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第36話 【AIの支配者】ですが、推しの「無駄な時間」を愛したくて、効率化マニアの自分をアップデートできた

アレン(admin)の世界は、数字とロジックで構成されている。 巨大IT企業「Nebula Corp」のCEOである彼は、自らの生活を秒単位で最適化していた。 食事は完全栄養食を10秒で摂取。 睡眠はレム睡眠を計測して最短時間で済ませる。 移動はヘリかプライベートジェットで最短ルート。


「非効率だ」


それが彼の口癖だった。 無駄な会議、無駄な会話、無駄な移動。 それらを極限まで排除し、世界をシステム化することこそが、彼の正義であり、生きがいだった。


そんな彼にとって、夜の小狐ルルの配信視聴は、唯一「脳のクールダウン(メンテナンス)」としてスケジュールに組み込まれた、計算された休息時間だった。


   ◇


その夜の配信。 ルルは、広大なオープンワールドRPGをプレイしていた。


「今日はね、この世界のボスを倒しに行くよー!」


『admin: ……了解した。私の計算では、最短ルートで進めば45分でクリア可能だ』


アレンはサブモニターで仕事である世界各国のサーバー管理を片付けながら、メインモニターでルルの効率的なプレイを見守るつもりだった。 しかし。


「あ! 見て見て! お花が咲いてる!」


ルルは開始5分で、街道を外れて花畑に突っ込んでいった。 そして、ゲーム内のカメラ機能を起動し、ひたすら花のスクショを撮り始めた。


『admin: ……ルル。その花は低解像度のテクスチャだ。収集アイテムでもない。撮影するメリットがない』


「えへへ、でも綺麗じゃない? あ、あっちには蝶々がいる!」


ルルはさらに道を外れ、蝶を追いかけて森の奥へ。 そこへ雑魚モンスターが現れるが、ルルは「倒すのかわいそう」と言って逃げ回り、結局、元の場所に戻ってきてしまった。


「あー、疲れちゃった。ちょっとここで休憩しようか」


ルルは、ゲーム内のベンチに座り、ただ流れる雲を眺め始めた。 ボスを倒すどころか、一歩も進んでいない。 開始から30分。成果ゼロ。 アレンの眉間に皺が寄った。


『admin: ……理解不能だ。なぜメインクエストを進めない?』

『admin: レベル上げもしない、アイテムも拾わない。ただ時間を浪費しているだけだ。これでは「成果(クリア)」が得られないぞ』


彼にとって、成果のない時間は「悪」だ。 イライラした彼は、思わずコメントで指示を飛ばそうとした。 『座標(X:500, Y:200)に移動しろ。それが最適解だ』と。


しかし、その時。 ルルが、画面の向こうでふんわりと笑った。


「ふあぁ……。こうやって、何もしないでボーッとするの、気持ちいいねぇ」


「adminさんは、いつも忙しいんでしょ? たまにはこうやって、僕と一緒に『無駄な時間』を過ごそうよ。 何もしない贅沢ってやつだね!」


「……ッ」


アレンの手が止まった。 「何もしない贅沢」。 その言葉は、彼の辞書には存在しない概念だった。


彼は無意識に、自分のバイオメトリクス(生体データ)を確認した。 心拍数、安定。 血圧、低下。 脳波、α波(リラックス状態)が最大値を示している。


「……なんだ、これは」


論理的には「時間の浪費」だ。生産性はゼロだ。 しかし、彼の脳は、かつてないほどクリアになり、深い安らぎを感じている。 常に張り詰めていた神経が、ルルの「無駄」によって解きほぐされていく。


(……私は間違っていたのか?)


効率だけを求めて、常に最短距離を走り続けてきた。 だが、ルルは教えてくれた。 「寄り道」や「無駄」の中にこそ、数値化できない「幸福(バグ)」が存在することを。


『admin: ……計算終了。「無駄」の価値を再定義(アップデート)する』


アレンは、打ち込みかけていた指示コメントを消した。 そして、ゆっくりとキーボードを叩いた。


『admin: ……ああ。悪くない景色だ。もう少し、ここで雲を見ていこう』


それは、効率の鬼だった彼が、初めて「停滞」を肯定した瞬間だった。


   ◇


翌日。Nebula Corp本社。


全社員の端末に、CEOからの緊急通達が一斉送信された。


『業務改革命令: 本日より、全社員に毎日1時間の「何もしない時間(アイドルタイム)」を義務付ける』 『PCの前でボーッとする、散歩をする、空を見るなど、生産性のない活動を徹底せよ。これは命令である』


社内は騒然となった。 「あの効率厨の社長が!?」「どうしたんだ!?」 しかし、いざ導入してみると、リフレッシュした社員たちの集中力が上がり、結果的に会社の業績は過去最高を記録することになる。


   ◇


その夜の配信。


「みんな聞いて! 今日はゲーム進まなかったけど、楽しかったね!」


ルルはニコニコと笑っている。 そのコメント欄には、昨日までの「指示厨」ではなく、ゆったりと会話を楽しむ支配者の姿があった。


『admin: ……肯定する。効率だけが正解ではないと学習した。これからは、お前の「無駄話」も一言一句漏らさず記録する』

『ミケ: ほう、あの機械人形が随分と丸くなったものだ』

『名無し: adminがデレた!? 明日は雪かな?』


『リョウタ: (……adminが「無駄」を許容し始めた……。いいことだけど、社員に「ボーッとしろ」って命令するのは、やっぱり極端なんだよなぁ……)』


ルルは、自分の「サボり」が、世界最大企業の労働規定を書き換え、数万人の社員に休息を与えたことなど露知らず。


「あー、のんびりしたなぁ。明日もゆっくり遊ぼうね!」


そう呟いて、あくびをした。 AIの支配者は、そのあくびの一つ一つを「至高のデータ」として、大切に保存するのだった。

毎日0時に1更新を目指して頑張っています。


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