修行⑧食糧調達
「食材も昼で尽きたしな・・・ん?丁度いいか」
俺は魔力探知に引っかかった十数名の人間の気配を察知した。街道に入ってからは脇道に逸れ、とてもゆっくり移動している。
隣町からこの草原十キロ程まで某魔法使いが張った薄い結界があり、そこで動くほぼすべての生物の気配を指輪を通して伝えてくれるのだ。魔道具というらしいが仕組みは全くわからない。
「みんなお疲れ様。そろそろ修行は中止。食材の調達に行くよ」
俺がボロボロの四人に声をかけると、身体をプルプル震わせながら
「お・・・おつかれした・・・」
とエンデが死にそうな顔でカルラにお辞儀をした。
「まだまだね、明日を楽しみにね」
カルラがニチャァと笑顔を返した。ふとそばに目をやると
「・・・・・・・・」
「おい!!おきろゴルァ!!」ベシッ
ヤンが立ちながら気絶していたらしく、マナが頬を叩いて起こしていた。
「みんな仲良くなれたみたいだね、よかったよ。では残念なお知らせだ、我が家には食材がない。」
「「「「ぇ”えーーー!!」」」」
見事な合唱だ。
「だが、安心してほしい。食力はすぐ傍まで来ている。狩りの時間だ」
「狩り・・・ですか。懐かしいですね・・・・今回の獲物は?」
カルラが真面目な顔で俺に問いかける。
「初めから言っては面白くないだろう?俺が賞金首たる由縁だよ、マナ」
マナの方向に目をやるも
「ほぇー?」
と間抜け面をしているだけであった。こいつの初めて会った時の気迫はどこに行ったんだろうか。
「団長から聞いたことがあります。私は経験があるので覚悟はできています」
ハァハァいいながらヤンが答える。
「あの話ですね・・・私は初めてですが、足手まといにはならないようにします!」
プルプル震えながらヤンがガッツポーズしている。
「よし、ではいくぞ。ついてこい」
五人は町とは反対の方向に駆け出した。
「・・・・ここまで。これ以上は斥候に気付かれる」
木陰に五人は隠れ、様子を伺う。
「俺一人ならそのまま突撃して終わりなんだけどね。よし、エンデとヤンはこれを使いなさい」
エンデとヤンに少し硬そうな木の棒が渡される
「・・・ということは、殺さずということですね?」
ヤンが真剣な眼差しでこちらを見ている。
「なるほど!!師匠、最近お金使いすぎて素寒貧ですもんね!!!」
マナが眩しい笑顔でこちらを見ている。
「・・・・誰かが服を買いすぎたのと、誰かが飯をたらふく食うからだな・・・・」
頭が痛くなってきた・・・・・
「賞金首は殺すより生きたままの方が倍近く報酬は違いますからね。どう仕掛けますか?行商のように見えますが、偽装ですね・・・斥候が2、剣を携えているのが7・・・弓を背負っているのが1・・・荷台は二つ・・・後ろにもいますね・・・全体の数は?」
カルラだけが真剣に相手を分析しているようだ。
「15だ。後ろには1・・・おそらく大将格・・・ということは中身は奴隷か。後ろの荷台に四人いる」
辺りは暗くなっており、向こうもこちらの気配には気づいていない。
「つまり・・・・あの重そうな前の荷台には食料がたんまりと・・・・」
マナの息遣いが荒くなっている
「そうですね、あの人数を賄うためにはそれなりの量がいりますからね・・・」
エンデも息遣いが荒くなっている。この二人は気が合いそうだな。
「よし、四人であれば特に指示もいらないだろうから、今日の訓練で得た技術を使ってやってみなさい。俺は荷台の子たちを助けに行くよ」
「「「「了解!!」」」」
四人はそういうと一気に駆け出した。
物音に斥候が気付き
「敵襲!!4人だ!!!右2時の方向!弓!!撃て!!!」
向こうの斥候も悪くない動きをしている。遠距離攻撃で牽制するのはセオリーだろう。弓使いの弓が放たれる。スキルを使用した矢は音速を軽く超える。この弓使いの使う弓はコンポジットボウであろう、白い骨があちこちに使われている。
「団長たちの剣より遅いですね」
ヤンが軽く矢を弾く
「矢ってこんなに遅いんでしたっけ・・・」
エンデも軽く矢を弾く
二人が矢を弾いてる間にマナとカルラが斥候に切りかかる。
「「うらぁあああああああ!!!!」」
横薙ぎと兜割だ。どう見ても殺す気で切りかかっている。あのバーサーカーどもめ・・・
ガキィン!!!
相手方の剣士がなんとか二人の剣撃を受ける。受けたがマナの横薙ぎを受けた一人は吹き飛び、木に叩きつけられ、カルラの兜割を受けた一人は地面に頭から突っ込んで動かなくなった。
「ひっ!!こいつら化け物だぞ!!!!!!お頭もきてくれ!!」
斥候が後ろに飛び退いた。
練度は十分だ・・・伊達にここまでたどり着いたわけではなさそうだ。
だが相手が悪かったとしか言いようがない・・・
「なんだこいつら、よえぇぞ・・・てめぇが大将か?骨はあるんだろうなぁ!?」
マナがニヤリと笑う。
「なんだこいつら、木刀じゃねぇか、舐めやがって・・・」
お頭さんはご立腹の様子である。その間にヤンとエンデが弓使いと剣士を一人ずつ倒していた。
「マナさんや団長と比べるまでもないですね」
エンデが一息つきながら辺りを見回していた。
「まだ斥候が居る。油断するなよ、行くぞ!」
ヤンが冷静に答える。
カルラはうんうんと頷きながら、木刀を小枝に戻し腕を組みながら指でクルクル回している。どうやら今回の戦闘にこれ以上参加するつもりはない様だ。
ガンガンガンッ!ヤンとエンデが次々と剣士を倒す。残りは斥候とお頭さんだけになった。
何故かヤンとエンデも棒切れを投げ捨て、腕を組んでマナを見ている。
「手を出すんじゃねぇぞてめぇら!!その首もらい受ける!!!」
「「「だから、殺したらだめだって」」」
マナが上段に木刀を構えそういうと、三人が声を揃えてつっこんでいた。
「てめぇら舐めやがって!!!お前はナイフを投げて援護しろ!!」
お頭が顔を真っ赤にしながらマナに切りかかる。お頭の獲物はとても長い大剣だ。あれを直接受けるとただでは済まない。
「こんばんは。お怪我はないですか?縄をほどきますね」
俺はそっと後ろの荷台に入り込み、四人の縄を切った。
う~ん・・・どの子も美人揃いだ・・・・
ドゴォン!!
マナはお頭の剣をそのまま受け、ナイフが脇腹をかすめたようで血がにじんでいる。
「思った以上に重い剣だ・・・しかしてめぇ、二対一とは卑怯な!!」
マナが悔しそうな顔で斥候を睨みつけている。
「フン、お前のような化け物には何人でかかろうと卑怯と呼べるか!!!」
お頭さんと斥候の連携はなかなかのものだ。お頭さんの大振りな攻撃の隙を斥候が
「苦戦しているのですか?手助け致しましょうか?」
カルラがクスクスと手を上品に口に当てながら笑う。
「なめんな!!卑怯者が!!成敗してやる!!!オラァ!!!稲妻キィィィック!!!!」
マナがそう言いながら高く飛ぶと、何かもごもご口ずさみ、手のひらの何かを投げ、お頭の頭を超えていった。
「うお!!そんな蹴りごときで・・うわっ!!」
斥候が小石に躓いてこけた。その顔面に向かってマナが飛び蹴りを食らわせた。ガードをしようとした斥候の腕が何故か上がっていなかった。
「ハァーー・・ハァーーー・・・・・残りは貴様だけだぁ!!!」
マナはふらふらしている。おそらく魔法を使ったのだろう。
「なんだこいつは・・・・まぁいい、他のやつらは手を出す気もないみたいだしな・・・死ねや!」
お頭が渾身の力でマナに頭めがけて剣を振り下ろす。
「ここだぁああぁぁぁあ!!!!!」
マナが一歩前に出て両腕めがけて木刀を振り上げる、木刀が赤く光っている。これはまずい。
お頭さんの腕が宙を舞った。
「うぉらあああああああ!!とどめだあああああああぁぁ!!!
マナの木刀がお頭さんの首を捉える。
「はい、ここまで」
俺はお頭さんの鳩尾に蹴りを入れ吹き飛ばし、マナの木刀を掴んだ。
「ハァー・・・!!」
マナがこちらを睨みつけている。
「おいおい、目が血走ってんぞ・・・・では、パーティタイムだ。こいつらを縛って食料を奪うぞ。」
そう指示を出すと
「うひょーー!!!」
マナがそう叫びながら前の荷台にもぐりこんだ。どうやら脇腹の傷も深くはないようだ。
「では私たちは輩どもを縛りましょう。後ろの荷台の方々は歩けますか?」
美女たち4人はコクコクと頷いた。
「わかりました。町は近いので、空いた荷台に輩を放り込んでおきましょう。マナ、いいものはありましたか?」
ヤンとエンデが手早く輩達を縛り荷台に放り込んでいく。
カルラはスタスタと前の荷台に近付き、荷台のシートから出ているマナの尻を叩きながら問う。
「あいたっ!干し肉とか、水とか・・・穀物はないなぁ・・・あ、なんだこれ・・・重たいなぁ・・・」
マナは透明な大きな石を見つけた様子で、転がして地面に落とす。
「これは、魔石ですね・・・・しかも大きい・・・」
カルラが神妙な顔で魔石を観察している。
「食べ物じゃないね、他には・・・・あ、パンがいっぱいある!!あとぶどうジュースとチーズもあった!!果物も!!これはもうパーティーだね~」
マナが蔓延の笑顔で両手いっぱいに食物を持って家の方向に歩き出した。どうやら彼女の仕事は終わった様だ。
「マナ、もう少しかかるから家で夕食の準備を頼むよ」
「ふわぁい・・・わかりまひた・・・」
パンを頬張りながら走り去るマナにそう伝え、魔石を見る。
「これは・・・大きいね。密輸か・・・・奴隷も居たし・・・・魔石はこちらでいただこう」
俺は魔石を抱える。
「そうですね・・・この大きさだと恐ろしい金額になると思います。豪邸くらいは建つでしょうね・・・奴隷と言う割には美人すぎますし、手を出された様子もない。どういうことでしょうか?」
カルラは美人たちの体をチェックしながらそう呟く
「私たちは、主都から連れてこられたんです。手は出されていません・・・食事も与えられていました。身分もそこまで高くないのに・・・私たちは行商の子供なんです」
美女の一人がそう言った。
「まぁその辺は憲兵さんたちが調べてくれると思うから、じゃあ、カルラ、あとは頼んだよ」
俺もあまり長いしたくないので家に向かって走る。
「わかりました。では終わり次第ご自宅にお伺いいたします。我々は町で食事を済ませますので~・・・」
遠くのカルラが手を振っている。俺も手を振り返し帰路に着く。
「しかし大きい魔石だ・・・・、加工も難しそうだな・・・」
そう呟き、家が近付いてきた。
「師匠~~おかえりなさい~、食事の準備はできていますよ!え、近衛さんたちは来ないんですか?じゃあ三人分余計に食べれますね!!」
マナ満面の笑みでパンやチーズを口に放り込んでいる。傷口はもう塞がっている様子だ。
夕食が終わり、マナは疲れた様子ですぐに寝室に向かった。
少し部屋を覗くといびきをかきながら寝ていた。
俺は夜空を見ながら優雅なティータイムを満喫することにした。
「世界樹も大きくなってきたし、魔石も手に入ったし・・・そろそろかな・・・」
夜風が頬を撫で、俺は眠った。
マナは人外への道を順調に登っています。




