第10話 正論は、怒りの形をしてやって来る
集会は、領主館の前で開かれた。
正式な呼びかけはない。
だが、人は集まった。
二十人、三十人。
やがて五十人を超える。
誰かが音頭を取ったわけではない。
ただ、「話をしなければならない」という空気が、そこにあった。
レオンは、逃げなかった。
館の階段に立ち、住民たちを見下ろす。
いや——同じ高さに立つ。
「……説明してもらおうか」
最初に声を上げたのは、中年の男だった。
「なんで、俺たちが金を出さなきゃならない」
怒号ではない。
だが、溜まっていた感情が、重く乗っている。
「今まで、領主様が何とかしてきたじゃないか」
「そうだ」
「急に、突き放された気分だ」
それは、もっともな感覚だった。
レオンは一歩前に出る。
「突き放したつもりはない」
「嘘だ」
別の男が遮った。
「今まで、あんたが全部決めて、全部出してきた」
正論だ。
「俺たちは、信じたんだ」
声が震えている。
「だから、税も払った」
それも、正論だった。
レオンは、すぐには答えなかった。
ここで言葉を急げば、
すべてを否定することになる。
「……一つ、聞かせてくれ」
レオンは静かに言った。
「この領地が、前に壊れた理由は何だ」
ざわめきが起きる。
「約束を、信じすぎたからだ」
前に出てきたのは、ガルドだった。
住民の側に立っている。
「領主が変わるたびに、期待して、裏切られた」
「だから、考えるのをやめた」
「だから、逃げた」
ガルドは、レオンを見た。
「今は違う。あんたは、裏切ってない」
空気が、少し和らぐ。
「だがな」
ガルドは続けた。
「今のやり方は、あんたが倒れたら終わりだ」
沈黙。
それが、住民側の核心だった。
ミラが、一歩前に出た。
彼女の声は、強くなかった。
だが、よく通った。
「……私たち、考えなくなってました」
「領主様が何とかする、って」
視線が集まる。
「でも」
ミラは、拳を握る。
「それって……前と同じじゃないですか」
その一言で、空気が変わった。
怒りが、戸惑いに変わる。
「だから、負担を分ける」
レオンは言った。
「決めるのも、一緒だ」
「でも」
最初の男が言い返す。
「失敗したら?」
「責任は?」
「誰が取る?」
レオンは、即答した。
「俺だ」
ざわめき。
「最終承認は俺がする」
「だが、決める過程からは、逃げさせない」
それは、突き放しでも、放棄でもない。
巻き込みだった。
「……分かった」
ガルドが言った。
「一つだけ、条件がある」
「言ってくれ」
「逃げるな」
「逃げない」
「説明を、やめるな」
「約束する」
ガルドは、住民たちを見回した。
「聞いたな。約束だ」
誰も拍手しなかった。
だが、誰も帰らなかった。
それが、この集会の結論だった。
夜。
エマが小さく息を吐く。
「……綱渡りですね」
「いつもだ」
「ですが」
彼女は言葉を選ぶ。
「今日は……前進しました」
レオンは頷いた。
未納率は、変わらない。
人口も、増えない。
だが。
この領地で、初めて“責任”が共有された。
それは、数字にはまだ出ない。
だが、確実に——
次の段階へ進んだ証だった。




