった。


 理由は、説明された。

 今年を捨てれば、来年もない。

 ここで直さなければ、人は戻らない。


 論理は、通っている。


 だからこそ——

 反論は、感情になる。


「……じゃあ、俺たちはどうする」

 商人の一人が言った。

「今年は、耐えろってことか」


「そうだ」

 ガルドは否定しなかった。

「耐えろ」


 空気が、凍りつく。


 その言葉は、正しい。

 だが、冷たい。


「代表が決めるって、こういうことか」

 別の声が言った。


 ガルドは、黙って受け止めた。


 それが、役目だ。


 工事は、翌日から始まった。


 早かった。

 決断が、現実を動かす速度は、いつも速い。


 被害は最小限で済んだ。

 畑も、今年を捨てずに済んだ。


 数字だけ見れば、成功だった。


 だが。


 酒場では、不満が溜まっていた。


「結局、決めるのはあの人たちだ」

「話し合いなんて、形だけじゃないか」

「耐えろ、だと?」


 誰かが言った。

「……前と、何が違う」


 その言葉は、鋭かった。


 ミラは、その場にいなかった。


 彼女は、畑で土を見ていた。


「……直って、よかった」

 そう呟いた後、視線を落とす。


「でも……」


 言葉は、続かなかった。


 彼女は理解している。

 だが、納得はしていない。


 それが、普通だ。


 夜。


 エマが、帳簿を持ってきた。


「用水路修復、完了」

「被害は?」

「最小限です。……成功ですね」


 レオンは頷いた。

「数字上は」


 エマは、少しだけ躊躇ってから言った。

「不満が出ています」

「知っている」


「……合議制の意味が、問われています」

「だからこそ、続ける」


 レオンは立ち上がった。


「一度で納得される制度はない」

「傷つかない決断も、ない」


 エマは、何も言えなかった。


 翌朝。


 ガルドが、領主館を訪れた。


 疲れている。

 だが、逃げてはいない。


「……恨まれてる」

「分かっている」


「だが」

 ガルドは続ける。

「前より、皆が考えてる」


 それが、救いだった。


「この役、いつまでやる」

「続けられる限りだ」

「……簡単に言うな」


 ガルドは苦笑した。


 レオンは、誓約書の横に、新しい紙を置いた。


 代表決断規定(暫定)


・合議は必須

・期限を超えた場合、代表が決断

・決断理由は必ず公開


 理由を、残す。


 それは、

 未来の反発を、未来の理解に変えるためだ。


 夜。


 掲示板に、修復決定の理由が貼り出された。


 反発は、消えない。

 だが、言葉は残った。


 レオンは思う。


 良い内政とは、恨まれながら続くものだ。


 誰も傷つかない決断など、存在しない。


 第12話は、

 「正しい決断は、人を救うが、人を遠ざける」

 という現実を、全員が引き受けた回だった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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