旅立ちの前日
「そういえばさっきの話、例の勇者さんがでてきませんでしたね。ルゥさん、ドラゴンちゃんに雷霆を」
マナがあまり興味無さそうに、庭で素振りをしながらルゥに魔法をねだっていた。
「そうだな・・・私も勇者一行という割には勇者は見たことがないな。噂では後ろで応援しているだけとか聞いたことがあるが・・行くぞ、雷霆」
バチバチっとドラゴンちゃんの上下に魔法陣が浮かび、雷が何重にも行き交う。
「湯者・・ああ、あの方ですね・・近衛の新人よりは少し強い程度でしたね・・・・あ、そう言えばダンジョンに入っている間に私清拭に退団となったようですよ」
カルラがそう言いながら素振りをしている横で、マナがドラゴンちゃんを持ち、口に石を加えさせていた。
「そうだね、その方がスムーズかと思って伝えておいたんだ。カルラは私物がほとんどないから、そのまま旅立ってくれてもいいってさ。鎧とかはそのまま処分しておくだそうだ」
ハジメは珍しく、ドラゴンちゃんを興味深げに観察していた。
「お、そろそろ吐くそうだ。マナ、出力は抑えてあるからそこの岩に口を向けてみろ」
ルゥが近くに落ちていた岩を指差す。
「了解、ではドラゴンちゃん行きますよ。電磁砲発射!」
マナが変なポーズを取ってドラゴンちゃんを頭上に掲げている。
「キュィイイイーー」
パコーン
ドラゴンちゃんの目が光ると、口から発射された石が岩に当たり砕け散った。
「キュッキュィー」
ドラゴンちゃんの目がまだ光っている。
「ふむ・・・こいつ・・・調節して撃てるようになったと言っているぞ。素晴らしい成長だ」
ルゥがどこから持ってきたのか、白衣姿でメモを取っている。
「マナ、こっちに撃ってきなさい」
カルラが剣をマナに向けた
「行きますよカルラ!電磁砲発射!!」
バチっとドラゴンちゃんの口から空中に電気が放出される。
「キュッキュッ・・キュイー」
「ふむふむ、マナのことを馬鹿にしているぞ。それはそうと、魔力と電気の力をどちらにすればいいのか迷ったらしい」
「成程・・・・我々は魔力を通じて魔法現象を起こすけど、この子は魔法として放出するか、自然現象として放出するかを選べるんだね」
ハジメも感心しながらドラゴンちゃんの口の中を覗いている。
「キュッキュッ・・キュイッキューイ」
どこからともなくアイスちゃんも近づいてきルゥに顔を向けて鳴いた。
「ふむふむふむ・・・ドラゴンは馬鹿だから仕方ないが、防御障壁も魔法の遠隔操作もできるとのことだ。吸収は奴の十八番、やっと意識が定着してきたとか訳の分からないことを言っているが。それ以降は私の脳では理解できない言語だな」
ルゥドラゴン達の言葉を翻訳をしながらメモを続けている。
「この子達・・・普段からそんなことを話しているのね。結構しっかりしていたのね・・・」
「キュィー」
アイスちゃんがカルラの方にのってドラゴンちゃんに向けて指を立て、挑発した。
「かかってこい、この脳筋め。だそうだ」
「キュッキュッキュッ!!!」
「わかったわかった・・ほれ、石だ。そしてサンダーボルト」
ルゥは器用にドラゴンの尻尾に触ると、雷撃を放った。
「キュッキュッ!!キュイー!!」
ドラゴンちゃんの目が光る
「「え・・・ちょ・・・・!?」」
バカァン!!
防御障壁を貫き、氷の壁で石は砕け散っていた。
「キュッ!キュッ!」
「ふむふむ・・その程度ハエをはたき落とすと同様。貴様は土にでも埋もれているが良い。だそうだ」
「「キューー!!!!!」」
ドラゴン達は取っ組み合いの喧嘩を始めた。
「たまにじゃれていますけど、これは喧嘩だったのですね・・・」
「ええ、仲良くしているのかと思ったけど・・また死ぬかと思ったわ」
「「キュイーーー!!!」」
「違うわボケ!これは世界の均衡をかけた災厄なり。だそうだ。なるほどわからんな」
ルゥはそう翻訳すると、喧嘩をしている二匹に向かってよくわからない言葉で話しかけていた。
「さて・・・あのダンジョンをクリアできたならもう、俺の教えは必要ないということ。二人はこれからどうしたい?」
ハジメはその風景を見ながら剣士二人に話しかけた。
「私は・・・ドラゴンを切りたいです」
カルラは真面目な顔で答えた
「私は・・・・・・・友達に会いたいですね、どこに居るかわかりませんが」
マナも少し悲しそうな顔で答えた。
「そうだね。魔剣は今作ってもらっているから、少し時間がかかる。それと、まだもう一つ魔石が足りてないから、いいものがあると持って行ってあげてくれるかい?それと、できたらここに届けてもらえるよう頼んでいるから、たまには寄るといい。ルーナも一緒に行くと言っているし、世界を見てくるといいよ・・・では、最後に。二人まとめてお相手しよう」
ハジメが魔剣を鞘から抜き放つ。
「ルゥの数段上の強さね・・・ダンジョンボスのおかげでよくわかるようになったわ。あの魔剣のやばさもね」
「そうですね・・・でも震えより先にぶっ殺してやりたくなってきましたよ」
二人は剣を構え
「いくよ」
剣がぶつかり合った。
「全然勝てる気がしな・・・い・・・ぐぇっ」
マナが力尽きた。
「かすり傷一つすら・・・ふぇぇ・・」
カルラが力尽きた。
「ふむ・・・ハジメ、手加減はしてやらんのだな。こんなにボロボロになって・・・」
ルゥが気の毒そうに地面に伏している二人を見る。
「ああ・・でも強くなったよ。二人がかりだとしても、俺の剣を受け切った・・・いつかは俺を超える日が来るかもしれないね」
「・・・見たことのない笑顔だぞ。私はやらんぞ。殺されたくはない。な?お前ら」
「「キュィーー」」
るぅの両肩に乗ったドラゴン達が声を揃えてそう言った。
「そうか、残念。二人を運んでくるよ」
ハジメは剣を鞘に仕舞い二人を寝室まで運んで行った。
「ふむ・・・お前らの主も大変だな・・・ん?バーサーカー同士仲がいいって?そうか・・・・確かに、ダンジョンでもあいつら笑いながら襲ってきたからな・・・そろそろ主のところに行ってはどうか?」
「キュキュイッ」
「大した怪我ではないと・・・どうせ茶を飲めば治る?お前らも厳しいな・・・ここの住人は魔族よりも魔族な連中だ・・・我々の中でもそんなスパルタはいなかったぞ?お、いい匂いがしてきたぞ、入るか」
ルゥはドラゴンたちと会話をしながら、夕食の匂いに釣られて歩を進めた。




