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国に使われた内政チートが、静かに捨てられるまで ~成功例を真似したら国が動かなくなった話~  作者: レオン・クラフト


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第11話 決まらないという、最も高い代償

 最初の合議は、領主館の会議室で開かれた。


 参加者は八名。

 農家代表、商人代表、職人代表、若者代表、そしてガルド。


 レオンは、端の席に座った。

 中央にはいない。


 それだけで、空気はいつもと違っていた。


「……では、始めよう」

 ガルドが口火を切る。

「議題は、用水路の補修だ」


 紙が配られる。

 工期、費用、負担割合。


 数字は明確だった。


「急がないと、次の植え付けに間に合わない」

 農家の男が言う。


「だが、今年は売上が不安定だ」

 商人が返す。

「今、金を出すのは厳しい」


「去年も、同じことを言ってた」

 職人が眉をひそめる。


 空気が、少しだけ尖る。


「……順番に話そう」

 ガルドが制する。


 だが、話はまとまらない。


 誰も反対していない。

 誰も賛成していない。


 全員が、“正しいこと”を言っている。


 一刻ほどで、疲れが見え始めた。


「結局、どうするんだ」

 若者代表が苛立つ。

「やるのか、やらないのか」


 農家が答える。

「やりたい」

「金がない」

「来年じゃ遅い」

「今は無理だ」


 同じ言葉が、回る。


 レオンは、口を挟まなかった。


 これは、想定内だ。


 合議制は、

 決断を先延ばしにする装置にもなる。


 昼を過ぎても、結論は出なかった。


「……今日はここまでにするか」

 ガルドが言う。


 誰も反対しなかった。

 誰も、納得もしていなかった。


 会議室を出ると、エマが待っていた。


「どうでした?」

「……決まらなかった」

「想定通りですか」

「想定より、少し遅い」


 その夜。


 雨が降った。


 静かに、だが確実に。


 翌朝。


 エマが駆け込んできた。


「用水路が、崩れました」

「……どこだ」

「下流です。昨日、話していた場所」


 レオンは、言葉を失った。


 現場では、泥水が畑に流れ込んでいた。

 被害は大きくない。

 だが、確実に「今年」を削る。


「……昨日、決めていれば」

 誰かが呟いた。


 だが、それは言わなかった言葉だ。


 誰も、決断しなかった。

 それが、合議の結果だった。


 その夜、再び集会が開かれた。


「誰の責任だ」

「合議だろ」

「でも、決めたのは——」


 言葉が、止まる。


 責任の所在が、曖昧だった。


 ガルドが前に出る。

「俺たちだ」


 ざわめき。


「決めなかった、俺たちの責任だ」


 沈黙が落ちる。


 誰もが、理解していた。

 だが、受け入れるのは重い。


 ミラが、レオンの横に立った。


「……私、言いました」

「何を」

「一緒に決めるって」


 彼女の声は震えていた。


「でも……決められなかった」


 それは、後悔だった。


「……弟、来なくてよかった」

 小さな声。

「今だったら、責めてしまう」


 レオンは、何も言えなかった。


 これは、必要な痛みだ。

 だが、軽減はできる。


 レオンは、一歩前に出た。


「合議は、失敗した」

 はっきりと言った。


 どよめき。


「だが、やめない」

「じゃあ、どうする」

「期限を決める」


 視線が集まる。


「話し合いには、期限を設ける」

「期限までに結論が出なければ——」


 レオンは、ガルドを見た。

「最終判断は、代表が行う」


 ガルドが、目を細める。

「……俺か」

「ああ」


 重い役目だ。


「責任を、分け合う」

 レオンは続ける。

「逃げ道も、用意しない」


 沈黙の後、ガルドが頷いた。

「……やってみる価値はある」


 夜。


 レオンは、帳簿に新しい一文を書き加えた。


 合議制補足規定

 ・議論期限を設ける

 ・期限超過時、代表が決断

 ・結果責任は合議体が負う


 完璧ではない。

 だが、現実的だ。


 エマが静かに言った。

「……また、嫌われますね」

「嫌われる役は、必要だ」


 レオンは、窓の外を見た。


 雨は止んでいる。

 だが、地面はまだ濡れている。


 遅れた決断は、必ず何かを失わせる。


 第11話は、

 「正しさだけでは回らない」という事実を、

 全員が引き受けた回だった。

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